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超常・オカルト方面のネタ番付というものがあるとして、かつて「UFO」は東の正横綱クラスに堂々君臨する王道ネタであった。

時移って、残念ながらそんなUFOネタも今では小結辺りでウロウロしている感があるのは否めない。が、そんな風潮に抗って孤軍奮闘している同人誌が

「UFO手帖」

である。UFO好きの有志が様々な切り口でUFOを論ずる雑誌として、これがギョーカイで独自の存在感を放っていることは、こんなサイトをわざわざ訪ねてきたアナタであるならば重々ご承知であろう(願わくは、たぶん)。

で、待望久しかったその最新版「UFO手帖5.0」が、このほど1年間のインタバルを経て遂に刊行された。通販等にさきがけて現物を入手することができたので、今回は簡単にその内容をご紹介しよう。


■特集

今回の特集は、映画『UFO―オヘアの未確認飛行物体』である。2018年製作のこの作品、日本はもちろん本国アメリカでも劇場では公開されなかったというぐらい地味なUFO映画なのだが、その実、篤実なUFOファンにとっては噛めば噛むほど味の出るスルメのような佳作である。では一体どこが凄いのかという話になるワケで、異常な嗅覚をもってどっかから本作を見いだしてきた秋月朗芳編集長ほか有志の方々が、その魅力を深掘りしたのが今回の特集である。

簡単に説明すると、この映画は2006年にアメリカ・シカゴのオヘア国際空港で実際にあったUFO事件を下敷きにしている。

空港の上にエンバン状の物体が出現する。衆人環視の中、しばし滞空したエンバンはやがて上空の雲を突き破って飛び去る。その雲には「まん丸な穴」が開いていた――実際にあった事件はそのような奇妙なものであったワケだが、本作もまたこれと同様な事件が起きたという設定で始まる。

もちろん、映画にはこれにプラス・アルファの要素が加わっている。エンバンは空港上空に出現した際、管制塔の交信記録の中に謎めいた音声信号を残していった。で、数学好きの地元の或る大学生が、ひょんなことからその事実に気づいてしまい、それが人類に向けたメッセージであることを見抜く。右往左往した結果、彼はその解読に成功するのだが……といったのが大体のストーリーだ。

いや、大したスペクタクルがあるわけではない。映画としては実に渋い。渋いのだが、しかし、このストーリーには、実は我々UFOファンの琴線に触れる部分がある。そこが本作のキモなのである。

「誰も気づいていないUFOの秘密にオレは肉迫しているッ!」というのは、UFOファンであれば一度は妄想してしまうシチュエーションである。ここで描かれるのは、まさにその陶酔感、恍惚感。そこいらあたりの描写が我々としては身につまされる。何だか浸みる。いや、かつて矢追純一UFOスペシャルを食い入るように見て、一瞬でも「ひょっとしてマヂ?」と思ってしまったアナタであれば、その感覚に覚えがないとは言わせないッ(笑)。

というわけで、本特集ではこうした本作の魅力が紹介されるほか、モデルとなったオヘア事件や、空港が舞台になったUFO事例、多くの人々が目撃した1980年代以降の事件などが幅広く紹介されている。もう一つ言っておくと、この映画の中では主人公が数学の才能を生かして暗号のデコードに励んでいくンだが、特集ではそのあたりについての解説もある。典型的文系脳のオレは映画を観ててもその辺の理屈がほとんどわかんなかったのだが、その「微細構造定数の彼方に」という論考を3、4回読むことで、その理屈をなんとか七割ぐらいまでは(笑)理解することができた。

表紙を含め、随所に掲載された窪田まみ画伯のイラストもそそる。UFOファン必読の企画である。


■連載など

連載も好調である。ポップカルチャーにUFOが刻印を残した事例を取り上げた「邦楽とUFO」「洋楽とUFO」「UFOと漫画/アニメ」。ラインホルト・O・シュミットというオールド・ファッションド・コンタクティーを紹介する「アダムスキーみたいな人たち」。

「古書探訪」は岡山のコンタクティ、安井清隆・畑野房子夫妻にまつわる不思議な話を取り上げたローカル本を発掘している(ついでにいうと、この記事の書き手は我が子にUFO英才教育を施すという戦慄すべき実践に取り組んでおり、その成果の一端は今号掲載のミニコラムに記されている…)。「シリーズ 超常読本へのいざない」は、比喩的にいうならば「追いかけると逃げてしまう」超常現象特有のアポリアを森達也氏などの著作を通じて追究した意欲作。

「乗り物とUFO」は、UFO現象に付随して、何故だかしらんがしばしば登場するヘリコプターにズームイン。「ブルーブックもつらいよ」は、しょうもない事例なんかにも付き合わあわざるを得なかった米国の調査機関、プロジェクト・ブルーブックの悲哀(?)を今回もしみじみと描いている。

あと、連載関係ということでひとつ触れておくと、以前の「UFO手帖」には筆者がそれぞれにイチオシのUFO事件を紹介する「この円盤がすごい!」という奇っ怪な企画があったのだが、これは今回休載。ちょっと残念である。次号ではどなたか書いてほしい。


■その他

このほか、エッセイ「飛鉢の法」は「信貴山縁起絵巻」などに出てくる「空飛ぶ鉢」にスポットを当ててて読むと何だかスゲー自分がインテリになった気分になれるし、UFOに触れた1947-79年の雑誌記事を網羅しようという「新編・日本初期UFO雑誌総目録稿」(今回のはその第一回という位置づけだが)はたぶん30年後にスゲー価値が出てくる資料である。もちろん、毎号人気の四コママンガ「フラモンさん」もいつもながらジワる。



■最後に

で、なんかここまでは評論家みたいなことを偉そうに書いてきたけれども、実はオレもここ何年かこの同人誌に原稿を載せてもらっている関係者のひとりで、今号にも1本書いている。アメリカのボブ・プラットという研究家が「ブラジルのUFOは如何に乱暴か」ということを書いた『UFO Danger Zone』という本の感想文である。買った人はヒマな時にこれも読んでください(笑)。


ということで、本号は11月22日に開かれる「第三十一回文学フリマ東京」で頒布されると聞いている(コロナで中止にならなければ)。もちろん早晩通販も開始されるハズである。文学フリマ終了後にココをご覧になった方は、版元の「Spファイル友の会」のサイトを定期巡回されたい。


追記

なお、何年も後にコレを読んだ人が疑問に思うといけないので老婆心ながら書いておくが、表紙にあるコピー「ぼくたちは、UFOをまさわなければならない」というのは、ちょうどこの本が出た時期には新型コロナウイルスが流行しており、結果経済活動が停滞しがちであったことから「いや、経済はまわさないといけないよネ」という言説が広まったのをもじっているのであって、海老一染之助・染太郎とは全く関係ない。というかこの時点でこの2人は物故しておられる