UFOファンであればご存じの方も多いと思うのだが、ジャック・ヴァレは「UFO問題の背後では米政府が暗躍している」という、一種の「陰謀論」を唱えてきた人物としても有名だ。もっともそれは、矢追UFOスペシャルで散々聞かされた「米政府はひそかに宇宙人と接触して密約を結び、人間の拉致を黙認する代わりにハイテク技術の供与を受けている」といったおどろおどろしいものではない。

オレの理解によれば、ヴァレの陰謀論というのは以下の如きものである。




米政府はUFO問題が何やらとてつもなく重要であることは察しているので、その核心に一般大衆が接近することは何としても阻止しようと必死であり、これまでもニセ情報を流すなどのディスインフォメーション作戦を展開してきた(もっとも連中は未だにUFOの正体をつきとめるには至っていないのであるが)。

ただ連中もなかなか侮れぬところがあって、大衆のUFO現象への関心を隠れミノにして、コッソリ秘密兵器を開発するようなあくどいこともやってきた。要するに、実験のため開発中の最新鋭機を飛ばしても一般市民は「おおUFOが飛んでる!」とかゆうて勝手に勘違いしてくれる。コリャ都合が良いワイ使えるワイという話である。




確かにUFOがしばしば出没するとされてきた例の「エリア51」は実際には新型航空機などを開発する拠点であったというし――そのあたりはアニー・ジェイコブセン『エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実』(2012、太田出版)に詳しい――その限りでは「米政府はUFO問題に絡む陰謀を張りめぐらせてきた」という彼のテーゼもあながちデタラメとはいえない。

してみると、このサンアントニオ事件に関して「米当局がどう立ち回ったのか」というのは当然ヴァレの大きな関心事ということになる。オレなどからすれば今ひとつ証拠が脆弱なこの事件ではあるが、ヴァレはここで「いやいやいや実際に当局は何だか怪しい動きしてたじゃん!」ということを言い募る。そうした当局の暗躍こそが事件がホントにあったことの証拠になるじゃないか、ということでもあるのだろう。以下では本書からその辺にまつわる話を紹介してみたい。


まず第一に興味深いのは、墜落現場のあたりではどうやら何者かが今なお現場の「改変」作業にいそしんでいるらしいというエピソードである。

本書によれば、そのUFOの墜落地点の周りにはずっと植物が生えず、長さ30フィートの楕円形のエリアがぽっかりと空いていたらしい。この手の逸話はUFOの着陸事件とかにはよくあることだ。つまり現場には墜落に伴う何らかの物理・化学的影響があったことを示唆しているワケでそれはそれで面白いポイントなのだが、今回問題になるのはソコではない。その後に起きたことである。

調査に取り組んでいたパオラによれば、2010年代も半ばになって、突然その楕円形エリアを覆うかたちで奇妙な植物が生え出てきたのだという。触るとチクチクし、アレルギー反応を起こす厄介な毒性植物で、それはのちの調査で「nightshade」と「cocklebur」であることが判明している。つまりこの毒性植物には二種類があったということだ。

ちなみに「nightshade」というのは和名でいう「イヌホオズキ」に相当するものらしい。「イヌホオズキ」で検索してみると、これはナス科の一年草で、高さは通常は20~30cm、大きくなれば90cmほどにもなる。また「cocklebur」はキク科の一年草である「オナモミは、丈は20センチから1メートル程度だという。

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 イヌホオズキ(左)と「オナモミ」

こうした毒性植物は、ヴァレ自身、2018年に初めてその現場に行った際に確認している。周辺には全く見当たらない毒性植物がその場所にだけ密生しているということは、つまりそれは誰かによって植えられたのであろうとヴァレは考える。「この場所に近づくな」。おそらくはそういう意図がある。そして、普通に考えればそんなことをするのは墜落があったことを知っているもの――つまり軍なり何なりである。もちろんヴァレ自身も言っているように、そんなものを植えれば「ここが現場です」ということをご丁寧に教えるに等しい。なんだか馬鹿馬鹿しいような気もする。だが、UFOにまつわる話にはそういう馬鹿馬鹿しさがつきものなのも一面の真理である。

さらにその翌年。ヴァレが再び現場を訪問した時には、前回から地勢に変化があった。つまり、一帯で土木工事が行われた形跡があったのだという。それは一帯の洪水対策のため近くに堰堤を築く工事か何かだったようで、墜落地点の周囲もだいぶ整地されていたというようなことが書いてある。

【注】ここで念のため言っておくのだが、実はオレはこの辺りを読んでいて「オヤッ?」と思った。というのはこの現場というのはニューメキシコ州の乾燥した荒野の真ん中のはずである。ここいらにも峡谷もあるようなことは書いてあるが、そもそも「洪水」なんてものが起きる土地なのか? 納得がいかない感じはあるが、ニューメキシコの気候風土を改めて調べるのも面倒臭い。しょうがないのでここは話を先に進めたい


この再訪時には、前年に確認した「毒性植物の生えた楕円形」の部分も一部が表土を剥がされており、そこからは植物の姿が消えていた。要するにかなり地形が変わっていたのである。ヴァレは「あわよくば穴でも掘ってUFOの破片でも見つけてやろうと思ったが、表土は土中深くに埋まってしまったので諦めた」というようなことも書いている。要するにヴァレは、「何者かが自分たちの調査を監視し妨害している」というところに話を落とし込もうとしている。

【注】このあたりを読んたオレは「仮に治水目的の土木工事があったのなら、公的セクターに事業主体だとか工事内容について記録した書類とかあるはずだろ? まずはその辺を調べろよ」と思ったのだが、高齢のヴァレにそんなことを言うのは無理難題かもしらん。なので、ここもこれ以上は突っこまずに話を先に進めたいw

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  墜落現場で毒性のある植物を前にするホセ(2018年)



さて、「監視し妨害する何者か」の影は、また別のところにも現れている。パオラ・ハリスが、ホセ・パディージャの姪のサブリナをつかまえて取材をした話は前回紹介したが、この時にも奇妙なことがあった。

2020年10月、ハリスはサブリナにまずは電話をかけて話を聞いたのだが、そのとき「いずれお会いして直接話をうかがいたい」とサブリナに告げた。ところが同年12月になって再び電話をかけたところ、サブリナはひどく驚いていた。何故かといえば一回目の電話で話をした次の日、男の声で電話がかかってきて「パオラはそっちには行けなくなった。我々が面倒をみることにするよ」とサブリナに告げていたのだという。パオラという名前も出てきたので、「知り合いが代理で電話をかけてきたのかなと思った」というのだが、むろんパオラに心当たりはない。

要するに、盗聴でもしたのか、前日に二人が電話で話した内容を知っている何者かが一種のいたずら電話をかけてきたのである。普通に考えれば、そんなことができるのは国家安全保障局か巨大IT企業か、といったところだろう。まぁこの話が本当なら、ヴァレならずとも闇からこちらをうかがっている「巨悪」の存在を想定したくなるというものだ。

であれば、米当局が関心を抱き、民間人が首を突っこむことを良しとしない奇っ怪な事件が本当に起きていたのかもしらん・・・・・・と思うかどうかは、まぁ人によるのだろう。とまれ、ここまで紹介してきたような話を踏まえて、さてヴァレは、最終的にこの事件の全体像をどんな構図の中でとらえているのか。ここで伝説のユーフォロジストの見解を聞きたくなるのは人情というものである(いやオレだけかもしらんけどw)。というわけで、次回はその辺の総まとめを。(つづく