夏の甲子園で一回戦を突破した東海大四・西嶋投手の「超スローボール」が話題になっている。プロ候補をズラリと並べた九州国際大付をこの「魔球」で翻弄したという、ま、プロ志向のセミプロ球児が大嫌いなオレにとっちゃ痛快な話である。

ところが、どっかの元アナウンサーが「ダメとは言わないが、少なくとも投球術とは呼びたくない。意地でも。こういうことやっていると、世の中をなめた少年になって行きそうな気がする」などとツイートしたらしく、「そりゃないだろうゼ」という批判の集中砲火を浴びておるらしい。

ま、批判されるのが当然である。超スローボールはイカンと思うのは勝手だが、曲がりなりにもスポーツ報道などやってきたという人物なので、そんな人間がこの程度のことしかいえないのかと思うとガックリくるぞ。

これまでもう何十回と書いてきたことだが、高校野球について「これは教育の一環なので、みんなで清く正しく美しくプレイしましょうネ」みたいな幻想をいまだに抱いている人がいて、しかし実情はといえば甲子園大会なんかは基本的にプロ入り志望の欲望をギラギラさせたセミプロ球児のセレクション大会となっている。「清く正しく美しく」なんてものは全くのフィクションである。

まぁこの元アナウンサーがそういう幻想を夢見ている人物かどうかは知らんが、少なくとも超スローボールで打ち気をそらすようなことをしていると「世の中をなめる」人間になってしまうと言っているから、つまりここでは「君はフツーの速さの球を投げたほうが良くないかネ」と説教しているのである。つまり何だかしらんが「オレのイメージした正しい高校野球に反しているので嘆かわしい」と言っているワケで、勝手な思い入れで高校野球をみていることには変わりない。

ネットでもさんざん書かれておるが、じゃあ「変化球でかわす」のも嘆かわしいのか。「隠し球」はしちゃいかんのか。「盗塁」なんて搦め手で攻めるのは卑怯ではないのか。じゃあ150キロを超すような剛球を投げる投手は「高校生らしくない」ので批判すべきなのか(この最後のはネットで読んだコメントであるが、呵々大笑したゼ)。

いや、もともと野球というのは、策略に満ちたスポーツなのだ。アメフなんかもそうだろうが、アメリカ発祥のスポーツというのは、基本的に知恵をしぼって作戦たてて攻略を図るという性格をもっているのである。その点に限っていえば、野球というのは単純に「強いヤツが勝つ」可能性の高いレスリングとかと違って、「弱者にやさしい」スポーツなのである。

であるからこそ、「セミプロ軍団を地方の公立高校が撃破する」などという椿事も、まぁ今となってはあんまりなくなってしまったけれど、可能性としては常に起こる可能性をひめている。弱者が、ルールの範囲内で無い知恵しぼって強者に一泡吹かせる。たいへん結構なことではないか。

今回の東海大四・西嶋投手が、ここでいう「弱者」であったことに間違いはない。彼は身長170センチもないちびっ子投手。相手はプロの注目も集めている連中で、185センチとかいう大男がズラリとそろっておる。しかも敵の監督はダルビッシュを育てた名伯楽ときておるぞ。勝った東海大四だって、ま、北海道じゃ名が知れた野球名門校かもしらんが、その格においては横綱と幕下ぐらいの差があろう。

元アナウンサーの言うとおり、西嶋投手がフツーの球をフツーに投げておったら、敵にとっては打ちごろの半速球になることは目に見えておる。そこで創意工夫をこらし、敵を焦らして五分の勝負にもちこむ。何が悪いのか?

というわけで、奇策けっこう、「卑怯」も大いにけっこう。外野が偉そうに「高校野球の理想」を語るなど笑止千万。ここはレリビー。