さて、この「サンアントニオ事件」の主要目撃者であるホセ・パディージャ、レミー・バカの証言は本当に信用するに足るのか? 正直言えば、これはかなりツッコミどころが多いような気がする。一般論ではあるが、お互い全く無関係な人々の間で同様な証言が得られたのであれば、その事件の信憑性は高くなる。しかし、小さい頃の2人は兄弟同様につきあっていたようなのである。そこはナンボか割り引いて考えねばならんだろう。
確かに本書でヴァレやパオラ・ハリスは、この目撃者たちは決して「でっち上げ」をするような人間ではないと言っている。とりあえずその言葉は信用してみたい。だが、だからといって彼らの語ったような事件が本当に起こったのかはどうかは分からないのである。たとえば、近しい関係にある複数の人間が一種の妄想を共有するという奇っ怪な現象は実際にあって、精神医学方面には「感応精神病」(フォリアドゥ)という概念もあるらしい。この事件は感応精神病めいたメカニズムの産物で、彼らが過去に見聞きしたUFO絡みの知識を無意識的に総動員して「作り上げてしまったもの」だった――そんな可能性だってあるんではないか。
考えてみれば、彼らの証言には「これまでUFOについて巷間語られてきたエピソード」がチラチラ見え隠れする。
彼らが入手したという「折りたたんでもすぐ元の形に戻ってしまう形状記憶合金みたいなホイル」というのは、やはりUFOが墜落したという触れ込みで有名なロズウェル事件のストーリーにも出てくる。あと、関係者のところにやってきた軍部の連中が「何か墜落してたと思うけど、それって気象観測気球だからネ」みたいな「言い訳」をするのもロズウェル事件のそれを踏襲している。ついでにもう一つ言っとくと、2人が拾った「エンジェル・ヘア」というのも、前回触れたようにUFOの世界では有名な小道具である。ホセたちが自らの体験を語り出したのは2000年代初頭。当然ながらその時点でこうした情報は広く知れ渡っていたのである。
彼らが入手したという「折りたたんでもすぐ元の形に戻ってしまう形状記憶合金みたいなホイル」というのは、やはりUFOが墜落したという触れ込みで有名なロズウェル事件のストーリーにも出てくる。あと、関係者のところにやってきた軍部の連中が「何か墜落してたと思うけど、それって気象観測気球だからネ」みたいな「言い訳」をするのもロズウェル事件のそれを踏襲している。ついでにもう一つ言っとくと、2人が拾った「エンジェル・ヘア」というのも、前回触れたようにUFOの世界では有名な小道具である。ホセたちが自らの体験を語り出したのは2000年代初頭。当然ながらその時点でこうした情報は広く知れ渡っていたのである。
もちろん、UFOマニアの中には「ロズウェルで見つかった形状記憶合金がサンアントニオでも見つかったンか! そりゃ偶然とは思えん!実際にUFOが墜落した動かぬ証拠や!」とかいって喜んじゃう素直な人もいるだろうが、ロズウェル事件の信憑性が地に落ちた今――とオレは思っているんだが――そういう理屈はいささかツライ。「どっかで聞きかじった話を素材として作り上げたストーリーじゃネ?」という疑念が膨らむ。
ちなみにヴァレは、そういう疑念に反駁して「いや、2人は証言の中で自分の見たものをUFOとか円盤とか言わずにアボカド形だった言うとるやん。それが彼らの体験がオリジナルだった証拠や」みたいなことを主張しているが、さて、そのような主張にどこまで説得力があるだろう?
ちなみにヴァレは、そういう疑念に反駁して「いや、2人は証言の中で自分の見たものをUFOとか円盤とか言わずにアボカド形だった言うとるやん。それが彼らの体験がオリジナルだった証拠や」みたいなことを主張しているが、さて、そのような主張にどこまで説得力があるだろう?
じゃあ、他にこの事件についての証言者は他にいないのかというと、これを直接体験した人は基本的にはみんな亡くなっている。現場で墜落物体を目撃したホセの父親ファウスティーノと警官のアポダカがそうだし、「ブラケット」が床下に埋まっている小屋でエイリアン(?)と遭遇した羊飼いももういない。ただ、実はホセたちの主張を補強するような証言をしている人間がいないこともない。なのでここからはしばし、そんな人物たちを紹介してみたい。
まず、ホセの姪で「私も奇妙な金属を見たのよ!」という女性がいる。本書の後半ではその女性――サブリナへのインタビューが記録されている。
このサブリナというのは、本書の記述によれば1953年3月27日生まれ。事情は定かでないが、生後2か月でホセの父親ファウスティーノ(つまりサブリナから見るとお祖父さんである)に引き取られたようで、彼女はカリフォルニアの高校に入るまでサンアントニオで祖父母と一緒に暮らしていたらしい。ちなみにホセは1954年に家を出ているようなので、サブリナからみたホセは、物心ついた頃にはもういなくなっていた「遠くのオジサン」といった感じになるのだろう。
ここで念のため本書にサブリナが登場するにいたる経緯を確認しておきたいのだが、パオラ・ハリスがホセとレミーに接触して調査を始めたのは2010年だった。ところが、レミー・バカは2013年に亡くなってしまった。だからパオラ・ハリスはレミーに面と向かって話を聞けたけれども、2017年にヴァレとパオラ・ハリスが共同調査を始めた時点では、重要目撃者はホセ・パディージャただ一人になっていたわけだ。
ここからは推測だが、「他に誰か証言してくれる人はいないですか?」とかいって聞いてみたら、「そういや姪のサブリナは何か覚えてるんじゃね?」という話になったのではないか。かくてパオラは、2020年になってサブリナに接触する。彼女はそこでおおむねこのようなことを語っている。
ここからは推測だが、「他に誰か証言してくれる人はいないですか?」とかいって聞いてみたら、「そういや姪のサブリナは何か覚えてるんじゃね?」という話になったのではないか。かくてパオラは、2020年になってサブリナに接触する。彼女はそこでおおむねこのようなことを語っている。
・1960年頃(つまりサブリナが7歳前後だった頃)、彼女は墜落現場に1人で行ってみたことがある。辺りの灌木類は全部焼け焦げていた
・お祖父さんから形状記憶効果をもつ細長い金属ホイル2枚、ファイバー状のエンジェル・ヘアを見せられたことがある
・お祖父さんから形状記憶効果をもつ細長い金属ホイル2枚、ファイバー状のエンジェル・ヘアを見せられたことがある
・ホイルは夏でも触るとヒンヤリした。エンジェル・ヘアは暗いところで光り、触ると針で刺したように肌がピリピリした
・ホセおじさんから「ピラミッド型をしたクッキーぐらいの大きさの金属」をもらった。でも子供たちに渡して遊ばせていたら無くしてしまった(なんだよ無くすなよw)
・ホセおじさんから「ピラミッド型をしたクッキーぐらいの大きさの金属」をもらった。でも子供たちに渡して遊ばせていたら無くしてしまった(なんだよ無くすなよw)
要するにホセの父親のファウスティーノも若干の「遺留物」を手元に置いており、孫娘に時折見せていたというのである。ただ、先に触れたように、これも「身内の証言」である以上、信憑性という点ではやはり若干割り引いて聞かねばなるまい。ヴァレたちは「証言者3人になったぞ!」といって喜んでおるが、「それほどのものかよ?」という気がせんでもない。

写真は左からハリス、ホセ、サブリナ(「トリニティ」より)
そもそもこういったサブリナの証言にはよくわからないところがある。たとえば彼女は「ピラミッド型の金属をホセからもらった」と言っているわけだが、ホセの話にそんなものは出てこない(オレがうっかり読み落としてたら別だけど)。また彼女も「金属ホイルは風車の修理のために使ってしまった」という話をしていて、それはそれでイイのだが、彼女の話では修理したのは「ホセの家の風車」ということになっており、前回触れた「自分ちの風車を直した」というレミーの証言と矛盾する。加えてサブリナは「風車はホセとその友だちが修理したのを覚えている」というのだが、ホセとレミーはそれぞれ1954、55年に郷里を離れており、1953年生まれの彼女が物心ついた頃には2人はサンアントニオにはいなかったハズなのである。オレの英語力不足のせいなのかもしらんが、なんだか時系列がグチャグチャになってるような気がする。ひょっとしたら彼女は「人から聞いたこと」を自らが体験したように錯覚しているのでないか? なんか信用ならん気がするンである。
さて、本書を読む限りではもう一人、このほかにも「傍証」となる証言をしている人物がいる。彼はビル・ブロフィといって、「陸軍にいたオヤジが墜落事件に関わった」ということを主張しているらしい。この話も説明するとけっこう長くなってしまうのだが、乗りかかった船なので触れておこう。
レミー・バカとホセ・パディージャは、実は2011年に自分たちの体験を記した「Born on the Edge of Ground Zero」という本を自費出版で出している。まぁパオラ・ルイスか誰かが手引きをして出版したのだろうと思うのだが、ともかくこの本が出た後、このビル・ブロフィなる人物はアマゾンのサイトにレビューを書き込んだ。
このレビューは今も消されてはいないので本日(すなわち2022年6月22日)時点でも読むことができるのだが、そこには「自分の父親は当時、ニューメキシコ州アラモゴードの第231陸軍航空隊でB29爆撃団のメンバーだったのだが、1945年8月15-17日にこの宇宙船の回収にあたったという話を語っていた」ということが書かれている(で、このオヤジはたぶんもう死んでるのだろう)。
このレビューは今も消されてはいないので本日(すなわち2022年6月22日)時点でも読むことができるのだが、そこには「自分の父親は当時、ニューメキシコ州アラモゴードの第231陸軍航空隊でB29爆撃団のメンバーだったのだが、1945年8月15-17日にこの宇宙船の回収にあたったという話を語っていた」ということが書かれている(で、このオヤジはたぶんもう死んでるのだろう)。
果たしてヴァレたちがこのブロフィ氏にちゃんと取材をしたのかどうかは例によってハッキリしないのだが、ともあれこのアマゾン・レビューが端緒となってさらなる情報が明らかになったということなのだろう、「Trinity」の中にはこのアマゾン・レビューの記述を補うような情報も書いてある。
それによると、彼の父親はビル・ブロフィ・シニアという人物であったのだが、彼の証言によれば、当時現場近くを訓練飛行していたB29の乗員が――ちなみに本の中では「B49」となっているが誤植と思われる――例の無線タワーのところから煙が上がっているのを目撃したのだという。飛行機の墜落事件があったものと考えた上官の命令で、ブロフィ・シニアは現場へと向かう。そこで彼は墜落した物体を確認し、さらに近くに馬に乗った「二人のインディアンの少年」を目撃したのだという(その回収作業はほどなく別の人物に引き継がれたことになっている)。
それによると、彼の父親はビル・ブロフィ・シニアという人物であったのだが、彼の証言によれば、当時現場近くを訓練飛行していたB29の乗員が――ちなみに本の中では「B49」となっているが誤植と思われる――例の無線タワーのところから煙が上がっているのを目撃したのだという。飛行機の墜落事件があったものと考えた上官の命令で、ブロフィ・シニアは現場へと向かう。そこで彼は墜落した物体を確認し、さらに近くに馬に乗った「二人のインディアンの少年」を目撃したのだという(その回収作業はほどなく別の人物に引き継がれたことになっている)。
このブロフィ・ジュニアの証言が本当であれば、相当に面白いことになってくる。だが、残念ながら本書ではその辺が十分検証されていない。言いっ放しで終わっている。うーん、例のロズウェル事件なども、いったん話が盛り上がってきたら、よくわからん有象無象がワラワラ湧いてきて「オレも見た!」とかあること・ないこと言って大混乱を巻き起こしたのだった。このブロフィ・ジュニアの言葉もたやすく信用することはできんような気がするのだ。
というわけで、ホセとレミー以外の証言というところにまで視野を広げてみても、決め手となるような材料は出てこない。懐疑的なウォッチャーをして「おお、こりゃ確かにあった出来事と考えざるを得ない!」と言わしめるようなブツは結局全然なかったのである。百戦錬磨のユーフォロジストとして名高いジャック・ヴァレではあるけれども、本件に関してはいささか詰めが「甘い」。流石に彼も老いてしまったのかな・・・そんな感慨もないではないのだ正直いえば。
だが、しかし。ヴァレは時折、この事件が根も葉もないだったとしたらちょっと説明しにくいようなエピソードも繰り出してきて、我々を幻惑するのだった。それはあたかも老練なボクサーならではのクリンチワークのようでもある。あらかじめ言っておくと、それはいわゆる「陰謀論」めいた話にもつながっていくワケだが、次回はそのあたりの「小ネタ」を紹介しよう。(つづく)
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