さて、この郡純氏の著書『異星人遭遇事件百科』ならびにテレビ番組における話法でひとつの特徴となっているのは、「UFOの本場・アメリカでの研究によれば・・・」といったスタイルによる立論である。
もちろんそこで登場する研究団体、たとえば「プロジェクトIIA」などというものは実在しないので(笑)実際には説得力はないのだが、よくよく考えてみればこうした議論のスタイルは、日本におけるUFO言説においてごく当たり前に用いられてきたものである。
何故なら、およそ日本においてUFOにかかわる重大事件として語られてきたものは、「アーノルド事件」にせよ「ロズウェル事件」にせよ「ヒル夫妻事件」にせよ、多くが米国発である。もちろんわが国にも「介良事件」「甲府事件」といったものはあるけれども、質的にも量的にも彼の国に見劣りすることは否めない。
有り体に言ってしまえば、日本のユーフォロジーというのはアメリカさんの「後追い」に終始してきた面が非常に強い。
いや、これはオレ自身の反省でもあって、再三「ジャック・ヴァレはこんなことを言っている」などと書き散らかしているこのブログ自体が「舶来」をありがたがる「植民地根性」にどっぷり漬かっていると言えなくもない。
例えば「昔ながらの妖精譚・奇譚と現代のUFO現象は同根である」といったヴァレのテーゼにしたところで、それをそのまま日本に適用できるかどうかは疑問である。例えばここで「妖精」のかわりに例えば「天狗」を代入すればいいのかといえば、それもかなり微妙だ。
そういう意味では天に唾する感はある。あるンだけど、とりあえず自分を棚に上げて言わせてもらえば、日本のユーフォロジーは事例研究から何から、その多くをアメリカに頼ってきた(もちろんヨーロッパとか南米とかでもいろいろ起きているんだが、UFO情報ということでいうとやはりアメリカ経由というのが質・量ともに圧倒的であったから)。
しかるに、そうそう刮目すべき事件が起きるわけではない我が国にあって「なんか起きねえかなぁ」という切実な思いは、日本でUFOにかかわってきた人たちに共通してあったものと推察される。
いささか話が遠回りになったけれども、「アメリカの情報」を頼りにするほかなかった郡氏も実は内心忸怩たるものがあり、どこかで不全感を抱いてきたのではないか。さらに想像をたくましくすれば、おそらく彼はこんな風に考えたハズなのだ。
――ああ、めぼしい事件が起きないんだよなあ、日本って。悔しいなあ。なんかこの国で起きりゃ、このオレ様が縦横に活躍してやるのになあ…
そんな思いを抱いていた彼の胸中に、ある妄想が兆す。
――いろいろ聞くところによれば、この地球には「レティクル座」とかいろんなところから異星人が来ているらしいぞ。となると、連中は日本にも来てるハズだなんだよな。あ、そうだ、じゃあそういう筋書きで「二次創作」してみたらどうだ! この日本を舞台に異星人たちが相争っている。そんなストーリーはどうだ? いや、こいつはなかなか面白いぞ!
かくて彼の脳裏には、異星人が跋扈している「あらまほしき」日本のイメージが膨らみ、あり得たかもしれない衝撃的な事件の数々がまざまざと浮かび上がる。結果、その妄想の世界は一冊の本に結実する。それこそが天下の奇書『異星人遭遇事件百科』。
その空想の世界においては、彼は異星人のたくらみを見抜き、警鐘乱打を打ち鳴らす正義の「異星人アナリスト」である。もはや彼は、アメリカさんの後をついて回るしかない哀しきUFO研究者などではない。かくて、虚構の中に生きる喜びを知った彼は、テレビにまで出て自らの生み出した世界を現実のものであるかのように語り出す。「小説」だったら何の問題もなかったんだろうが、彼としてはそれを「事実」として語ることの誘惑に勝てなかった。そういうことではなかったのかと思う。
加えて、彼の心理を(強引に)もう一歩深読みすることも可能だ。
彼の示す「異星人の勢力分布図」は、様々な異星人が日本を幾つかのブロックに分割して「縄張り」を分け合っているというものであるが、「なんか似たようなのをどっかで見たなあ」とお感じの方もいらっしゃるのではないか。そう、先の大戦後、米国など戦勝国の間で一時期検討されていたという「日本分割統治計画」の地図である。

写真左は郡氏の「異星人勢力分布図」、右は「連合軍分割統治地図」
最終的にはアメリカの進駐軍が日本全土を支配することになったけれども、その前段階で、米ソ英中が地域ごとに日本を統治したらどうだろうかという計画があった。その際の各国の幻のテリトリーを示すのがこの地図である。で、彼の「異星人分割地図」は、この「連合軍分割統治地図」にヒントを得て生み出されたものではなかったか、というのがオレの仮説である。
またまた勝手に郡氏の内心を想像してみる。
先にも述べたように、彼は「日本人である自分が一から十までアメリカさんが仕立てた舞台の上で踊らざるを得ない」状況に釈然としない思いを抱いていた。ある意味、日本は「占領」されている。しかしそれが何とも気にくわない。日本人は日本人のユーフォロジーを立ち上げて、この「占領状態」から脱しないとダメなんだ。そのためには「日本が占領されてる」状態をみんなに突きつけないといけない。
そんな潜在意識が「異星人分割地図」を書きだす段になって顔を出してしまった。どこかで見た覚えのある「連合軍分割統治地図」をなぞるようにして、彼は自らの地図を描いてしまう。意識したかどうかはともかく、その地図は「主体性を失った日本への苛立ち」を彼なりに表現するものだったのだ。
………とまぁ、今回も勝手な「推理」を並べ立ててしまった。ただ、先にもちょっと触れたように、ドラスティックな事件が起きない日本において「ボクのかんがえた、さいきょうのUFO事件」を妄想してしまいたくなる心性というのは、この国に生きるUFO愛好家たちがいかほどか共有してきたものではなかったか。
次回はその辺にかかわるおはなしをしてみたい。(つづく)
もちろんそこで登場する研究団体、たとえば「プロジェクトIIA」などというものは実在しないので(笑)実際には説得力はないのだが、よくよく考えてみればこうした議論のスタイルは、日本におけるUFO言説においてごく当たり前に用いられてきたものである。
何故なら、およそ日本においてUFOにかかわる重大事件として語られてきたものは、「アーノルド事件」にせよ「ロズウェル事件」にせよ「ヒル夫妻事件」にせよ、多くが米国発である。もちろんわが国にも「介良事件」「甲府事件」といったものはあるけれども、質的にも量的にも彼の国に見劣りすることは否めない。
有り体に言ってしまえば、日本のユーフォロジーというのはアメリカさんの「後追い」に終始してきた面が非常に強い。
いや、これはオレ自身の反省でもあって、再三「ジャック・ヴァレはこんなことを言っている」などと書き散らかしているこのブログ自体が「舶来」をありがたがる「植民地根性」にどっぷり漬かっていると言えなくもない。
例えば「昔ながらの妖精譚・奇譚と現代のUFO現象は同根である」といったヴァレのテーゼにしたところで、それをそのまま日本に適用できるかどうかは疑問である。例えばここで「妖精」のかわりに例えば「天狗」を代入すればいいのかといえば、それもかなり微妙だ。
そういう意味では天に唾する感はある。あるンだけど、とりあえず自分を棚に上げて言わせてもらえば、日本のユーフォロジーは事例研究から何から、その多くをアメリカに頼ってきた(もちろんヨーロッパとか南米とかでもいろいろ起きているんだが、UFO情報ということでいうとやはりアメリカ経由というのが質・量ともに圧倒的であったから)。
しかるに、そうそう刮目すべき事件が起きるわけではない我が国にあって「なんか起きねえかなぁ」という切実な思いは、日本でUFOにかかわってきた人たちに共通してあったものと推察される。
いささか話が遠回りになったけれども、「アメリカの情報」を頼りにするほかなかった郡氏も実は内心忸怩たるものがあり、どこかで不全感を抱いてきたのではないか。さらに想像をたくましくすれば、おそらく彼はこんな風に考えたハズなのだ。
――ああ、めぼしい事件が起きないんだよなあ、日本って。悔しいなあ。なんかこの国で起きりゃ、このオレ様が縦横に活躍してやるのになあ…
そんな思いを抱いていた彼の胸中に、ある妄想が兆す。
――いろいろ聞くところによれば、この地球には「レティクル座」とかいろんなところから異星人が来ているらしいぞ。となると、連中は日本にも来てるハズだなんだよな。あ、そうだ、じゃあそういう筋書きで「二次創作」してみたらどうだ! この日本を舞台に異星人たちが相争っている。そんなストーリーはどうだ? いや、こいつはなかなか面白いぞ!
かくて彼の脳裏には、異星人が跋扈している「あらまほしき」日本のイメージが膨らみ、あり得たかもしれない衝撃的な事件の数々がまざまざと浮かび上がる。結果、その妄想の世界は一冊の本に結実する。それこそが天下の奇書『異星人遭遇事件百科』。
その空想の世界においては、彼は異星人のたくらみを見抜き、警鐘乱打を打ち鳴らす正義の「異星人アナリスト」である。もはや彼は、アメリカさんの後をついて回るしかない哀しきUFO研究者などではない。かくて、虚構の中に生きる喜びを知った彼は、テレビにまで出て自らの生み出した世界を現実のものであるかのように語り出す。「小説」だったら何の問題もなかったんだろうが、彼としてはそれを「事実」として語ることの誘惑に勝てなかった。そういうことではなかったのかと思う。
加えて、彼の心理を(強引に)もう一歩深読みすることも可能だ。
彼の示す「異星人の勢力分布図」は、様々な異星人が日本を幾つかのブロックに分割して「縄張り」を分け合っているというものであるが、「なんか似たようなのをどっかで見たなあ」とお感じの方もいらっしゃるのではないか。そう、先の大戦後、米国など戦勝国の間で一時期検討されていたという「日本分割統治計画」の地図である。


写真左は郡氏の「異星人勢力分布図」、右は「連合軍分割統治地図」
最終的にはアメリカの進駐軍が日本全土を支配することになったけれども、その前段階で、米ソ英中が地域ごとに日本を統治したらどうだろうかという計画があった。その際の各国の幻のテリトリーを示すのがこの地図である。で、彼の「異星人分割地図」は、この「連合軍分割統治地図」にヒントを得て生み出されたものではなかったか、というのがオレの仮説である。
またまた勝手に郡氏の内心を想像してみる。
先にも述べたように、彼は「日本人である自分が一から十までアメリカさんが仕立てた舞台の上で踊らざるを得ない」状況に釈然としない思いを抱いていた。ある意味、日本は「占領」されている。しかしそれが何とも気にくわない。日本人は日本人のユーフォロジーを立ち上げて、この「占領状態」から脱しないとダメなんだ。そのためには「日本が占領されてる」状態をみんなに突きつけないといけない。
そんな潜在意識が「異星人分割地図」を書きだす段になって顔を出してしまった。どこかで見た覚えのある「連合軍分割統治地図」をなぞるようにして、彼は自らの地図を描いてしまう。意識したかどうかはともかく、その地図は「主体性を失った日本への苛立ち」を彼なりに表現するものだったのだ。
………とまぁ、今回も勝手な「推理」を並べ立ててしまった。ただ、先にもちょっと触れたように、ドラスティックな事件が起きない日本において「ボクのかんがえた、さいきょうのUFO事件」を妄想してしまいたくなる心性というのは、この国に生きるUFO愛好家たちがいかほどか共有してきたものではなかったか。
次回はその辺にかかわるおはなしをしてみたい。(つづく)
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