とりあえず次の2ツの文章をみていただきたい(各段落冒頭の数字は便宜上小生が振ったものである。また原文のルビは省略した)

【その1】
①春らんまんの京都、祇園と桜の組み合わせで浮かぶのは、与謝野晶子の「みだれ髪」の名高い一首だ。〈清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき〉。花篝に照らされる夜は華やぎ、幸福感に包まれた乙女は匂いたつばかり


②この季節、古都は宿の予約も難しいほど観光客でにぎわう。そんな昼下がり、満開の桜の下の、凍りつくような暗転である。祇園の繁華街で人の列に車が突っ込み、次々にはねた。7人が亡くなるという、痛ましい事故になった


③運転していた男性も死亡した。原因や事情はまだ明確ではないが、ときどき意識を失う持病があったらしい。軽乗用車ながらのこの惨状に、「走る凶器」ぶりを改めて思う。交通戦争と言われた1970年ごろは、年に1万5千人以上が落命していた


④去年は3分の1を下回ったが、それでも4612人もの命が失われた。家族やまわりの悲嘆ははかり知れない。年に約5万人の重傷者にも深刻な障害が残る人は多い。交通戦争は終わってはいない


⑤車そのものの安全性は高まったが、運転するのは人である。「敵を知り己を知らば百戦危うからず」と孫子の言葉にある。原因が何にせよ、車の怖さを知って安全を保つことができなかったものかどうか、悔やまれる


⑥〈四条橋おしろい厚き舞姫の額ささやかに打つあられかな〉。晶子の詠んだ橋のすぐ東が悲劇の現場になった。華やぎを吹き飛ばしてカメラや靴が路上に散乱した。突然絶たれた命の無念を、痛切に思う


【その2】
①今ごろの季節だろう。与謝野晶子に一首がある。〈清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき〉。京都の繁華街・祇園から清水寺に向かうところか。朧月(おぼろづき)に照らされた、夢幻のような夜桜が目に浮かぶ


②見頃を迎えた桜をもとめて、きのうも祇園はかなりの人出であったと聞く。惨劇が待ち受けていることを誰が予想したろう


③祇園の一角、京都・四条通の交差点で軽ワゴン車が信号を無視して歩行者の列に突っ込み、7人が死亡した。運転していた会社員の男(30)も電柱に衝突して死亡している。意識を失う病気があったとも報じられているが、事故との因果関係はまだ分からない


④誰もが日に何度か、どこかの交差点を渡る。人命を奪う事故に恐怖感の序列があるはずもないが、日常生活のすぐそばに潜む惨事に身の震える思いでテレビ画面に見入った人も多かろう


⑤〈あなたの車を凶器に変えないでください〉。30年ほど前、ある自動車メーカーが安全運転キャンペーンに用いた広告コピーである。事故原因の究明を待つまでもなく、ハンドルを握る人はこの言葉をもう一度、胸に刻み直していい。


いずれも京都・祇園でおきた交通事故について触れた文章であるが、お気づきの方もあろう、【その1】は朝日新聞の「天声人語」、【その2】は読売新聞の「編集手帳」。ともに4月13日の朝刊に載ったものである。

両紙見比べて驚いた。別に相談したわけでもなかろうに、文章が実によく似ている。時間差があったら、どっちかがパクったといわれても仕方がないほどに。


パーツ① 与謝野晶子のおんなじ歌を引用している。「祇園+桜の時期」という連想で「何か有名な歌でも引用すっぺか」と考えたら、まぁ事実上この一作しかないわけだが。

パーツ② ここで痛ましい事故が起きました、という今回のコラムの主題を提示する。

パーツ③ 事故を起こした人間には「意識を失う持病」「意識を失う病気」があったけれど、それが事故と直接関係があったかどうかはどうかはわからない、という流れはクリソツ。

パーツ④ ここもほとんど同じことを言っている。「ほんっと交通事故って怖いよね」といってる。

パーツ⑤ ともに「車って怖いから、アナタも気をつけてね」という読者への呼びかけである。実質的にこれでコラムは終了する。「天声人語」のほうは、つけたしでもうちょっと書いてるけども。


なんでこういうことになってしまうのか。ヤッパリここには商業新聞の限界というものがあって、その立ち位置から「言えること・言うべきこと」というのは自ずからひとつのワクの中に収まってしまうのである。新聞的な「ポリティカル・コレクトネス」っつーか。

「桜の時期の祇園」っつーと与謝野晶子だよネ、「てんかん」持ちの人が事故起こしたら、まぁそこに因果関係があったかどうかはわからんけど「意識を失う持病があった」ぐらいの穏当な表現でその点は指摘しておきたいよネ、みたいな。

まぁ新聞っつーのはそういうものなのかもしれなくて、こういうコラムとかに独創性とかクリエイティビティー求めるのが間違ってるかもしれないんだが、こうやって同じ日の新聞で金太郎飴みたいに似た記事見せられるとサ、なんかね。で、「世の中の常識とは反してるかもしれないけどオレはこう考える」みたいな骨のあるコラムも書いてほしいよなと思ったり。