このたびの大災害にともなう原発メルトダウンについて、「想定外だった」という言説がある。だが、本当にこれは「想定外」だったのか?

福岡賢正氏による毎日新聞のコラムがそのことを書いている。大津波による電源停止、引き続いての炉心溶融と水素爆発、さらには使用済み燃料貯蔵プールからの放射能漏れ――まさに今回の事故をなぞるかのような描写だが、原発にはこのようなクライシスが起こりうることを説いていた研究者がいる、とコラムは説く。神戸大の地震学者、石橋克彦氏である。

だが、メディアや政治家はその言葉に耳をかさなかった。想定されていたものなのに、それを無視したまま、いまになって「想定外」というのは欺瞞ではないか、というのである。メディアに属す人間としての、この、ある種の自己批判は実にいさぎよいと思う(ちなみに石橋氏のサイトはここ)。

さらに、9世紀の貞観地震並みの地震が起これば福島原発はきわめて危険、と警鐘を鳴らしていた研究者もいる。産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長の岡村行信氏である。だが、彼の警告も結局は生かされることがなかったという(ソース【注】)。

自らの耳を塞いでおいて、いまになって「想定外」と言う。これは許されるべきことではないと思うのだが。


【注・追記】

なお、経産省の審議会で「貞観地震クラスの地震を考慮すべきだ」という主張があったにもかかわらず、東電がそれを無視した――というトーンで書かれたこの毎日新聞記事については、石橋克彦氏が「世界」5月号掲載の論考『まさに「原発震災」だ』で「適切でない」と批判を加えている。

それによれば、当該審議会でのO委員(ここではそう表記している)の発言は「耐震設計の基準とする地震動(揺れ)の策定にあたって(中略)貞観地震(による地震動)を考慮しないのはおかしい」という趣旨のものであり、津波自体の危険性を説いたものではなかったという。石橋氏は「貞観津波自体が重要だと思ったならば、津波の検討を急げとはっきり言うべきだった」とも言っている。

ちなみに石橋氏はこの論考で、記事中のO氏の「原発であれば、どんなリスクも考慮すべきだ」との発言にかんし、このO氏が柏崎刈羽原発に関しては建設地における大活断層の存在可能性を「頑強に否定して結果的に東電を擁護している」とも言っている。アンタ、今になって慎重派だったようなフリをするなよ、とでも言いたげであり、この辺にはビミョーな確執があったことをうかがわせる。