いぜん閑古鳥が鳴いている当ブログであるが、今回紹介したいのはジャック・ヴァレの著書『欺瞞の使者 Messengers of Deception: UFO Contacts and Cults』(1979年)である。まずは本書がいかなる本なのかということについて粗々の解説をしておきたいのだが、大きくいうとこれは「陰謀論」の本である。
ヴァレに興味のある方は先刻ご承知かと思うが、ユーフォロジストとしての彼の一枚看板は「UFOの地球外起源説(いわゆるET仮説)はデタラメだよ!」というものである。要するにUFOというのは宇宙人なんかとは全然関係ない、何だかよくわからん超自然的な存在であるということを彼はこれまでずっと主張してきた。一方で彼は「UFO現象というのは人間を何らかの形でコントロールする意図を有しているのではないか」といって、これを「コントロール・システム仮説」などと称しているのだが、これなんかもこの反ET説から派生するかたちで出てきているのだった。
しかし、「それじゃあそもそもUFOの正体は何なのよ」という疑問が浮かぶ。こういう話になるとヴァレはまた禅問答のような話をしはじめてしまうので結局よくわからない。従ってでココではそういう話は省略するのだが、ともかくヴァレにはこの反ET論者としての顔がある。ところがヴァレにはもう一つの看板がある。それが「陰謀論者」としてのヴァレであって、この本はまさにそういう問題意識から書かれたものなのだった。
それは、とりあえず「UFOは実在するのか」「UFOとは何なのか」といった問題とは離れたところで出てくる議論である。そういうものが実在するのかどうかはさておいて、この社会には、世間に流布しているUFOにまつわる伝説・おはなしを自分たちの何らかの目的のためにうまいこと利用している悪どい組織・団体があるんではないか――彼はしばしばそういうことを説いている。本書のタイトルにもなっている「欺瞞の使者」というのは、まさにそういう連中のことを指しているのである。
ただ、本書で「欺瞞の使者」扱いされているのはUFOをネタに信者さんを集めているようなカルトばかりではなくて、米政府なんかも一種の陰謀の主体として想定されている。実際、陰謀論者としてのヴァレは「米政府はUFOの正体なんか全然分かってない。でも、たとえば開発中の秘密兵器がUFO扱いされたら大衆から真相が隠されてとっても都合が良いよね。だから米政府はこれまで故意にUFOにまつわるホラ話を流してきたフシがある」みたいなことをこれまで盛んに言ってきた(ここでは触れないが、彼はそういう陰謀が実在する証拠として「ペンタクル・メモ」と称する文書を見つけたとかいって大騒ぎしたこともある)。
ここでちょっとだけ脱線すると、ヴァレはこの「米政府はどこまで知っているのか」という論点にかんして、2021年の最新刊『Trinity』で「どうも米軍は1945年の時点で墜落UFOを回収・調査していたようだ」ということを言いだしている。要するに従来の主張との整合性がちょっとおかしくなってきているのだが、そこは「いやいや回収してリバースエンジニアリングなんかもしたンだけど、結局何も分からんかったようだ」みたいなロジックで逃げようとしているようなのである。ここまでくるとどうも彼は陰謀論のダークサイドに堕ちかけているようで心配なのだが、話を元に戻すともともと彼にはそういう陰謀論者としての素地があったのだ。
かくて「UFO方面で蠢いているアヤシイ人々を追ってみました」ということで彼が書いたのがこの本だったわけだが、参考までにいうと、ヴァレの数少ない邦訳書に『人はなぜエイリアン神話を求めるのか』(1996)――原題は『Revelations:
Alien Contact and Human Deception』(1991)――というのがあるンだが、これなんかも陰謀論系列の本ということができる。
個人的にはこの「陰謀論者としてのヴァレ」というのはあんまり好きではない。しかし、この本を読むとなんかよくわからん有象無象のUFOカルト的なものがイロイロ出てきたりして、UFOをめぐる「うさんくささ」というのが行間からジワジワとにじみ出ているような気がする。言ってみれば本書はそういう「怪作」として楽しむべき本なのだろう。いつかちゃんと内容の紹介もしてみたいと思っているのだが、それはまた後日。

書影。これはたぶん初版のであるがなかなかに洒落ている
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