映画「ダ・ヴィンチ・コード」の世界同時公開で各地の反応がニュースに流れはじめております。まぁネタバレのおそれがあるせいか、いずれのニュースも「論点」をあんまりハッキリ書きこむことをせずに、「キリストに子供がいた」云々が議論になっている、みたいな報じ方をしているのですが、それはともかくとりあえず面白いのはキリスト教の本家本元のヨーロッパではほとんどこの手の議論が盛り上がっていないらしい、という点でしょうね。

ネタバレですいませんが、この小説のバックグラウンドになっている「史観」というのは、「キリストはマクダラのマリアと関係があって娘も設けていた」「その血脈は営々とフランスに続いていた」「その秘密と血脈をまもるべくシオン修道会なる団体が中世からひそかに活動を続けていた」――といったところですが、まあその前段はともかく「シオン修道会」伝説なるものはせいぜい50年ほど前に捏造されたインチキであることがフランスあたりじゃ常識になっとるようです。

いわば架空のストーリーをあたかも史実かのようにみせかける作者の技量で話題になった本だというわけで、そんな裏舞台を承知しているヨーロッパの人々にとっちゃ「おぃおぃマジで抗議するような話かよ」といったレスポンスは当たり前、といったところではないでしょうか。いやそれどころか、仮にキリストに子供がいようがいまいが、キリスト教信仰の本質にとっちゃどうでもいいことなんだという在仏のカトリック史研究家、竹下節子さんあたりの指摘も、これまたもっともです。なんだかな~と思う今回の騒動ではあります。

(この項参考:皆神龍太郎「ダ・ヴィンチ・コード最終解読」(文芸社)、竹下節子「『ダ・ヴィンチ・コード』四つの嘘」(『文芸春秋』6月号)

ダ・ヴィンチ・コード最終解読

ダ・ヴィンチ・コード最終解読

  • 作者: 皆神 龍太郎
  • 出版社/メーカー: 文芸社
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本