それでは「サンアントニオ事件」というのは何だったのか。今回はヴァレ&ハリスの「Trinity」に拠って、その概要を紹介してみたい。
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1945年8月16日の木曜日。米ニューメキシコ州サンアントニオに住んでいたホセ・パディージャ(当時9歳)と、年少の友人であるレミー・バカ(同7歳)は、馬に乗って放牧地へと出かけていった。

サンアントニオというのは、「いかにもニューメキシコ」という、荒涼とした土地の只中にある小さな集落だった。住人たちは賃仕事にも出ていたが、放牧の仕事はそれぞれの家にとっては貴重な収入源である。第二世界大戦の影響ということもあったのだろう、年端のいかないホセたちも、当時は日々の牧場仕事を手伝ってくれる貴重な労働力であったのだ(余談ながらこの本には、そんな時代背景もあって当時のホセなどはまだ9歳の分際でフツーにクルマを運転していたという話も出てくる。ホンマかいな?)

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 少年時代のホセ・パディージャ


さて、二人がこの日に出かけたのは、ホセの父親に仕事を頼まれたからだった。「放牧していた牛の中に出産間近の雌牛がいる。その様子を見てきてほしい」というのである。岩場に来たところでそれ以上馬が進めなくなると、二人は徒歩で先に向かうことにした。やがて彼らは、その雌牛と無事生まれた仔牛とを無事確認することができた。ひと安心してとりあえず持参した弁当を食べようとした頃、一帯はひとしきり激しい嵐と豪雨に見舞われたという。

さて、嵐もおさまって「もう一回雌牛と仔牛の様子を見ていこう」などと彼らが話していたところ、突然大きな爆発音がした。

時間はおそらく午後4時か5時。ちょうどその1か月前、つまり7月16日には人類初の核爆発実験「トリニティ」が数十キロ離れた「グラウンド・ゼロ」で行われており、その物凄い爆発については二人とも鮮明な記憶があった。だからまず彼らは「また核爆発があったのか?」と考えたという。ちなみに「トリニティ」の爆発現場からみると、ホセの家は北西18マイル(約29km)、事件現場は北西25マイル(約40km)の地点にあった。いずれも相当な至近距離である。なお、「この核実験と事件には何らかの関わりがあったのだ」ということを後にヴァレは言い出す。が、その点については今は措く。いずれ論及することにしたい。

閑話休題。爆発音が聞こえた後、渓谷を幾つか越えた辺りに煙が上がった。二人が近くまで歩いていったところ、地面がグレーダーで削られたかのような溝が向こうまでずっと続いていた。その深さは1フィート(約30cm)、幅は100フィート(約30m)。溝の先には何があるのか。彼らは道のようになった溝を前に進んでいったが、足の裏には熱が感じられた。辺りの灌木は燃えていて煙が上がっていた。

やがて2、300フィート(約60-90m)先に何かが見えた。彼らが双眼鏡越しにみると(牧場の仕事上必要なので双眼鏡は常時携帯していたらしい)、そこにはアボカド型の物体があった。大きさは長さ約30フィート、高さ15フィート。側面には穴が開いていた。さらに物体の脇には身長4フィートほどの小さな生き物がいた(3体という証言がある)。淡い灰色のつなぎの服を着ており、体に比して頭は幾分か大きかったというが、その頭部はカマキリに似ていた。その生き物は、何やら空中をスライドするようにスーッスーッと動き回っていた。

その生物が発していたのかどうかは分からないが、苦しんでいるウサギか新生児の泣くような声がした。レミーの証言では、そのとき頭の中に「イメージ」が浮かび上がり、彼らの「悲しい気持ち」が伝わってきたという。

ホセは「彼らを助けよう」と言った。だが、年少のレミーはすっかり怖じ気づいてしまった。辺りが暗くなり始めたこともあって二人はそのまま家に帰ることにした。ホセの家で話を聞いた父親は、州警察に連絡をすると言った。
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以上が「事件初日」の顛末である。が、ここで補足的に言っておくべきことがある。

まずは現場近くにあった「溝」の件である。要するにこれは、墜落した物体が地上を滑走していった時に出来たものだろうとヴァレたちは結論している。当時近くには高さ20mほどの軍用の無線タワーがあり、ホセは「その物体は飛行中にタワーにぶつかって墜落したのだろう」ということを言っている。もちろんその瞬間を二人が目撃していたわけではないのだが、ホセは事件後そのタワーのところにいって、南西角にかなりの損傷があったことを確認したという。

もう一つ、この最初の出来事があった日、彼らは現場近くに散乱していた墜落物体の「破片」らしきものを拾い、持ち帰っている。一つはクルクルと丸めても自然と広がってしまうという、つまりはUFO話の定番ともいえる形状記憶合金のような金属ホイルである(レミーの証言では幅約4インチ、長さ15インチだったという)。さらにこれとは別に、今日の光ファイバーを思わせる繊維状の物体――彼らは「エンジェル・ヘア」などと呼んでいる――も彼らは如何ほどか拾ったらしい。

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「グラウンド・ゼロ」からの距離を示す一帯の地図

ただ、この事件にはなお「続き」があった。目撃者の少年二人は、米陸軍が現場で行った墜落物体の回収作業をひそかに観察し続ける。彼らはその際、スペイン語でいうTesoro――つまり「宝物」と名づけた謎の物体を手に入れることにも成功した。以降は次回。(つづく