2018年08月

これは前々から再三書いているところであるが、世界的UFO研究家、ジャック・ヴァレの邦訳書は我が国では何故かほとんど刊行されていない。

その数少ない邦訳本のひとつが『人はなぜエイリアン神話を求めるのか』(1996年、徳間書店)であるわけだが、これがまた原著『Revelations』から「結論 Conclusion」と「補遺 Appendix」を端折ったヒドイ抄訳本である。そのあたりの話は以前このエントリーに書いた。



そのときには「補遺 Appendix」の内容を紹介させていただいたワケだが、今回はこの本の「結論 Conclusion」ではヴァレがどんなことを言っていたのかを書いてみたい。

欠陥だらけのこの邦訳書であるが、それでもずっと読んでいけばヴァレの問題意識というのはおおむねワカル。つまり、「米政府はひそかにエイリアンの円盤を回収している」などといった話を吹いて回る研究者は実は「騙されている」。そして、そんな連中を裏で操っているのはまさにその米政府ではないのか──。

さて、そうした議論を踏まえての「結論」となるわけであるが、ヴァレは冒頭、「米当局は既にエイリアンとコンタクトしている」といった主張を唱えてきたロバート・ラザーやビル・クーパーといった人物の信憑性が、今や見る影もなく失墜してしまっていることを指摘する。たとえばこんな風に。


ロバート・ラザーはさまざまな研究家にその身辺を徹底調査された。その結果、最初にジョン・リアが「最も信頼すべきソースだ」と彼を評していたことがウソかと思われるほどに、その信用は地に墜ちてしまった。それは単に彼が売春容疑で起訴された、というだけの話では済まなかった――彼は「スイカズラ農園」という売春宿の共同経営者でもあったのだ! 物理学者であり、ロス・アラモスの施設の技術顧問だという彼の立派な経歴は、これで雲散霧消してしまったのだ。


さて、そこで発せられるのは次のような問いだ。


もし解剖とか墜落した円盤だとかについてのウワサが全く事実無根だとしたら、そうした欺瞞を広めたのは誰なのか? そしてここで再び問いかけなければならないのだが、そのような欺瞞が最終的に目指しているゴールとはいったい何なのか?


このような問いに対し、ヴァレが「とりあえずの回答」として挙げているのは次のようなものである。

過去30年かそこら、CIAやNRO(アメリカ国家偵察局)、空軍といった米国政府の機関がUFO現象を研究しようという大がかりな試みを継続してきたものと仮定しよう。ただしそれは「この問題を解明しよう」という試みではなかった。何となれば、その解明というのはわれわれの科学をもってしてはなお不可能なものであるからだ。そうではなく、その試みというのはこの現象を他の何かを隠す隠れみのとして利用しようというものであった。

ではそこで「隠されているもの」とは何か。ヴァレの考えは明快である。彼は──個人的には如何なものかと思うのだが──米政府は「人間を眠り込ませてしまうような心的効果や敵国軍に身体の麻痺や幻覚をもたらす機器を搭載する」円盤を実際に作っており、そうした秘密兵器を隠蔽するためにUFOのウワサを利用しているのだ、という。

もしそのような乗り物がドリームランド(訳注:いわゆるエリア51の別称)で試験されているのだとしたら、その隠れみのとしてUFO現象以上に適当なものはあるだろうか? こうしたペテンを広めてやろうというのなら、その宣伝役として「地球外の生命体は今まさに地上に降り立とうとしている」と確信している筋金入りのビリーバーのグループ以上にふさわしい人たちはいるだろうか?



ここでヴァレはちょっと寄り道するかたちで有名な「ロズウェル事件」に触れ、ロズウェルは原子爆弾が置かれた最初期の空軍基地であり、そこでトップシークレットに属する極秘プロジェクトがバルーンなどを用いて行われていた可能性は非常に高い、という。

本物の破片から目をそらすために卵型をした機材を砂漠に置いてきたり、死んだエイリアンに擬した小さな人形を数体ばらまいてくるというのは、決して難しい仕事ではない。

彼はこんなことまで言っており、それは流石にどうかと思わんでもないが、つまりここでも「空飛ぶ円盤」を持ち出すことで米軍は極秘実験をカモフラージュしたのだろう、というのがヴァレの見立てだ。

しかしながらユーフォロジーの世界では、「米政府とエイリアンの結託」といったストーリーが強く信じられてきた。これを批判し続けてきた結果、ヴァレがどんな目に遭ったかというと、「奇妙な教条を掲げたUFO界の偉そうなリーダーたちは、私をET信奉者たちのこざっぱりしたガーデン・パーティーに闖入した悪名高きスカンクのように扱いはじめた」のだそうだ!

こうした経緯もあるのだろう、ここでヴァレは、政府当局もなかなか悪辣だが、そんな怪しげな話にすぐさま飛びついちまうUFO研究家たちのほうにも問題大アリだろうよ、とばかりに批判を加えている。彼らはいちいち情報の裏を取るようなことはしない。


近年のUFOコミュニティでは、ひとかどの人物と認められるかどうかは、ひとえにいわゆる「機密情報」にアクセスできるかどうかにかかっている。いかなるユーフォロジストも、ネタを出してくれる魅惑的で秘密に包まれたニュースソースから関係を打ち切られることを恐れるあまり、そのような素材にあえて疑問を呈するようなことはしなくなってしまったのだ。


次いでヴァレは異星人の来訪を唱える人々とアメリカの極右勢力との間の連関を指摘しており、そこにも当局の何らかの関わりがあることを示唆しているが、ま、これはあまり深掘りされてはいない。


さて、この「結論」の最終部に至って、ヴァレはこう主張する。


この分野に正気を取り戻すためにまずわれわれが始めるべきことは、検証可能な「事実」に立脚すること、である。


「われわれは今まさに外宇宙で新たなる敵と遭遇せんとしている」という考えは、底知れない力を秘めている。そして、一見したところ不可思議にみえる数多くのものごとは、そうした力を求める人類の欲望が生み出したものだということで説明がつく。「9機の空飛ぶ円盤がラスベガスの近くにある格納庫に収められている」「ニューメキシコ州には人肉をむさぼる、灰色をした醜くて小さいヒューマノイドでいっぱいの町がある」――声高に語られるそのような主張には、確かにわれわれの文化の中にあって、いかにも人々を惹きつけそうな新しいタイプの暴露話といったおもむきがある。

だから、もしあなたが人々にそんな話を十二分に信じさせることができたのなら、彼らはあなたが語るほかのこともすべて信じ込むだろうし、あなたが行くところにはどこでもついてくるようになるだろう。そしておそらくは、そういったものを丸ごと信じ込んでしまえるかどうかが、いわゆる「意外な新事実」(それは一部の善意に満ちた「欺瞞の使者」たちが、騙されやすい大衆に向けて気前よく披露してくれているものであるわけだが)に到達できるかどうかのカギを握ることになるのだろう。

かくてそのような欺瞞に満ちたストーリーの真実は、カッシルダの歌のように「涙が流されぬまま涸れるように/歌われることなく消えていく」ことになるのだろう(訳注:ロバート・W・チェイムバーズ著/大瀧啓裕訳『黄衣の王』参照のこと)。そして、新たに出現したエイリアンのリーダーたちと会うことを待望しているようなお気楽で騒々しい群衆たちの耳に、そうした真実が届くことは決してないのだ。



如何だろうか。「米軍が円盤状の飛行体だとか電磁波等を利用した秘密兵器を開発済みである」といった主張はちょっと違うンでないかと思うのだが、少なくとも米軍はいわゆるUFO現象の実態など全くつかんでおらず、ただそうしたウワサは「使える」から、荒唐無稽なネタをアタマの軽い研究者にリークしているんではないか、という基本的な読みは今もなお有効なんじゃないか。

まぁこういう議論は日本のユーフォロジーではなかなかウケなかったのだろうが重要な指摘であったことは間違いなく、何度も言うけれどもこういう「結論」部をカットして出版したのは、徳間書店、やはり大失態であったと思う──すでに世間がUFOなどというものに背を向けている今となってはそんなことをいっても死んだ子の歳を数えるようなものであるのだが。

とまれ、『人はなぜエイリアン神話を求めるのか』を読んでいて最後が唐突にブツっと終わっていることに疑念を抱かれた方には少しはお役に立てたのではないかと思う。そんな人がこの日本にどれだけいるのかは知らんが(笑)








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WS000311

以前もチラッと書いたように「日本のUFO研究家50人」(「UFOと宇宙」1979年9月号)という記事はなかなかに味わい深い。まず第一に、人物紹介の文章を読んでも何を言いたいのかイマイチよくわからんところがステキである。とゆーか「わかってもらってたまるか」的なアナーキーな感じが好ましい。今回PCのデータフォルダを漁っていてむかしコピーした画像をみかけたので、また少し貼っておこう。

右の方の男性は陰謀論でそこそこ有名な方である。左の方の女性は全然知らんが、横顔はなかなかミステリアスな感じでイイじゃん、みたいな。いずれもお名前のところは消しておきました。


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