さて、今回の東京五輪である。
そりゃ日本勢の活躍で我々国民もそれなりに盛り上がった大会といえなくもないが、無観客での開催というすこぶる異様な競技大会であったことは確かだし、コロナ対策そっちのけで開催をゴリ押しした政府の狂態、そして開会式・閉会式のあんなこんなのグダグダぶりなどを見せられた日にゃ、なんだか「あぁ日本はこんなにも劣化してしまったのだなあ」みたいな感慨を抱かざるを得なかった。
で、今回はそれに関連してひとつ痛感したことがあったので、そのことを指摘しておきたい。日本のスポーツ実況の劣化という話である。
これはご記憶の方も多いかもしれないが、とりわけ8月2日に行われた野球の日本対米国戦のテレビ実況は酷かった。これはTBSの初田啓介なるアナウンサーが担当した試合であったが、平凡な外野フライを「伸びた、入った、ホームラン!」などと叫んで解説の宮本慎也にたしなめられるなど、随所で大ボケをかましてくれた。ヒットと凡打の区別すらつかず、バッターの当日の打撃成績も頭に入っていなければ次の試合日程もチェックしていない。全国の野球ファンもさすがにあきれかえったらしく、この初田アナ、ツイッターでもボロクソに叩かれまくっていた。
そもそもTBSというのは、かつては「スポーツのTBS」と言われたぐらいで、スポーツ実況では民放屈指の実力を誇っていたものである。それがいつのまにかこのザマである。これはどこまで一般化できるかは分からないが、最近のアナウンサーというのは技量を磨く地道な努力・精進というものを怠っているのではないかと思った。
実際、今大会の実況に関してはもう一つ、この「初田事件」に劣らずかなり気になる出来事があった。

西矢椛選手
何の話かというと、今大会、スケボーの女子ストリートでは13歳の西矢椛選手が金メダルを取ったのだが、その実況でフジテレビの倉田大誠アナウンサーが
「13歳、真夏の大冒険!」
と絶叫して話題になったのだという。オレはこれを見ていなかったのだけれども、どうやらSNSなどではこれが「名実況」などと評判になったンだそうだ。
が、オレに言わせればこれは名実況でもなんでもない。
だいたい今回五輪競技になったスケボーというのは、いろいろな報道を見聞きした限りでは従来の競技とはだいぶん色合いが違うスポーツのようだ。各選手には「国家を背負っている」というような悲愴なところはない。お互いにとても仲が良くて、競技をしていても友だち同士でワイワイ遊んでいるような雰囲気がある。まぁもともとストリートスポーツということもあるのだろう、「いまの技すごい~」「いいねッ!」みたいな会話を交わしながら技量を競い合う。そんなフレンドリーな世界であるようなのだ。
ということでいうと、今回金をとった西矢選手にしてみれば、いくら「五輪の晴れ舞台」などといっても、自分にとってみれば日ごろ仲間たちと楽しくやっている競技の延長線上。気負いも何もなく無心にやったら金だった。そんな話ではなかったのか。
そこで「13歳、真夏の大冒険!」である。確かに彼女は「13歳」である。「真夏」だったというのもウソではない。しかしおそらくそれは「大冒険」なんかじゃなかった。勝手知ったる仲間たちと競い合ったその一日は、彼女にとって当たり前の「日常」ではなかったのか?
「13歳が金メダル」だというので何とか実況をドラマチックに盛り上げたい。倉田アナはそんな風に考えたのだろう。13歳がすごいことをやってのけた、これは大冒険だ――こう言いたくなった気持ちはわかる。わかるけれども、それは「実況」ではあるまい。目の前に展開されている世界から目をそむけて、自分で作り出した言葉に酔っている。あるいは「仮に彼女が金を取ったらば・・・」ということで、事前にこしらえておいたセリフだった可能性すらある。いずれにせよスポーツ実況としては邪道だろう。そして、こんなものを褒めてる連中の目も「節穴」である。
本当のプロの仕事を軽んじる。みかけを取り繕うことにばかり精を出す。そして世間も「それでいい」と思っている。これではいかんだろう。衰えゆく日本の姿はこんなところにも顔を出しているんではないか。そう、これも確かに此度の東京五輪の一断面であった。
本当のプロの仕事を軽んじる。みかけを取り繕うことにばかり精を出す。そして世間も「それでいい」と思っている。これではいかんだろう。衰えゆく日本の姿はこんなところにも顔を出しているんではないか。そう、これも確かに此度の東京五輪の一断面であった。
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