で、阪神が阪急に「買われる」という話が盛り上がってますが、阪神のオールドファン(といってもファン歴三十数年程度ですが)としては、ここで否が応でも思い出してしまうのが、SF作家・かんべむさしがそれこそ三十年前(だったかな確か?)に書いた傑作「決戦・日本シリーズ」です。

当時の阪急ブレーブスと、わが阪神タイガースが日本シリーズで対決する話なのだが、阪神が勝ったら阪神の車両が阪急の線路に乗り入れる、阪急が勝ったらその逆で阪急の車両が阪神の路線に乗り込んでいく――そんな約束のもとに一大決戦が繰り広げられる、というストーリーでありまして、つまり電車一杯に乗り込んだファンが「ザマーミロ!見たことか」と相手チームの「ホームグラウンド」を蹂躙するという、そのハチャメチャぶりを活写した小説であったと記憶しています。ちなみに小説ではラスト、「阪神勝ちバージョン」と「阪急勝ちバージョン」がページの上下を割ってそれぞれに進行していくというスタイルで、両方のファンの顔を立てるかたちになってましたね。

まぁ今回の阪急・阪神騒動とこの小説のかかわりについてはいろんなブログでも書かれ始めてるけれども、非関西圏に住んでた少年としてはこの小説、ちょっとした勉強にもなりました。つまり、関西圏では「山の手を走る阪急=上流」VS「下町を走る阪神=大衆」というイメージが当たり前で、それゆえの「地域・階級間対立」みたいなものもある、というのを教わった。一方で、熱狂的巨人ファンの詩人・清水哲男が書いた「巨人軍死闘十番」なんて本も当時読みまして、ここでは非関西圏の阪神ファンには「常勝巨人に絶望的な戦いを挑む阪神にレジスタンスの美学を読み込むエセインテリ」みたいなキャラが多い、といったことも書いてあった(当時の阪神はことごとく巨人にはね返されてたからね)。うーむ、どっちかっつーと体感的に、というのではなく判官贔屓的な思考の末に阪神ファンになったオレは、本場ファンとはいささか違って、この「エセインテリ的阪神ファンなのかな」と思った記憶がある。

というわけで、そういう人間にとっては阪神が阪急に呑み込まれたったって、まあ名前が残ればいいじゃん、みたいな気もするのですが、「決戦・日本シリーズ」で教わったところによれば、現地の阪神ファンにはちょっと複雑な気持ちもありそうです。放蕩息子が逆タマでええトコに婿入りする話が持ち上がって、「あぁあいつもオレらのとこから離れてしまうんかいなー。さんざん迷惑かけられたバカ息子やったけど、一つ屋根の下で過ごしていたビンボー時代が本当は幸せやったんかもしらん」みたいなもんでしょうか? ともあれこの統合話、どうなるんでしょう。

決戦・日本シリーズ

決戦・日本シリーズ

  • 作者: かんべ むさし
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2000
  • メディア: 文庫