「米国防総省が秘密裏にUFO/UAPの調査を行っていた」という2017年のニューヨークタイムズのスクープをきっかけに、UAP問題が近年改めて注目されているのはUFOファンならご承知のところであろう。

 紆余曲折あった末、米政府は2022年に改めて調査機関AARO(全領域異常対策室)を立ち上げているが、一方では「政府は墜落したUAPを回収してリバースエンジニアリングを行っている」といった主張も世間の耳目を集めている。この種の主張は、政府内でUAP問題に携わってきたという人々が「ホイッスルブロワー」として米議会公聴会などで証言しており、これを受けて一部議員が「政府は情報公開せよ!」と騒ぎ出すなど、事態は風雲急を告げているようでもある。

 だが、本当に「米政府は墜落したUAPを捕獲している」などという事実はあるのだろうか。

 この点については、UFO業界でも長く語られてきた一つの仮説がある。墜落エンバンが存在するという話はしばしば内部事情を知ると称する者たちによってリークされてきたのだが、それを支持する物的証拠はこれまで一切表に出ていない。これは即ち「UFOは墜落していないけれども、ニセの情報を意図的に流してきた者たちがいる」という事を強く示唆しているのだが、その黒幕というのは実は米政府なのだ――という仮説である。

 まぁ要するに一種の陰謀論である。ただ、「米政府は墜落エンバンを密かに保有している」といったショッキングな陰謀論と比較すると、こっちは「墜落エンバンなんてありません」というのが前提の議論なので、いささか「格落ち」というか、かなりマイルドな陰謀論で、そういう意味ではより蓋然性は高い(と思う)。実際、1980年代には米空軍の諜報員リック・ドーティーなる人物が「UFOは地球に飛来している宇宙船である」といったおはなしを複数のUFO研究者に吹き込み、業界を攪乱させたという故事もある。

 このドーティーは今も健在で、「いやマヂで宇宙人は来てたよ。詳しいことは機密事項なので言えんけど」みたいなことを吹いており、まさに怪人というにふさわしい人物なのだが、彼が関わった事例を具体的に挙げると「ポール・ベネウィッツ事件」というのがある。どういう話かというと、ニューメキシコ州のカートランド空軍基地の近くに住んでいたポール・ベネウィッツという科学者&事業家がUFOを目撃し、空軍に連絡をする。これを受けたドーティーは彼に接触したのだが、そこで何をしたかというと「そう、あんたの目撃したのは間違いなくUFOですぜ」と煽るような情報を次々に与えた(ちなみにドーティーは、この件についてはニセ情報を伝えたことを認めている)。これを真に受けたベネウィッツは「宇宙人は地下基地まで作っている! 嗚呼宇宙人の脅威だ大変だ!」ということで精神が錯乱していき、最後は死んでしまったのである。

 では何でそんなことになってしまったのかであるが、当時空軍基地では秘密のプロジェクトが行われており、ベネウィッツが電波の傍受とかイロイロ始めたンで、当局が「あんたの見てるのはUFOですぜ」とミスリードすることで真相がバレるのを防いだのではないか・・・というのが定説であるらしい(ちなみにこの事案には空軍のほかNSAとかモロモロ絡んでたとも言われる)。

 そうすると、自分のトコの兵器開発を隠すために「何かよく分からないものが飛んでいるのはアレはUFOなのです」とニセ情報を流すのは米当局の常套手段ではなかったのか、という疑念が生じる。陰謀論といやぁ陰謀論なのだが、実例もあるだけに一定の説得力はある。
 

さて、前振りがずいぶん長くなってしまったが、そういうトコロに今回注目すべき情報が流れてきた。米国の一流メディアとして知られる「ウォール・ストリート・ジャーナル」が6月6日、この問題に関するスクープを放った。タイトルは「アメリカのUFO神話を煽ったペンタゴンのニセ情報」。

 どういう内容かというと、先述のAAROは、UAPの目撃事例の調査に加えて、これまでの米政府のUFO問題に対する取り組みをリサーチして「エイリアンのエンバン捕獲」といった主張の真偽も調べてきたのであるが、そのプロセスで、ペンタゴンがこれまで意図的にUFOにまつわるニセ情報を流布してきた事実が判明したというのである。

 記事中、具体的な事例としては、とある空軍大佐が1980年代、「エリア51」で開発されていたステルス戦闘機の存在を隠すため、地域住民に「米軍はここで回収したエンバンの研究をしている」といった話をバラまいた話が出てくる。

 あるいは、空軍のとある極秘プロジェクトに参画する将兵たちはエイリアンの乗り物の実在を示唆する資料を渡され、「口外するな」と命じられるようなことが恒常的に行われていた――といった話も出てくる(ちなみに彼らが参加したプログラムは「ヤンキー・ブルー」というコードネームで、そうした乗り物のリバースエンジニアリングに関わるものだと説明されたという)。これなどは大衆のみならず軍内部の多くの人間もまんまと騙されていたということだろう。

 加えて記事の後段では、核ミサイルサイロにまつわる話も出てくる。1967年、モンタナ州のとある軍施設の上空に楕円形に見える物体が現れたが、その直後に10発のミサイル発射システムがダウンした(記事中に明記されてはいないが所謂「マルムストロム事件」のことであろう)。つまり「UFOによって核施設が無力化された」事例ということになるワケだが、記事によれば、AAROの調査でこれは人為的に引き起こされた事件だったことが判明したのだという。つまり米軍は電磁波パルスで核兵器を無化するシステムを開発しており、現場の兵士には何も知らせることもなく、その実験が行われたというのがその「種明かし」である。

 むろんコレは報告書というようなものではないので、この記事だけでは個々の事例の詳細がよくわからず、隔靴掻痒の感は否めない。それでも天下のWSJだけに、そんなに飛ばして書いているということはないだろう。その上で「証拠を捏造した」とまで断言しているのは相当に重い。巷間ささやかれていた「米政府は秘密兵器の隠れミノにUFOの噂を利用すべく、根も葉もないニセ情報を自らバラまいてきた」説も相当に信憑性があるように思えてくるのである。今回の報道は、或る意味でエポック・メイキング的な意味を持っているのではないかと思う。

 そこで気になるのは、この「陰謀」がどれほどのレベル・深度で展開されてきたかということだ。

 ちなみにAAROは2024年2月に「Report on the Historical Record of U.S. Government Involvement with Unidentified Anomalous Phenomena (UAP) Volume I」という報告書を出しており、先述したように米当局のこれまでのUAP問題への関わり方を総括しているのだが、その際には様々なハレーションを恐れてか、こういう欺瞞工作のくだりは省かれてしまったようだ。ただし記事中には、今後公開を予定している報告書の続編では、いかほどかその内容が公開されるかもしれないというようなことも書いてある。

 もう一つ言うと、この記事自体にも続きがあるようで、そこでは「墜落した宇宙船の金属片」をめぐるストーリー(?)が紹介されるようなことが末尾で予告されている。面白そうじゃないか。期待して続編を待ちたい。(その2へつづく