郡純氏の『異星人遭遇事件百科』は、おそらく筆者が「ボクのかんがえた、さいきょうのUFO事件」を事実の如く書いてしまったところに生まれた奇書ではなかったか。前回はそういうことを書いた。

その関連で、「実はこれも似たケースではなかったか」とオレが睨んでいる案件がある。以下、いささか遠回りになるけれども、その話をしてみたい。

匿名掲示板の2ちゃんねるのオカルト板に、かつて「ハードなUFO議論モトム 2」というスレがあった。そこを舞台に―――オレはリアルタイムで立ち会ったわけではないけれども、具体的にいうと2002年、エンジェル・パスというハンドルネームで盛んに書き込みをしている人物がいたのだという。

そのログを読むと、このエンジェル・パス氏は相当にUFOに詳しい人物のようであるし、言ってることもかなりマトモである。自らについては「大学卒業後、某雑誌社に就職」したとか言っている。ただ、それが本当かどうかはもちろんわからない。

さて、そんな人物が、このスレッドでとつぜん奇妙な話を語り出す。曰く――


かつて或る県の公益財団法人が、UFOを調査・研究するチームを組織していたことがあり、自分はそれに参画していた。

これはオウム事件を受け、青少年がああいうのにはまらんようにエセ科学を解析して啓蒙しようという狙いで立ち上げられたもので、その調査は若手科学者を中心に3年ほど続けられた。

だが、財団には公的資金が入っていたため自治体の議員からクレームが入り、研究は頓挫してしまう。公的な記録は失われた。しかし、個人的なデータは生き残っている。2年後をメドに研究内容を本にして出したいと思っている。


まあ、おおむねこのような内容で、地下鉄オウム事件の1995年以降、つまり90年代後半にこういう活動があったということを主張しているのである。で、このログには、具体的な未解明事件の一例なども語られている(簡単にいうと、夜間、県道沿いの森に車を停めていたアベックがパンケーキ型の飛行物体に追われ、逃げていく途中で取り締まり中の警官に遭遇、難を逃れた――といった感じのものである)。

だがしかし、もちろん彼が言っていたようなUFO研究報告の本が出版されることはなかった。あれはいったいナンだったのか、という謎をUFOファンの間に残したまま、このエンジェル・パス氏は闇に消えていったのである。

さて、それでは我々はこの案件をどう考えるべきか。

確かにログをたどるとエンジェル・パス氏の一連の書き込みは総じていえば説得力がある。真剣にいろいろと事件を調べていた風もある。となると、なんかこういう組織的なUFO研究がホントにあったのかもしれないなーと一瞬考えたくなってしまう。だが、オレとしてはこんな「UFO研究が行われた」という話はおよそありえんだろうと思っている。

そもそもの始まりは、オウム事件のようなことが起きないよう青少年に科学的な啓蒙をするのが狙いだった、という。だが、その啓蒙のためにわざわざ「UFOは虚妄である」ことを論証する、というのはフツーの感覚ではありえない。

考えてもみてください。

米国ではかつて「UFOの正体は何なんだ!ちゃんと突き止めろや」という国民の突き上げなどもあって、政府肝いりで設置されたコンドン委員会というものが1966年から68年にかけて、科学者たちを集めてこの問題の解明を試みたことがあった。いま手元に資料がないのでナンだが、費やされた予算は確か50万ドルぐらいだったハズで、仮に数十万ドルということであれば当時の邦貨で1億円規模ということにもなろう(言うまでもなく当時の1億円というのは今の何倍かの価値があったであろう)。

だが、最終的にはこんな一大プロジェクトをもってしてもUFOの何たるかは解明できなかった(そもそもスタッフがやる気がなかったンだよ、というような批判はとりあえず却下シマスw)。

コンドン委員会ですらこの体たらくである。その財団法人とやらがどれほどの予算をかけたのかは知らんが、そんなものをそこら辺のヒマな若手学者が片手間で「解明」できると考えるほうがおかしいのである(その辺のことはUFOに詳しいエンジェル・パス氏であれば、当然知っているはずである)。

だいたい啓蒙活動というからには、いやしくも公的な団体であるのだから、そんなチャレンジングなことをやっておる余裕はなく、もっと確実に成果のあがるプロジェクトを企画せねばなるまい。当時そんなものがあったかどうかは知らんが、「水からの伝言」バスタープロジェクトあたりで手を打つのがオトナの良識というものではあるまいか。

それに議員がアレコレいうより前、予算を組む時点で評議員とかいろいろいるハズなんだから「こりゃ無理スジだろう」という話にもなるだろう。おそらく企画立案者は「あんた熱あるんじゃないの?」といって自宅休養を促されたハズである。

けっきょくのところこのエンジェル・パス氏も、郡純氏と同様、UFO大好き人間として「ボクのかんがえた、さいきょうのUFO事件」――というか、この場合は「ボクのかんがえた、さいきょうのUFO調査チーム」を妄想し、そこに勇躍参加する自らの勇姿を想像することで、もって我が身の無聊を慰めていたということなのではなかろうか。

いや、ここでさらに大胆な「推理」をしてしまえば、この郡純氏とエンジェル・パス氏は実は同一人物であった、という可能性すら考えられないではない!!

なんか、「浮世絵師として一瞬江戸にその姿を現した東洲斎写楽の正体は実は葛飾北斎であった」みたいな破天荒な話になってくるけれども、虚心坦懐に考えれば、その妄想の出現パターンは両者でほとんど同じなんじゃねーかという気がしないでもないので仕方がない、いやこれは冗談じゃなく。

『異星人遭遇事件百科』で脚光を浴びたが、全然証拠を出せないんで「こいつインチキじゃん」といってその世界から放逐された郡純氏が、かつての栄華の日々忘れがたく、匿名掲示板が舞台というのはいささか寂しいけれどもそれっぽい燃料を投下すればまたチヤホヤしてくれるんじゃねーか、ということで再びこういう仕掛けを作った……うーん、何か我ながら出来過ぎのような気がするが、「現実は小説より奇なり」などともいうからな。

ま、このお二方が別人であってもいい。いずれにせよ、こうやって我が国のUFOシーンを撹乱していったという点からすれば、彼らはジャック・ヴァレ言うところの「欺瞞の使者」であったという風に言わざるを得ない。

「いやそんなことはない、オレはあくまでも本当のことを言っているのだ」ということであったなら、今からでも遅くないので表に出てきていただきたい。あるいは、そのへんの事情を知っている人がいたら「いや、あれの真相は…」とかいって本当のことを語ってほしい。日本じゅうのUFOマニアはきっと、そんな展開をいまだに待ち続けているハズだ。(おわり)