というわけで大津いじめ事件である。

いじめを受けていた中学生の少年が自殺したのだが、いじめとの関連性はよくわからないといって頬被りを決め込もうとしていた市側が民事訴訟を起こされて、で、学校側はどうもいじめを認識していながら手をこまねいていたのでは、という疑惑が持ち上がっている、そういう話である。

で、ネットワールドではしばしばあることだが、ここにきて、いじめをしていたとされる少年の実名などがウェブ上に広まりつつある。とりわけ、きのう6日朝のフジテレビ「とくダネ!」で自殺少年の遺族の裁判用の準備書面として作成された「同級生たちへのいじめアンケートのまとめ」が映された際、墨塗りが薄かったということなのだろう、おそらく録画画像を精査した連中によって「いじめっ子」の名前が割り出され、ネットに流されたというのがひとつのポイントになったらしい。

で、朝日新聞はきょう7日夕刊(首都圏版)で、このフジテレビの話を記事にした。この番組で少年の実名が広がっている、こいつは憂うべきことだ、というトーンである。

しかし、これは朝日新聞、まずいだろう。

もちろん、この自殺がいじめによって引き起こされたものである可能性は高いのかもしれない。しかし、「いじめっ子」の名前がネットで広まるというのは、少年法の精神からいって明らかにマズイ事態である。

そういう状況にあってストレートに「フジテレビがこんなチョンボをした」と記事にしたらどうなるか? ネットユーザーだって、別にこういう情報があふれかえっている2ちゃんねるに始終目を通している人間ばかりではなかろう。いや、絶対数からいえば、そういう連中はむしろ少数派。「ああそうか、そんな話があるのか、よーし、大津+いじめ+フジテレビで検索かけて調べてみるか」。そういう人間を大量に生み出すことは火を見るよりも明らかだ。結果、何にも知らなかった人間が「いじめっ子」の名前を知るにいたる。

いや、一部週刊誌みたいに「そういう少年法の理念とやらは偽善だから、別に表に出てもいい」というのなら話は別なのだが、天下の朝日新聞は少年法の理念を擁護する立場の新聞である。「フジテレビ、こんなことやっちゃいかんだろ」という一見正義の側に立っているようなポーズをとって報道するのは、一見スジが通っているようにみえて、結果的に生じるのはその少年に対する「人権侵害」の拡大ではないのか? 

そういう二枚舌のいやらしさが朝日の唾棄すべきところなんである。朝日の立場なら、このフジテレビの件は知っていても書いてはいけなかったのだ。少なくとも「人権侵害」を真面目に考えているのなら。けっきょく朝日新聞が喧伝したいのは「人権擁護の朝日新聞」という自己イメージを売り込むことであって、そのために現実に存在する人間が「人権侵害」を受けようとどうしようと構ったこっちゃない、ということなのだ。何という嫌らしさなのだろう。こういうところが体面だけを繕えばよい貴族主義の限界だというのだ。

いつも批判している天声人語とは違うンだが、やっぱり朝日新聞の醜悪さがかいま見えるという点では天声人語に通じるところがあると思ったので、敢えて糾弾しておく。