■第十四章 敵陣突破!


さて、「UFO問題にクビを突っ込むとロクなことがない」という話は本書でも何度か出てきたところであるが、こうした問題を真正面から取り上げたのが本章である。要するに「超地球人」というのは、関係した人間に嫌がらせをしたり、時には酷い仕打ちを加えたりするトンデモないヤツらだというのである。


キール自身、1966年に研究を始めてからいろいろと不思議な経験をしてきたという。とりわけ電話絡みの話は多く、行き当たりばったりで泊まったモーテルに何故か自分あての電話メッセージが残されていたり、「宇宙人」と称する者から電話がかかってきたりすることも再々あった。むろんそれだけではなく、夜中に寝ていたら巨大な黒い幽霊が出現したこと、ポルターガイスト現象に見舞われたことなどもあったようだ。もちろん、たびたび出没した「メン・イン・ブラック」なんかも連中の眷属ということになる。

それでもキールの場合は何とか「ヤツら」と折り合いを付けることができた。だが、中には被害を被った者たちもいる。とりわけ面白いのは(といってはイカンのだが)単に嫌がらせをされたというンではなく、「宇宙人」から予言を伝えられ、それがけっこう当たっているものだからすっかり信用していたら最後の最後にハシゴを外されて、哀れ社会から爪弾きにされてしまいました、みたいなパターンである。


ここで一つ挙げられているのが1967年のケースである。彼によると米国などではこの年の春以降、「UFOの搭乗者」はもちろん、霊媒や自動筆記など様々なルートを通じて、お互い関係のない各地の人々に様々な予言が降ってくるという不思議な現象があったらしい(キールからみればその発信元はすべて「超地球人」だということは言うまでもない)。


そして、本書によれば、キール自身も当時、こうした予言騒動の渦中にあった。この年の10月、彼は「UFOの乗員」を名乗る者からの電話で「まもなくオハイオ川で大惨事があり多くの人が溺死する」との警告を受けた。さらに12月11日には、やはり謎の電話で「アリゾナ州トゥーソンで飛行機事故がある」と告げられた。


それからどうなったかというと、12月18 日、トゥーソンでは本当にジェット機がショッピングセンターに突っ込む事故が起きた(注:キールは「事故は電話の翌日に起きた」と書いているが、これは記憶違いか。あるいは電話は17日にかかってきたのかもしれない)。

12月15日には、
ウエストバージニア州とオハイオ州を結ぶ吊り橋、シルバーブリッジがオハイオ川に崩落する大惨事が発生した(ちなみにこの橋はキールが取材した「モスマン事件」の現場ポイント・プレザントのすぐ近くにあって、事故の顛末は彼の著書『プロフェシー』で詳述されている)。

要するに彼が教えられた予告は「当たった」。


このほか、7月19日にノースカロライナ州ヘンダーソンで起きた航空機の空中衝突事故、現職のオーストラリア首相だったハロルド・ホルトが12月17日に海水浴をしていて行方不明になった出来事など、この時期に流布した予言で当たったものは幾つもあったらしい。


ただ、ここがポイントのようなのだが、一連の予言の中で最も衝撃的で、人々を震撼させた
ローマ法王(当時はパウロ6世)がトルコで暗殺される」あるいは「ニューヨークシティが大洋に滑り込む(地震で?」といった予言は完全に外れてしまった。あるいは「今年12月24日には何か未曽有の大事件が起きる!」という「お告げ」も、このころ世界中の霊媒やUFOコンタクティーたちのところに下りてきたのだが、もちろん最終的には何も起きなかった。信じて大騒ぎしていた人は当然、「世間を騒がす不届きものめ!」と糾弾されて面目を失ってしまうのである。

われわれ日本のUFOファンとしては、起こりもしない天変地異の予言を信じ込んでしまって「
リンゴ送れ、C」事件を起こしてしまった宇宙友好協会(CBA)のエピソードをついつい連想してしまうところである。ともあれキールはこう書いている。





彼らはすべての人間のできごとについての完全な予知能力を持っていると信じ込ませることができる。そして、これらの人々が完全に信じたとき、超地球人たちはその舞台に一人のジョーカーを登場させる。(273頁)




これらの人々(注:予言を受け取った人々)は、空飛ぶ円盤や地球人を信じざるをえないようなできごとをつぎつぎに経験する。そのあとで、彼らは、自らを破滅させる約束や考え方で、身動きができなくなってしまったのである。(276頁)



要するに、「彼ら」はオイシイ撒き餌をまいて人間を信用させ、すっかり間にうけた人間が「大変なことになる!」などと大騒ぎを始めたら、プイとどこかに消えてしまう。そうやって人間を破滅させて喜んでいるのではないか、というのである。なんだか「初回無料!」とかいって健康食品を買わせ、その実、バカ高い価格で継続購入する条項を契約書に仕込んで暴利をむさぼる悪徳商法のようなやり口である。汚い。


で、本章ではこういう魔の手に落ちた挙げ句、自ら犯罪をおかすところまでいってしまった人の実例なんかも挙げている。たとえば――

    1952年、ブラジル・サンパウロ州でUFOの搭乗員と出会ったアラジノ・フェリックスは、やがてそいつらとの交流を開始。「ディノ・クラスペドン」という名で「わたしの空飛ぶ円盤との接触」なる小冊子を刊行したりする。それ自体は話題にもならなかったようだが、1965年になると、彼はアラジノ・フェリックスの名で予言者として世間にその姿を現す。

    同年には近くリオデジャネイロで起きる洪水、1967年にはマーティン・ルーサー・キングやロバート・ケネディの暗殺を予言し、これはいずれも当たった。さらに彼はブラジルでの暴動勃発を予告し、以後、実際に警察署襲撃や銀行強盗が続発しはじめる。

    ところが、1968年に犯人グループを芋づる式にたどっていって捕まえたメンバーの首魁は、なんとこのフェリックスその人であった! どうやら彼は「宇宙の友人」の口車に載せられて、「ブラジル支配計画」に乗り出していたようなのだった・・・


類似のケースはこのほかにもいろいろ紹介されている。1960年代はじめにUFOを目撃したのがきっかけで「予言者」になってしまったフレッド・エヴァンスなる人物は、連中から何を吹き込まれたのか、オハイオ州クリーヴランドで奇怪なグループを結成。そいつらは1968年7月23日に人々を狙撃しまくるテロ行為をおこなった、等々。

*なお、キールはこうした話の後で、UFOの搭乗員とコンタクトした人々がしばしば耳にするという「不思議な言語」についてチョロチョロっと書いている。それはギリシャ語、ラテン語、ヘブライ語など、いろんな言語がちゃんぽんになったものらしい。それがどうしたという気もするが、あるいは「超地球人」にも「文化」というようなものがあって、そういう言語がヤツらを識別する一つのあかしだと言いたいのかもしれない。知らんけど。


さて、本章の最後には、これまで触れてきた「超地球人の悪辣さ」とは一見あんまり関係なさそうなテーマが出てくる。彼らは意のままにテレポーテーションしたり――あるいは人をテレポーテーションさせる――能力をもっているのではないか、という話である。

キールがとりあえずここで紹介しているのは、1968年5月、アルゼンチンをクルマで走行していたジェラルド・ヴィダル博士とその妻が、突然濃い霧に包まれたかと思うと、なぜか48時間がたっていて、かつ6400キロ離れたメキシコシティに着いていた、という結構有名なミステリーである。


要するに、UFOと遭遇した人間はこの種の時空を超えた体験をすることがあり、テレポーテーション以外にも、いわゆる「ミッシングタイム」であるとか、逆に様々な体験をしたハズなのに気がつくとほとんど時間がたっていなかったという「時間圧縮」現象が起きるのだ、ということを言っている。つまり「ヤツら」は事ほど左様に人間をコントロールするすべに長けており、それ故に連中に見込まれた人間たちはどうしたって狂信に追い立てられてしまうということを言いたいのかもしれない。


まぁこの期に及んでも「じゃあ、なんでそんなことするのよヤツらは?」という疑念は晴れないままなのであるが、そんな割り切れない思いをよそに本書はいよいよ最終章へと突入していく。(つづく


*なお、章題は原語で「Breakthrough!」というのだが、何だか意味がよくわからなかった。邦訳は「敵陣突破!」としているが、「突破されちまった!」みたいなニュアンスなのか、あるいは「オレはヤツらの真相に突っ込んだぞ!」という感じなのか? お分かりの方はご教示ください

*
ジェラルド・ヴィダル博士の事件については、どっかでありゃHOAX(すなわちインチキ)だったという話を読んだ気がするのだが、今になってみると見当たらない。記憶違いかもしれないが心当たりの方はこちらもご教示のほどよろしくです




(付記)その後、「
ジェラルド・ヴィダル事件はガセ」という記述をジャック・ヴァレの『コンフロンテーションズ』第6章でハッケンしたので以下に引用しておく。


UFOを真面目に研究している者であれば、アマチュアでさえ当然知っている「ヴィダル事件」というものがある。これは、ラテンアメリカにあっはこれまで最重要視されてきたUFO事件のひとつである。

ヴィダル夫妻はある晩、マル・デル・プラタで知り合いとディナーの宴を囲むべく、車でブエノスアイレスを車で発った。が、彼らは目的地にたどり着くことができなかった。彼らの車は結局メキシコで見つかったのだ。彼らは厚い雲のような霧に周囲を取り巻かれ、次いで時間の感覚というものを失ってしまった。ガソリンを買うこともなく、パスポートも所持していないのに、どうやってこれほどの距離を超えてやってきたのか、彼らはメキシコの当局者に説明することができなかった。この事件の顛末は、10冊は優に超す書籍に詳しく紹介されている。

だから、私がアルゼンチンを訪れたときに「詳しく知りたい」と思っていた事件は幾つかあったのだけれど、この事件は当然そのひとつであった。ところが私のアルゼンチン人の友だちは、これを聞いて笑った。彼らもそのヴィダル夫妻をずっと捜してきたのだという。彼らは「ヴィダル夫妻の知人」を知っている人にまで網を広げて探しに探した。「ヴィダル夫妻を知っている」と言い張る人がいないではなかった。だが、結局ビダル夫妻を見つけることはできなかった。

そう、ヴィダル夫妻など最初からいなかったのだ。そんな事件は起きていなかった。

 *ちなみにこの事件、ヴァレは『マゴニアへのパスポート』にはマコトにあったこととして記している。