現代が「UFO冬の時代」であることは皆さんご承知のことと思うが、その理由の一つは、人々の耳目を集めるUFO事件が少なくなっているところにあろう。

ま、何でそういうことになっているのかはそれ自体大きな論点たりうるのだが、それはさておき、確かに昔のUFO事件はなかなかに派手であった。

そんな重大事件の一つが、1957年10月15日の深夜から翌日にかけてブラジルのミナス・ジェライス州で起きたビラス=ボアス事件である。

これは、田舎の農場で日々働いている勤労青年アントニオ・ビラス=ボアスが夜中にトラクターで畑を耕していたところ(何分にも暑いので夜中に仕事をしていたのである)、何やら怪しいUFOが着陸し、そこから現れた小人によって中に連れ込まれてしまった、という事件である。

面白いのはそれからで、この青年、UFOの中で服を脱がされる。で、そこに全裸の女性宇宙人(?)がすり寄ってきたんで、ついついセックスをしてしまった(しかも2回)。そのあと彼は地上に戻されるんだが、ともかくこういうとてもエキセントリックな話だけに、その後のUFOシーンではけっこう注目されてきた経緯がある。かつ、「これはいわゆる宇宙人による誘拐=アブダクションの世界初の事例ではないか」という風にも言われてきた。

10-Secrets-Of-The-Antonio-Villas-Boas-Alien-Abduction-Story
ちなみに「Antonio Villas Boas」でググると、こんなよくわからないイメージカットがヒットしたりする。このカットはちょっと違うんじゃないかなーとオレは思うが。

ちなみに、昔の「不思議大好き少年」は少年マンガ雑誌を通じてUFOを学んだものであるが、たぶんこの事件は話が話だけに健全な青少年にはふさわしくないということなのだろう、あんまりそういう雑誌で読んだ覚えがない。そういう意味ではコレ、何となく淫靡な味わいを漂わせる事件でもあったのだ。

閑話休題。またまた長い前振りになってしまったが、実は最近、アメリカのデビッド・ブーハーという人が書いた『No Return』というUFO本を読んでいたら、この事件の話が出てきた。どういう文脈で出てきたかというのは一切省略するけれど、面白かったのは、この事件はホントは宇宙人とかは全然関係なくて、CIAとかどっかが純朴なブラジルの青年を騙して仕組んだでっち上げのストーリーなんじゃねーの、という説が一部にあるらしい。




いわゆる謀略説というヤツで、オレはあんまりそういう方面には興味がないけれども、たとえば「アメリカ政府は秘密兵器の開発をカモフラージュするため、隠れ蓑としてUFOばなしを大衆に広めている」的な議論である。

で、このビラス=ボアス事件の背景にもそういう当局の暗躍がみてとれるということで挙げているのは、例えばこんな人物の証言である。


ユーゴスラビア生まれの言語学者で、自称元CIAのエージェントだったボスコ・ニデルコヴィッチは1978年、アメリカのユーフォロジスト、リッチ・レイノルズのインタビューに応じて、1956年から63年にかけてラテンアメリカでCIAの偽装団体の下で働き、「オペレーション・ミラージュ」として知られる心理作戦に加わったことを明かした。

これは世界各地でニセのUFO事件を起こすという秘密のプログラムで、彼はヘリコプター部隊の一員として、ビラス=ボアスが住んでいたブラジルの一地方を飛行し、疑う事を知らない人々の住む田舎で心理作戦や幻覚を起こす薬剤を使ったテストを行ったのだという。


うーん、いくら大国アメリカでも、ブラジル国内でそんな勝手なことはできないんじゃねーか、というのがオレの第一感だが、ともかくそういうことを言ってる人がいるそうだ。ちなみにその話は下の本の111-113pに書いてあるというので、興味のある方はぜひ読んでみて下さい。



デビッド・ブーハーは、このほかにも「どうも怪しい連中が何か仕掛けてンじゃねーの?」的な話を紹介している。例えば、ブラジルのジャーナリスト、パブロ・ヴィラルビア・マウソは、ビラス=ボアスの妹(姉かもしらんが)のオデルシアさんからなかなか興味深い証言を聞いている。

どういうことかというと、妹さんによれば、事件後、ビラス=ボアスのところに、揃いのユニフォームを着て「NASAから来た」という5人組がやってきたことがあるのだという。で、連中は嫌がる彼をアメリカに連れていき、いろいろ尋問したりウソ発見器にかけたりしたが、その際、彼に「空飛ぶ円盤」の一部と称するものを見せ、彼が誘拐されたときに見たものと似ているかどうか聞いたという(ちなみに彼は「似ている」と答えた)。で、その男たちは「地球外生命体は我々の惑星を訪問している」みたいな話を聞かせたそうだ(なお、オレはちゃんと読んでないが、その妹さんへのインタビューはココで読める)。

これがホントだとすると、「こいつら最初の事件もコミで純朴な農村の青年を騙しにかかってんじゃネ?」とゆーことになるので、ま、「何でそんな大掛かりなでっち上げをせにゃならんのだ」という疑問はあるにしても、この妹さんの証言は陰謀論を支持するものといえなくもない。

さらにデビッド・ブーハーは、当局の暗躍を暗示する話をもうひとつ紹介している。

この事件当時、ブラジルには有名なUFO研究家のオラヴォ・フォンテスという人がいて、すぐにビラス=ボアスの話を聞きにいくなど精力的に取材をした。いわばこの事件のキーマンの一人なんだが、彼がビラス=ボアスに会ってからわずか4日後、ブラジル海軍の情報担当官と称する複数の人物が彼のところにやってきた。

で、UFO研究から手を引くよう彼に警告し、何故かその一方で、「昔から地球には宇宙人がやってきてるんだよー」的な話をしていったんだそうだ。いかにも「メン・イン・ブラック」風の意味不明な言動である。となると、「そのあと海軍に照会したら、そんな人物はいませんでした」というオチが想定されるわけだが、そのあたりは確認しておりません。ちなみにこの話はフィリップ・コペンスという人がネットに書いているそうなので、その辺りのことも書いてあるかもしれない。とりあえすリンクは貼っておくので、読んだ方は私に内容を教えて下さい(笑)。

というわけで、もう50年以上前の話ではあるけれども、いろいろと深掘りを試みている人たちはいるらしい。「落ち穂拾い」という言葉も頭に浮かぶのであるが、最近めぼしい事件がないのだとすれば、伝説の事件を追いかけ続けるというのもアリ、かもしれぬ。研究家諸氏のご健闘を祈りたい。