前回までのところで、少年たちがUFOから取り外してきたという触れ込みの「ブラケット」は、必ずしも墜落事件の真相に迫る物証とは言えないことがうすうす分かってきた。ただ、墜落現場の周辺で彼らが拾ったマテリアルとしては、このほかにも「金属ホイル」や「エンジェル・ヘア」といったものがあった。これらは長い年月の間に失われてしまい、実地に調べることはもはや不可能なのだが、関係者はこうした奇妙な物体について何を語っているのか。そこンところを押さえておくのも意味のないことではあるまい。
ホセとレミーが墜落現場付近に日参していたことは先に述べたが、その間、レミーは金属ホイルのような物体を拾っている。彼によればその大きさは4×15インチほど。「クシャクシャに丸めてもすぐに元の形に戻ってしまった」というから、今で言う形状記憶合金のようなものだったのだろう。
それがその後どうなったかというと、しばらくして、レミーの家の井戸に取り付けた風車――つまりは風力揚水ポンプの動力として使っていた風車のようだ――が壊れてしまった。調べてみるとその駆動部のケーブルが切れていた。父親に「何とかならんか?」と言われたレミーは、ふと思いついてこのホイルを持ち出し、ケーブルをつなぐためにこのホイルでグルグル巻きにしてみた。結果的にその修理はうまくいった。風車は以前と変わらず動き始めたのだった――。
それがその後どうなったかというと、しばらくして、レミーの家の井戸に取り付けた風車――つまりは風力揚水ポンプの動力として使っていた風車のようだ――が壊れてしまった。調べてみるとその駆動部のケーブルが切れていた。父親に「何とかならんか?」と言われたレミーは、ふと思いついてこのホイルを持ち出し、ケーブルをつなぐためにこのホイルでグルグル巻きにしてみた。結果的にその修理はうまくいった。風車は以前と変わらず動き始めたのだった――。
・・・・・・とまぁ、そういう後日談が記されているワケなのだが、この本の中では、その井戸と風車の「それから」については書かれていない。「そういう証言があるんだったら、井戸のところ徹底的に調査すりゃホイル出てくるかも!」と思うのだが、そんなことをした形跡はない。要するにこの風車はそのあと放置され、やがて朽ち果ててしまったのではないか。とすれば、これ以上のことは分からない。
ついでに言っておくと、この井戸はレミー家のものではなく、ファウスティーノ家――つまりホセの家の地所にあったものだとする記述も一部にある。「いったいどっちなんだよ?」と思うワケだが、この件についてはレミーが父親と交わしたやりとりが比較的詳しく記されているので、おそらくはレミー家の井戸ということで良いのだろう。本書を読んでて、「この本ってちゃんと編集者のチェック入ってないんじゃないの?」と思うことはたびたびある(苦笑)。
* * *
それから「エンジェル・ヘア」と呼ばれた物体も少年たちは手にしていた。こちらの物体も、やはり現場付近に散らばっていたのを彼らが拾ったものなのだが、それは「銀色の撚り線」「クリスマスツリーの飾りもの」「クモの巣」「断熱材」といった言い方で描写されている。要するに今でいう光ファイバー、あるいはコットンないしはグラスウールみたいなものが塊状になったヤツということなのだろう。ちなみにホセは「マッチの火で燃やそうとしたが燃えなかった」という証言もしている。このエンジェル・ヘアについては少年たちもかなりの量を拾ったらしいのだが、その多くは「クリスマス飾りに丁度いい」ということで近所の人に配ってしまったらしい。そして、今では全く残っていないというのは金属ホイルと同様である。


ネットで拾ってきた「エンジェル・ヘア」のイメージ写真(本文とは関係ありません)
【注】なお、UFOファンであれば先刻ご承知であろうが、UFOの出現にともなってクモの巣状の物体がフワフワと降ってくる現象は過去しばしば報告されており、この物体を業界では「エンジェル・ヘア」と呼んでいる。その辺を知ってか知らずか、この事件の関係者たちもナゾの物体についてこの呼称を用いているようだ。もっとも、ふつう「エンジェル・ヘア」はゼラチン状だったり、あるいは落ちてくるとほどなく昇華して消えてしまうと言われているので、そこのところはこの事件における物体とは違うもののようである
このほか、現場近くで墜落事件と関係のありそうな「鋼材」が見つかったという話もある。ホセの証言によれば、1956年頃に「ホセのイトコ」が、たまたま墜落現場の南西約4マイル地点で、長さ3フィートのI字型鋼材を発見したことがあるのだという。ただホセは1956年の時点では故郷を離れていたはずで、つまりこれはおそらく後になって「イトコ」から聞いた話かと思われる。そのせいなのか、このエピソードについての証言というのは細部がハッキリしない。ついでに言っておくと「ホセのイトコ」は拾った鋼材をスクラップに売り払ってしまったという話になっている。従ってこのブツについても追跡は不可能である。
というわけで、事件にまつわる「物証」として現存しているのは、けっきょく怪しげなブラケットだけなのだった。こうなると残る手がかりはやはり「証言」や「状況証拠」しかない。その辺はいったいどうなのだろう。ホセとレミーの言うことを我々は信用していいのか? 他に傍証となるようなことを語っている人はいないのか? 次回はその辺のことを考えてみたい。(つづく)
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