11月25日に開催される「第二十七回文学フリマ東京」に向け、おそらく日本でも唯一ではないかと思われる円盤・超常同人誌「UFO手帖」の新刊――その名も「UFO手帖3.0」の編集作業が急ピッチで進められている(そうです)。

オレ自身1本原稿を書いているということもあって今回の新刊が多くの円盤ファンの手に渡ることを祈念しているのだが、前もっての景気づけというような願いも込め、今回は昨年11月刊行の既刊「UFO手帖2.0」にオレが書いた原稿「この円盤がすごい!1962年版」を再録してみようと思う。

ちなみに「この円盤がすごい!」というのは連載シリーズのタイトルで、「円盤の事件にもいろいろあるけども、オレ的にイチオシの凄いヤツっていうとコレだよね」的な事件を同人が持ち回りで書いていくという企画である。というわけで今回の新刊にはどんな事件が登場するンであろうか乞うご期待!!デアル。

【注】なお以下のテキストはPCの隅っこに転がったのをコピペしたヤツで、ひょっとしたら掲載したのと微妙に違っているかもしれない。あと、適宜リンクなんかも貼ってみた




★この円盤がすごい!1962年版 『リヴァリーノ事件』

すごい円盤事件とは何か。個人的には「家族が自分の面前で円盤に攻撃されたり掠われたりしているのに為すスベなし」という事件がイチバンだと思う。

自分が被害者だったら、「ま、しょうがないか」といって諦めもつく。しかし、家族がヤラレているのに自分は無力、というのはキツイ。こういうトラウマは癒やしようがない。

AVビデオでは「夫の目の前で人妻がなんかされてしまう」というストーリーは定番であるらしい(よく知らんがw)。これなんかも、「家族の面前」的シチュエーションが如何に人間の内面の深いところをえぐってくるかの証左と言えよう。

そこで、円盤方面における「家族の面前」事件である。円盤ファンがまず思い浮かべるのは、息子の目の前でオヤジが円盤に撃ち殺されたという「エイモス・ミラー事件」だろう。ただ、これは根も葉もないデマだったことが明らかになっている

だが「捨てる神あれば拾う神あり」で、インチキとは決めつけがたい事件も無いわけではない。今回取り上げたいのはその一つ、「リヴァリーノ事件」である。

事件は1962年8月19日から翌日にかけて起こった。舞台は、ブラジル・ミナスジェライス州の州都・ディアマンティーナ近郊にある、ドゥアス・ポンテスという集落である。ここに、リヴァリーノ・マフラ・ダ・シルヴァという男がいた。川底とかをさらって屑ダイヤを拾う仕事をしている労働者である。(年齢はハッキリしない)。

住んでいたのは、電気も通じておらず、ラジオや時計すらない小屋のようなあばら家だった。彼は前年に妻を亡くし、12歳のライムンドを頭に2歳の末子まで、3人の子供を男手一つで育てていた。以下の顛末は、この長男の証言に拠る。

 ――19日の深夜、就寝中に目がさめたライムンドは、寝室を何者かがうろついているのに気づいた。前後して父親のリヴァリーノも目をさます。身長は1メートル足らず。人影は中空を浮遊するように動き回り、子供たちの寝姿をのぞきこんだりしたあと、戸外に出て行った。

 事件はここから奇怪な展開をみせる。屋外から「あれがリヴァリーノのようだな」としゃべる声が聞こえてきたのである。父親は「誰だ!」と叫んだが、答えは返ってこない。さらに「お前を殺してやる」という声。怖くなった父親が祈りの言葉を口にすると、追い打ちをかけるように「そんなことをしても無駄だ」と言う。それきり何者かの気配は消えた。流石に彼らは一睡もできなかったという。

 怪異はなおも続く。一夜明けた20日の朝、ライムンドは馬の世話をするため外に出た。すると戸口の前に、ややつぶれた感じのボール状の物体が2つ浮かんでいた。一つは黒、もう一つは白黒のまだら模様。直径はいずれも40センチほど(直径1メートルとする資料もある)。ともにアンテナ状の突起と、尻尾のようなものがついていて、シューシューというような奇妙な音を立てていた。背後からは、火か、あるいは強烈な光のようなものを発していた。

 仰天したライムンドが父親のリヴァリーノを呼ぶと、2つの物体は合体し、黄色い煙のようなものをつむじ風のように吹き出した。息子に「来るな!」と叫んだ父親は、アッという間にその煙に全身を包まれてしまう。ライムンドは夢中で煙の中に飛び込んだが、嫌な臭いがしただけで、父親の姿は見えない。やがて煙は失せたものの、そこには奇妙な物体も父親の姿も無かった。周囲の地面はチリひとつなく、まるでホウキで掃かれたかのようだった。

 慌てて付近を探し回るが、父親はみつからない。やむなくライムンドは警察に届け出る。ディアマンティーナからやってきたウィルソン・リスボア警部を中心に、捜査が始まった。だが、近くで人間のものらしき血痕がみつかったのを除けば、不審なものは何も発見されなかった。警察犬も投入されたが、行方は杳として知れなかった。

 当然ながら、警察はライムンドの証言を疑った。貧乏暮らしに嫌気がさした父親が子供たちを捨てて失踪したのではないか。ライムンドが何らかの理由で父親を殺し、遺体を隠したのかもしれない。あるいは、ライムンドは父親が何者かに襲われたのを目撃し、ショックのあまり妄想にとりつかれたのではないか、等々。だが、親子の仲は良かった。リヴァリーノが誰かの恨みをかっていた様子もない。

 ライムンドは警官や判事、医師に何度も事情を聴かれたが、証言は一貫していた。ジュアン・アントゥネス・ド・オリヴェイラなる医師も、「栄養失調ではあるが、精神的な異常は認められない」という診断を下した。

ちなみにオリヴェイラ医師は、念のため、彼を試すトリックも仕掛けている。全身を布で覆って横たわり、「死体」のフリをした人間の前に彼を連れていき、「これが君の父親だ。君はウソをついたね」と問い詰めてみたのだ。しかし、ライムンドは「あの<ボール>がお父さんを返してよこしたんだね」と言うだけで、証言を翻すことはついぞなかった。

 一方、この事件に関連して、ディアマンティーナで司祭をしていたホセ・アヴィラ・ガルシアは、郵便局に勤めるアントニオ・ローシャなる人物から奇妙な話を聞いた。リヴァリーノ失踪の前の週、彼の家の上を2つの「火の玉」が旋回しているのを見た、というのである(19日の夕方だとする記録もある)。

 リヴァリーノの同僚二人が数日前、彼の家の前で身長1メートル弱の生きもの2体が穴を掘っているのを見たという情報もあった。2体は、目撃されたのに気づくと茂みに飛び込み、ほどなくそこから赤い物体が飛び立った、とされる。ただ、この目撃をしたのはリヴァリーノ自身だったという別伝もあり、何だかあやふやである。それに、穴を掘っていたのならその痕跡が発見されて然るべきだ。この目撃談はあまり信用すべきではないかもしれない。

 事件は「ディアリオ・デ・ミナス」「トリビューナ・ダ・インプレンサ」といった地元紙が報道し、それらをソースに「APROブレティン」「フライング・ソーサー・レビュー」といった一流UFO誌も大々的に取り上げたが、最終的には迷宮入りする。

ただ、いささか気になる後日談がある。「エストレラ・ポーラー」なるディアマンティーナの新聞は、翌1963年5月10日、現場の近くでカーニバルの時期に(つまり2月末だろう)人骨が発見されたというニュースを報じた。そして、そこからは遺留品としてリヴァリーノのベルトが見つかった、というのである。

「なんだ、やっぱり犯罪か事故に巻き込まれたんじゃネ? ライムンドの証言は全部妄想でしょ」。こんなツッコミが聞こえてきそうだ。しかし、事件や事故を示唆する証拠は全く無かったわけだし、徹底的に捜索された筈の一帯から半年後に骨が見つかるというのもヘンだ。当時はDNA鑑定などなかったから、この骨がリヴァリーノのものなのかどうかもわからない。我々もまた、ここで「煙に巻かれてしまう」のである。

 ちなみに事件の主人公であるライムンドは、この後、孤児院に入れられる。その後半生がどんなものだったかは定かでないが、現地ブラジルの研究者によれば、彼は2001年に亡くなったらしい。文字も読めず、時計の見方すら知らなかったライムンド。とても内気な男の子だったというライムンド。事件の真相はともかく、重いトラウマを負ったであろう彼の生涯を思うと、そこは流石にしんみりしてしまう。

かつて「Spファイル」(注:「UFO手帖」の前身のエンバン雑誌)のサブタイトルで用いられた名言をここで援用するならば、UFOは「ちょっと、さみしい」のである。 (おわり)

raimundo

これはイタリアのアヤシイ雑誌にこの事件が紹介された際のイラスト。明らかに「盛っている」イメージカットなのだが、まあ許してやってほしい。



■参考資料
・南山宏『謎のUFO怪事件』 (広済堂文庫、1992)
・Pablo Villarrubia Mauso『LAS LUCES DE LA MUERTE』(Edaf, 2004)
・「Bizarre and Grotesque
・「URECAT - UFO Related Entities Catalog
・「Portal Fenomenum
・「URECAT - UFO Related Entities Catalog