では引き続き1975年の「ハッピー・キャンプ事件」の顛末を紹介していこう。但し、(上)にも書いたように以下のエピソードはサーニーのレポートでは全く触れられておらず、その記述はもっぱらヴァレの著作『コンフロンテーションズ』に拠る。

【エピソード5】

■1975年11月2日(時間は明記されていないが、この日は日曜日で、かつ「乗り物」から外の風景が見えたという体験者の証言=後述=もあるので日中かと思われる)

スティーブ、スタン、ヘレンをはじめとする一行5人は、一帯の調査に取りかかるべく、ケイド・マウンテンの麓の渓谷を車で走っていた(注:地理的な関係がいま一つわからないが、一行は「着陸現場」に向かう途上だったと推測される。ちなみにケイド・マウンテンというのは近くの山である)。しかし、辺りが深い霧で包まれてしまったため、5人は途中で引き返すことにした。

その時、崖から大きな岩が落ちてきて、車の近くで大きくバウンドした。この辺から彼らの記憶は定かでなくなる。スティーブは、奇妙な生き物が現れたので銃に手を伸ばしたところ、その生き物は「そんなことをする必要はない」と話しかけてきた。ヘレンが「岩だわ、気をつけて!」と生き物に声をかけたところ、「安心しなさい。わたしはケガなんかしない」という返事が返ってきた。

彼らはそこで「空に浮かんでいる物体を見た」。ヘレンは、自分の体が光に包まれ、それからその物体に吸い上げられたように感じた。その内部でヘレンは「搭乗員」と会話をかわした。その生き物は、何やら透明な物体を示して「これは金から作られたものだ」と言った。ヘレンは「そんな透明なものが金であるわけがない」と答えた。相手は簡潔にこう応じた。「透き通った金というのもある。あなた方の聖書にも書いてあることだ」。

また、彼女が「自分の体験を証明できるようなものが何か欲しい」と言ったところ、相手はいったん許可を与えたものの、しばらくして「何も持っていかないように」と言い出した。彼女は「あなたはうそつきだわ」といって泣き出したことを覚えている。ヘレンによれば、この間、周囲のものは「何もかもがスローモーションのように動いていた」。また、彼女が連れ込まれた乗り物は、外から見るよりも中のほうが遥かに広かった。

注:『コンフロンテーションズ』では、ヘレン以外の「アブダクション」関連の証言はほとんど紹介されていないが、スティーブは「上下に透明な窓のついた乗り物に乗りこんだこと」「その窓を通してチャイナ・ピーク(注・近くの山の名)が見えたこと」を証言しているという。

記憶がハッキリしない状態に置かれた彼らがようやく意識を取り戻したのは、車の中だった。気がつけば、一行の車は山道を下っている最中で、その車中で彼らは、なぜか古い聖歌「罪 重荷を除くは」を声を合わせて歌っていたのだった。


罪 重荷を除くは There Is Power in the Blood of the Lamb

 




以上が11月2日の事件の顛末である。我々が知りたいこと――つまりそのエイリアンの姿かたちについて全く論及がないのはこの種の事例につきものの「健忘」のせいなのかもしれない。その辺はいささか残念だが、その代わりというべきか、ここにはなかなか興味深いくだりがある。「透明な金」をめぐる問答である。では本当に聖書にはそんなことが書いてあるのか。然り、実際に「新約聖書」中の「ヨハネの黙示録」には、こんなくだりがあるのだ。

「都の城壁は碧玉で築かれ、都は透き通ったガラスのような純金であった」(21章18節)

「また、十二の門は十二の真珠であって、どの門もそれぞれ一個の真珠でできていた。都の大通りは、透き通ったガラスのような純金であった」(21章21節)

しかし、このエイリアンは何故「聖書」の内容を知っているのか? さらにいえば、記憶が回復した際、彼らが声を揃えてキリスト教の聖歌を歌っていたのはなぜか? そもそもこのエイリアンと人間の奉じる宗教とのあいだには、いかなる関係があるというのか? 全く意味がわからない不条理な話なのだが、個人的な感想を言わせてもらえば、「エイリアンとキリスト教」というその取り合わせには何かしら心をざわつかせるものがある。もっといえば薄気味が悪い。

【追記】
ここで、何でオレが「薄気味が悪い」と思うのか、ひとこと説明しておこう。そもそも円盤業界には「旧約聖書のエゼキエルが見たのは宇宙船だった」的な言説が昔からあって、つまり「キリスト教の神様≒宇宙人」みたいな図式を唱える人たちが一部にいるワケだ。

ということになると、そもそもエイリアンが「オレたちは聖書のことをよく知ってるゾ」ということを誇示したこのエピソードがいったい何を意味しているのかというと、まず頭に浮かぶのは、彼らは「オレたちが人間に宗教を与えてやったんだゾ」というコトを言いたかったのだろう、という解釈である。この解釈にたった場合、帰りの車中でみんなが聖歌を歌っていたというエピソードも、「あぁありがたや、エイリアン≒神様にお会いできて良かった良かった、その喜びをわかちあいましょうネ」という文脈でみなさん神を称える歌を歌っていた、ということになるのであろう。まぁしかし、別にクリスチャンでもない仏教徒としてのオレは、「何いってやがんでェ、オマエラ如きに偉そうな顔されたくねえヤ」と地球人代表(笑)として反撥したくもなるし、何か気色悪い。

あるいは別の解釈というのもあって、エイリアンはこういうセリフを吐くことによって、「オレらは地球人の精神生活は十分にわかってますから。オマエラもう丸裸ですから」というコトを言って脅しにかかったのだろう、という風に捉えることもできる。こちらの説をとった場合も、当然こちらとしては気分が悪い。なにを偉そうに上から目線でモノをいいやがって、という感じである。もっとも、この仮説に立った時には、例の聖歌というのは「悪しきエイリアンに脅されたけど、ワレワレは屈しない、だって神様がついていてくださるから」というニュアンスで、みなさん自らを鼓舞するために歌ったのだろうなぁという風に理解できる。こっちの解釈だと、何か物悲しさの漂う聖歌になるわけだけれども、それはそれでこのシーン、エイリアンの不気味さが際立ってくる。というわけで、いずれにせよこのエピソードにはどっか不穏な雰囲気が漂っているような気がしてならないのである。


いや、いささか脱線してしまったが、話を元にもどそう。「気味が悪い話」ということでいえば、ヴァレはこのほかにも一帯で起きた奇怪な出来事についての証言を幾つか紹介している。

たとえばこんな話である――1976年のはじめの、或る晩のこと。町にただ1軒ある食堂に、一人の男が入ってきた。肌は青白く、その目は「東洋人のよう」だった。真冬だというのに、シャツを着ただけでコートはなし。彼は常に周囲に笑い顔をみせていたが、その顔はしかめっつらをしているように歪んでいた。男はステーキを頼んだが、ナイフとフォークの使い方を知らないようだった。男は、グラスに入っていたジェロ (注・ゼラチンでできた果物風味のデザート)を一口で飲み干そうとした。そして最後の最後。彼は金を払わずに出ていこうとした――これなどは円盤事件につきものの「黒服の男 Men in Black」の典型的ストーリーではないか(そして、石塚英彦ではないけれども、MIBの間では「ゼリーは飲み物である」という文化がかなり一般化しているらしい!)。

奇妙な話はまだまだある。光体の出現と同時に起きたポルターガイスト現象。夜間に飛ぶ巨大な鳥。光体を追うジェット機。あるいは、先に紹介した「中空に吊り上げられた車」のエピソードなどは「空中浮遊」を連想させたりもする。加えて、一帯はいわゆる「サスカッチ」の目撃多発地帯でもある。これは検索してみても何だかよくわからんかったが、ヴァレによればこの辺には「Puduwan」なる超自然的存在についての伝説も伝わっているというのである。

もちろん、一連の事件に「疑念」を差し挟むこともできないではない。先のサーニーのレポートによれば、1975年秋から翌年にかけての目撃集中期には、10数人の「円盤フリーク」とも称すべき人々が町に現れ、連日のように山にのぼっていたという(つまり、一連のエピソードに出てくるような人たちが結構いたということなのだろう)。そして、その中でも最も熱心だったのが、例のヘレン・ホワイト。一連のエピソードの最重要人物ともいうべき人物である。実際この老婦人、真夜中だというのに、呼びに来た若者たちと連れだって山中までUFO探索に出かけていっている。

つまり一連の事件は、UFOにとりわけ強い思い入れを抱いていた人物の身の回りで起きていたわけだ。上に記した「エピソード5」なども、よく読めばもっぱらヘレンの証言から成り立っている。確かに発端は二人の男性の「発見」であった。だが、そういうバックグラウンドを考えてみると、彼女の存在がその後の「共同幻想」の拡大・発展におおいに寄与したという可能性も十分考えられるのではないか(彼女をめぐるポラロイドカメラのエピソードは、そうしてみると実に意味深長である)。

しかし、である。この辺が微妙なところなのだが、「妙なリアリティ」とある種の「胡散臭さ」とが表裏一体になっているのがUFO現象の核心である、という立場を取るのであれば、この妖しさこそが正統的なUFO事件のあかしだと言えなくもないのである。

ロズウェルもフラットウッズもイーグルリバーもいいけれど、願わくばあまり知名度のないこのハッピー・キャンプもまたUFO事件の聖地の一つに加えてやっていただけないか。とりあえずいま考えているのはそういうことである。

*「いや、この事件の情報があんまり出回ってないのは、コレがhoax認定されてるからだから。深読み無駄だから」みたいな情報をお持ちの方は是非ご教示くださいませ  m(_ _)m