わが国屈指のUFO同人誌『UFO手帖』の新刊が今年も刊行され、この12月1日に開催された文学フリマ東京にてめでたくお披露目と相成った。
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 『UFO手帖9.0』書影。この表紙もなんだか「メリークリスマス!」的で心地よい!

 
『UFO手帖9.0』と題した今号であるが、その特集は「真夜中の円盤仮説」。小生は今回も執筆陣の片隅に加えていただいており、いわば利害関係者ということになるわけだが、今号もひいき目ナシで相当に力の入った仕上がりである。文学フリマに来場いただけなかったファンもたんとおられるであろうから、ここではその概要をオレ流にお伝えし、近々始まるであろう通販開始への期待を膨らませていただこうと思う。 


さて、最近の世界のUFOシーンの動向を振り返ってみれば、米国においては国防総省に設けられたAARO(全領域異常対策室)がUFO改めUAP問題の解明に乗り出すことなり、この問題に関して議会で公聴会が開かれるなど新たな動きが出ているのは皆さんご承知の通り。これは余談であるが、フジテレビで現在放送中の『全領域異常解決室』というのも明らかにこのAAROの名称をパクっているワケであって、長年「UFOなんて古いよね~」というUFO氷河期の冷え切った空気に覆われてきたわが国の状況もひょっとしたらこれから変わってくるんではないだろうか。

そんなタイミングで我らが「UFO手帖」が気合いを込めてブッ込んできた特集はまさに乾坤一擲、「じゃあUFOって結局のところ何なのよ!?」という究極のテーマに切り込むものであった。つまり空飛ぶ円盤-UFO-UAPについての仮説をいろいろと提示し、ナゾ多きUFOの真相に迫ってみようというものなのだった。

 だがしかし。

ここが実に痛快なのだが、この特集は「UFOは宇宙人の乗り物だ」というメジャーなET仮説を基本的にガン無視している。なにしろ編集長のペンパル募集氏自らが健筆をふるったメイン論考のタイトルが「UFO生物説は鳴り止まない」である!

これは、2004年に米カリフォルニア沖で米軍機がナゾの飛行体(?)と遭遇、赤外線カメラでその姿をとらえたことで知られるかの有名な「チクタク事件」について調べていた編集長が、「このUFOってなんか戦闘機とじゃれあってたんじゃね? ひょっとして………コレ生物?」と閃いてしまい、これまで業界の一部でささやかれてきた「UFO生物説」の歴史にスポットを当てた力作なのだった。で、「コレまんざら奇説で済ませたらアカンのでは?」と思わせてしまうこのドライブ感。エエです(末尾で矢追純一UFOスペシャル的な煽りを一発カマしているのも好感がもてる。子細は買って確かめてくださいw)。

お次は「精神投影説とその拡張」(馬場秀和氏)なる論考である。コレは「UFOというのは無意識的な精神のはたらきによって人が目撃してしまうものではないか」という精神投影説について考察を加えているのだが、もちろんこの仮説は「でもUFOって着陸痕とかレーダーとか物的証拠も残すよね?」とツッコまれるとスゲー弱い。弱いので、筆者はそこを何とかすべく物理学における量子論を援用するなどして「拡張された精神投影説」の可能性を探る。探るのだが、最後に「でもちょっとムリ筋だわな」といってこの仮説を突き放すのだった。そんなぁ…………ホンマ人が悪いぜよ。でもまぁ面白いからエエけど(笑)。

ちなみに今号には、とある縁からスペインのUFO研究者、ホセ・アントニオ・カラバカ氏も「UFO現象の心の中で」という原稿を寄せている。世界にはばたかんとするUFO手帖の勢いを感じさせるのだが(爆)彼のこの論考も広義の精神投影説をテーマにしたものなので、今回の特集の中に収録されている。ちなみに彼は「歪曲理論」(ないしは「歪み理論」。本稿では「知覚変化理論」と訳されている)というのを唱えているのだが、これをオレ流に説明すると、UFO現象が人と場所によって全然違うストーリーになってしまうのは、UFO体験が目撃者の精神世界と外部の「何ものか」の間のコミュニオン――霊的交流とでも申しましょうか――からそのつど生成されるからで、目撃者は定常不変なモノをそのまんま知覚しているわけではない、いわばUFO体験は両者の共犯関係から生じているのだと言っている。……なに言ってるかよくわからんでしょ。まぁ普通はそうです(泣)。が、今号ではちょうどカラバカ氏の説に触れた「UFOとトゥルパ」(金色髑髏氏)という論考も掲載されているので、そのあたりも含めて味読していただければとても面白いと思います。

特集にはこのほかにも「秘密兵器説の盛衰」(ものぐさ太郎α氏)だとか円盤仮説本の紹介コーナーとかいろいろあって充実しとるけれども、ところどころに「円盤ミニ仮説」と称して執筆陣がふざけたアイデアを披瀝しているミニコーナーが挿入されていたのが面白かった。というのも、「本特集ではET仮説は基本ガン無視している」と先に書いたのだが、実はこのコーナーに限っては「宇宙人」の訪問を前提とした上で、「地球は中二病の楽園」とか「地球・道の駅説」だとか、宇宙人をインバウンド観光でやってきたノーテンキなお上りさん扱いしていたりする。宇宙人、お笑いのネタとしてであればアリなのかw

要するにこの雑誌の作り手たちは或る意味スレているというのか、「UFOは宇宙人の乗り物」といったプリミティブで単純な発想には些か飽いてしまっているようなのだった。いやだがよくよく考えてみると、最近UAP問題に注目が集まっているアメリカ議会周りの議論では、どうしたって異星人を連想させてしまう「エイリアン」などというコトバに代えて、「Non-human intelligence (NHI)」、つまりは「非人間知性体」といったコトバが用いられることが多くなってきていたりする。すれっからしのようでいて『UFO手帖』、実はスゲーマジメで、これで時代の先端をいっている(ホントか)


特集の紹介をしていたらずいぶん長くなってしまったので、あとは駆け足で。UFOにまつわる音楽、マンガを紹介するコーナーは今年も健在。「虚偽記憶、催眠、幻覚とUFO」(オオタケン氏)という、この雑誌ではあまり見かけない(失礼!)マジメな論考もあれば、日本人が円安に泣いている昨今を思うと相当にバブリーな「UFO事件地探訪 in ニューヨーク・マンハッタン」(夜桜UFO氏)といったユニークな記事もある。そういえば今号には、現地に在住しているMARO氏の「フィンランドのUFO事情」なんてのもあるし、先に紹介したカラバカ氏の寄稿もあってなんだか国際色豊かである。この路線も面白いので、今後に期待したいものである。

そうそう、それで最後にひとつ、稲生平太郎名義でUFO本の名著『何かが空を飛んでいる』を出したことで知られる英文学者の横山茂雄氏はこれまでにも本誌に再三登場しているのであるが、今号では「『聖別された肉体』補遺(1)」「藤澤親雄についてのノート」という原稿2本を執筆いただいている。直接UFOには関係ないように見えるけれども、こうした広義のオカルト研究はどうしたって根っこではUFO問題とも繋がってくるのであって、そこは具眼の士であれば敢えて語らずとも知るところである。味読していただきたい。

ということで本誌を読みたいという方はこのサイトの辺りを定期巡回されるが良かろう。どうかご贔屓に。(おしまい)