以前、木曽御嶽山の神隠しの話を書いたのであるが、松谷みよ子「現代民話考Ⅰ」をめくっていて、その出所となったとおぼしき箇所をみつけたので以下に再録する(原文にはない改行を適宜入れた)。


*長野県木曽御嶽山。御嶽山は山岳信仰の聖地だが、昔は行者だけが登っていた山である。山頂の一の池、二の池、賽の河原、三の池の谷間からは突然霧がわき、古来不思議が多く、三年ごとに起こるという。

本年(昭和五十四年)七月十五日午前四時、由比さんは御嶽神社へツアーの一行と参拝に出掛けた。参拝を終えて六時、王滝口頂上山花へ戻り食事となったが、一人分朝食があまったので一人いないことがわかり調べたところ、由比ヒデオさんと判った。それから四時間探したが見つからず、夕方七時神戸へ帰ってツアーは解散した。添乗員も下山して由比さん宅へ連絡したが戻っていないので大さわぎとなった。

次の日から四日間、延百二十名の人が地獄谷からナカマタ沢と目の届く所危険をおかしすべて調べたか見つからない。山頂から宿舎まではわずか一キロで難所もない。宿舎には孫への土産を入れたバッグが残っていた。家人の話ではどこへ行ってもきちんと連絡を入れる人だったという。

ところが四日目の七月十九日、五十八歳の老人(神戸参詣団体の一員)がまた消えた。三の池で御神水を汲んで頂上へむかい岩陰にかくれ、そのまま見えなくなった。近くには隠れるところも危いところもない。日数かけて捜索したがいない。神かくしかと言われた。

三年前の十一月、学生のリーダーがみんなの後をぴったりついて唱え言葉をかけながら登っていたが、突然声が聞こえなくなった。仲間が振りむくと、リーダーの姿はもうなかったという。同じ所で行方を断った人もあったが、その人は三か月後発見された。

この山には死霊がさ迷っているといわれ、怪奇のあるときは賽の河原からうめき声がするという。強力の児野忠雄さんは霧の中に巨人(ブロッケン現象)がいてもう一つの足音が聞こえ、幽界とのドアの次元の違う所に入ってしまい、これが神かくしではないかという。行者は由比さんは死霊にひかれて死んだといい、あのあたりとさしたが由比さんはいなかった。
 放送・昭和五十四年九月二十七日放映、東京テレビ「ミステリーゾーン」より。

 ――松谷みよ子「現代民話考Ⅰ」(2003年、ちくま文庫、448~450頁)


つまり、元来は東京テレビ、とゆーかテレビ東京のオカルト番組で語られた話であったらしい。テレビ屋さんというのは「作ってしまう」人種だと思っているので、こうなるとちょっと眉に唾をつけてかからねばならないような気がするが、ともかく行方不明事件があり、何らかの怪異と関連づけて語る人がいた――というのは確かなことのように思われる。