木というのは必ずしもUFOから身を隠すのに安全な場所ではない――絶体絶命の際、隣人が必ずしも頼りにはなってくれないように。ある種の人たちにとってみれば、テレビのソープオペラというのは、家の外をうろついているUFOなどよりもっと重要なものかもしれないのだ。

1991年9月の或る日の午後6時頃、自転車で家に向かっていたジェリナルドに対して、UFOが抱いた関心はよこしまなものだった。彼は当時18歳で、両親と兄弟2人とともに、リオ・グランデ・ド・ノルテ州アカリの南東4マイルに位置する農場で暮らしていた。

一日中おじの農場で働いた彼は、広大なインガ農園を貫いている荒れた小径を、ウォークマンで最新ヒット曲を聴きながら走っていた。沈んでいく太陽を背にした彼は、農園の母屋や納屋から約200ヤードの辺りに通りがかった。

「暗くなりかかった頃でしたが、大きなボール状の光が山の方からこっちに向かってくるのが見えたのです」。ジェリナルドはその一年後、我々にそう語った。「それは色とりどりで、青、赤、緑といった色をしていました。それは僕の方に降りてきたのですが、すると突然、僕のウォークマンの音が聞こえなくなった。僕は驚きのあまり、自転車を放り出して木の下に走り込みました。それで、かがみこんで両腕を木の幹にまわしました」

「その光体は近づいてきて、木の真上で静止しました。ええ、ちょうど木の上でした。僕はその下に長い間いました。時々上を見上げてそれを見ようとはしたけれど、そうするにはあまりに怖かった。とても寒かったのですが、同時に上からは凄い熱も感じた。あまりにも熱いので、木が燃えてしまうのではないかと思いました」

 ■木が倒される

ジェリナルドは木の幹に20分ほどしがみついていた。だが、熱があまりにも強くなってきたので、それ以上そこにとどまっているのは危険だと彼は思った。彼の左側2、3フィートの辺りには有刺鉄線のフェンスがあった。そこで彼は鉄線の下に飛び込み、それから必死で25フィートほど這って囲いの内側に入ろうとした――そして何とか間に合った。

「ちょうど僕がフェンスの下に飛び込んだ時、大きな破裂音が聞こえました」とジェリナルドは語った。「さらに少し進んだところで、二度目の破裂音がしました。そこで木が塀の上に倒れ込み、横倒しになるのを見たのです」

ジェリナルドは、次に何が起こるのか恐怖を感じつつ地上で腰をかがめた。その木のてっぺんは破裂した状態で倒れ込み、彼が先ほどその下をくぐったフェンスを粉々にしていた。見るからに恐ろしげな、青く光る球体は焦げてくすぶっている切り株の上になお浮かんでおり、辺りのものすべてを照らしていた。

「僕は本当に怖くなって、震えてその場にへたり込んでいました」。そうジェリナルドは話した。「僕はまだその光の中にいたんです。その物体は僕を追いかけているのだと思いました。ところがその時、その光は消えて、それからもう一度点いたかと思うと西の方に去って行きました。光が消えた時、僕が感じていた寒さも消え去ってしまいました」

彼の話は、単なるティーンエージャーの空想だとして退けることができるかもしれないが、彼の他にも、その遭遇体験にまつわる不思議なものを目にした人もいた。それは200ヤードほど離れた大きな農家にいた56歳のセバスチアーニ・サリスで、そこは彼女の一家が所有している農場であった。彼女はジェリナルドの身に起きたことのほとんどを目撃していたのだった。

我々は、ジェリナルドと話をした後、その隣人の家に行ってみた。セバスチアーニが言うには、そのUFO事件が発生した時、彼女はノヴェラ――つまりテレビのメロドラマを観ていた。

「ノヴェラを観ていた時、犬がやたらと吠えるのが聞こえたのです」。そう彼女は言った。「犬のことを放っておくなくて、何に吠えているのか、窓のところに見に行ったのです。シャッターを開けると、木の上に『火』が見えました。それは青色がかった光る球体で、直径は6070センチほどでした。放電する強烈な青いスパークのようなものを出していました。辺り一面が明るくなっていました」

「そこで私はドアのところに行って、様子を見ました。その球体はとても低いところにいて、木に触れるような高さでした。そして、その木の下には男性がうずくまっていました。最初は彼が木の下にいるのがわかりませんでした。というのも、その光のせいでよく見えなかったのです」

次に起きたことを理解するには、説明が必要だろう。ブラジルでは、テレビのメロドラマは晩の早い時間帯に放送されており、毎晩それを全国の人口の四分の一にあたる約4000万人が観ている。ノヴェラはあまりに人気があるため、1992年にメロドラマのスターが殺されて彼女の共演者が逮捕された時など、そのニュースは政治腐敗のスキャンダルで大統領が辞任した話をすっかり霞ませてしまったほどだった。

 ■メロドラマに戻る

セバスチアーニはこうした熱心な4000万人視聴者の一人である。木のてっぺんに青く燃える球体があり、その木の下には若い男性がいるという風景が如何に奇妙であったとしても、彼女は自らをその番組から引き離そうなどとは思わなかった。

「私が観ていたノヴェラは捨て難かったので、ドアと窓を閉めて、テレビを観に家に戻ったのです」。自分がジェリナルドを見殺しにしたことを認めた彼女は、笑いながらも決まりが悪そうにそう言った。

「そのあとしばらくしたら彼はドアのところに来て、たたき始めました。彼はとても狼狽した様子で、『何が起こったのか見て! 空飛ぶ円盤が木の上にいる!』と言いました。彼は、それが近づいて来た時、ひどい寒気がしたとも言いました。彼は帽子をなくしてしまったようで、自転車を道の真ん中に放り出していました。それから彼は、私に自転車を取ってきてほしいと言いました。でも私は、まだあそこに光るものがいるのでそんなことできないわ、と言いました」

その意味するところは、その時点でUFOはまだ遠方の空中にいた、ということである。「二人とも怖がっていたのです」と彼女は続けた。「私は『農場の支配人に電話をして、彼に頼みましょうよ。だって私には取ってくるなんてことはできないから』と言いました。支配人には私が電話をして、その自転車は彼が取ってきてくれました」

彼女は木が倒れる瞬間を見てはいなかったが、それが倒れたことは知っていた。

「木が裂けて砕ける音は聞きました」。セバスチアーニはそう言った。「その木は青々と茂っていたのですが、翌朝見に行ってみると、とても奇妙なことになっていました。というのは、その木の周りには焼け焦げた繊維が残っていて、葉っぱは全部焼けていました。まるで巨大な爪で引っかかれたみたいでした」

ジェリナルドはそれからやっと1マイルも離れていない自分の家に着いたのだが、それがその事件が始まってから2時間後のことだった。「息子は半狂乱でした」と、母親のマルタは我々に語った。「まともに話せないほどだったのです」

この事件を最初に調査したサリス・パガニーニは、当時アカリでUFOグループを主宰していた高校生で、シンシア・ルーチェと私をその農場に案内してくれたのも彼だった。同様に我々を手助けしてくれたのはロナウド・ファリエス――彼はカンピナ・グランデで活動している十数人の研究家の中の一人で、それ以前にパライバで起きた事件について寛大にも我々に情報を与えてくれた人物である――そして彼の妻・ジャケリンで、いずれもアカリの住民であった。

ジェリナルドはその事件後、頭痛、吐き気といった後遺症に悩むことはなかった。が、彼の母親のマルタは、それ以降、彼はある種の心理的な問題を抱え込むことになったと信じている。「息子は何だかボーッとしていることが多くなったのです。それに臆病になってしまった」。そう彼女は話した。

ジェリナルドはその遭遇体験のあった翌日、再び仕事に出かけた。いつも通りウォークマンを聴きながらであったが、それは完全に元通りに動くようになっていた。彼はが日中、焼け焦げた木を目にしたのは、その時が初めてだった。

我々もその木をじっくりと見てみたのだが、引きちぎられて炭状になってねじ曲がった上半分はその時も幹の近くに転がっていて、壊れたフェンスの上を引きずられた形跡があった。地面にあった2本の大きな枝は横側に大きな裂け目が走り、広い口を開けたようになっていたが、それはおそらくはUFOが発した強烈な熱によって樹液が煮えたぎったせいだと思われた。焦げてはいるが、なお直立している幹の部分からは新たにひこばえが出始めていた。、いつの日にかまたちゃんとした木に育つのだろう。そんなことを思わせた。

 ■嵐も送電線もなく

ジェリナルドの身にこの事件が起きた夜、空は晴れあがっていた。雲は全くなかったから、稲妻があった可能性は全くない。木の近くには電線もなく、木を燃えた原因が電気だった可能性――つまり電線同士が接触して火を出すとか、あるいは変圧器が爆発したというような可能性もなかった。

UFOとの遭遇事件で木やその他の植物が燃えるというのは珍しいこととは言えないが、それほど頻繁に起きるものではない。年老いた牧場主のジャヌンシオはヤシの木にしがみついたわけだが(注:同書前半に出てくる人物。やはりUFOに襲われた)、頭上のUFOが発する熱はあまりにも熱かったため、彼は自分が焼き殺されるのではないかと思った。ジャヌンシオの見積もったところでは、その出来事は2分も続かなかったのだが、あまりにも熱かったため、もうちょっと長く続いていたら自分は死んだだろうと彼は確信していた。

その熱が耐えがたいほどになった時、ジェリナルドが味わった感覚というのも同じようなものだったに違いない。その木は地上わずか3、4フィートの辺りで折れており、直立している幹の部分は地面近くまですべて焦げていた。その幹というのは彼がしがみついていた部分であって、もし彼がそこにずっといたら焼かれてしまった、というのも十分にありうることだ。

ますます強くなっていく熱にさらされている間、彼が感じたという寒さについていえば、それは彼が受けた強いショックのせいだったという説明は可能だろう。だが、UFOが去っていった瞬間、その寒さも同時に消えてきまった。そして、ショックというのはそんなに急に去ってしまうものではない。

ともあれ、この事件が始まった時点で、そのUFOはある種の電磁気を放射していたに違いない。なぜならジェリナルドのウォークマンはその時、音を発さなくなってしまったからである。

しかし、その物体がジェリナルドを狙っていたのであれば、なぜそれはその仕事を完遂しなかったのだろう? それは自転車に乗っていた彼に狙いをつけ、彼が木の下に隠れていた時もずっとその真上にいた。UFOを操るエイリアンは彼がそこにいることを知っていたと考えねばならないし、実際彼らは、ジェリナルドが耐えられなくなって逃げ出さざるを得なくなるまで熱を浴びせ続けた。

だが、恐怖のあまり、たった20フィートしか離れていない囲いの中でうずくまっていた時、そのUFOは彼を追い回すような試みをしなかった。そのかわり、UFOは光を消してその場を去り、1、2マイル西のところに再び現れた。こうしたエイリアンたちの正体が何であれ、彼らは死をも辞さない「いじめっ子」のように振る舞い、自分たちがいかに力を持った卑劣漢であるかをジェリナルドに見せつけたかったようでもある。仮にそうだったとしたら、その意図は完全に彼に伝わっていた。

彼はひどく脅かされたのではあるが、その翌日の夜、再び友人たちと外出するのを恐れることはなかったし、それはその後も変わらなかった。「夜に家に籠もってろなんて、誰にも強制できないよ」。彼はそう言って笑った。