米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が今月上旬、「米当局はこれまでUFOのニセ情報拡散工作を続けてきた!」と報じた先の記事は大きな反響を呼んだところであるが、その続編ともいうべき記事がこのほど公開された(このエントリー参照のこと)。
米東部時間6月21日付の記事のタイトルは「Was It Scrap Metal or an Alien Spacecraft? The Army Asked an Elite Defense Lab to Investigate」。直訳すると「それは金属クズなのか、それともエイリアンの宇宙船だったのか?――軍は一流防衛研究所に調査を依頼した」といったところだろう。
ここで改めて今にいたる経緯を復習しておくと、近年の米国では「米政府はひそかに墜落したUAPを捕獲してリバース・エンジニアリングをしている」といった主張が一部「ホイッスルブロワー」と称する人々によって盛んになされているワケであるが、米政府のUAP調査機関AARO(全領域異常解決局)は「ホンマにそんなことあるんかい?」ということで、これまで事実解明に向けた調査を続けてきた。
その結果、AAROとしては昨年の時点で「とりあえずそんな事実はなかったわ」という結論を出しているのであるが、「詳しい話はまた後日別の報告書で出しますんで」という話になっている。このたびの一連のWSJの記事というのは、言ってみればその調査の内実をいちはやく報じたものであって、要するに「UAP/UFO シーンの背後にはこんなアヤシイ動きがあるんやで」ということを暴露しているのである。
そこで先の第一弾に続いて今回の第二弾が光を当てているのは、この手の「エイリアンの宇宙船捕獲セリ!」みたいな言説を吹聴している人々の存在である。だがよくよく読めば、この記事の射程は「なんなんだコイツらは?」みたいなところにはとどまらず、むしろその向こう側に見え隠れする、彼らを巧妙にコントロールしようとしている「何者か」のところににまで及んでいる気がしないでもない・・・・・・あ、いや、しかし今ここであまり先走ったことを言ってもよく分からんだろうな。よろしい、ではまずは順を追ってこの記事の内容を追っていくことにしよう。
この記事の導入部では、まず「墜落した円盤の破片」をめぐる一つのエピソードが紹介されている。それによると1966年、ラジオ番組「コースト・トゥ・コーストAM」で名高いパーソナリティ、アート・ベルのもとに「ロズウェル事件で墜落した円盤の破片だ」という金属片が送られてきた。いろいろと紆余曲折を経たようではあるが、その金属片は2019年になって、アーチスト上がりのトム・デロングが設立したUFO ビリーバーの団体「トゥー・ザ・スターズ・アカデミー」に買い取られる。
案の定、ここで検査された金属片は「なんとコレ地球上のものではなかったよ!!」という話になってしまうワケだが(笑)、そう語ったのはこの団体の顧問である地球物理学者エリック・デイビスである。 彼はテレポーテーションやら反重力装置の研究などに長年取り組み、アメリカのUFOシーンでも一目置かれている人物だ*。そしてこの「トゥー・ザ・スターズ」には、AAROに先立つ政府のUAP調査プログラムに参画していた元国防総省のルイス・エリゾンド、高名な超心理学者ハロルド・パソフもメンバーとして連なっていた。要するに「トゥー・ザ・スターズ」にはUAP政府秘匿説を牽引する大物3氏が揃っていた。では彼らに対してAAROはどのような調査を行ったのか。導入部につなげるようにして、記事はここから本題へと入っていく。
さて、まずはエリック・デイビスである。AAROが調査を進めていく中で、「米政府が宇宙船をひそかに調べている」という話の源泉の一つはどうやらこのエリック・デイビスだということになったらしい。そこで当時のAARO局長ショーン・カークパトリックは「ホントのとこはどうなの?」と話を聞いてみたのだという。するとデイビス、イロイロと面白い事を言ったそうだ。
曰く――「エイリアン関連のプログラムはアメリカだけじゃなくてロシアもやってるよ。オレ、ロシアに墜落したUFOについてCIAから調査頼まれたことあるし。ロシアはUFOからぶっこ抜いたレーザーシステムのリバースエンジニアリングやってるんだってサ(かなり意訳)」
CIAは「イヤ彼にはそんなこと頼んでない」といって否定したそうだが、まぁそれはイイ。連中がいつも本当のことを言うとは限らないのは当然である。それはそれとして、こうしたAAROの調査では興味深いことが一つ分かったという。このプロセスでデイビスが入手していたデータに当たってみると、それはロシアが実際に開発しているレーザープログラムに関するホンモノの資料だったという。要するに、アメリカでもロシアでも墜落UFOが研究対象になっているという話に証拠はないんだけれども、「UFOから引っこ抜いた」とされる新たなレーザーシステム自体は確かに実在していた。ということは、「ロシアにUFOが墜ちた」という部分は本当の話に接ぎ木されたウソになる。これは実際に進めているプログラムの目くらましとしてアメリカ向けにロシア自身がばらまいたニセ情報だったのでは――AAROはそんな判断をしているのだという。記事にも書いてあるが、「リアルな兵器をUFOだといって隠蔽する」手口をアメリカばかりかロシアもやってたのだとしたら何とも面白い。
記事では次いでハロルド・パソフをめぐるエピソードを記す。2004年、パソフはバージニア州で開かれたホワイトハウス企画のパネルに招かれたことがあるという。テーマは「政府の墜落宇宙船回収プログラムの存在は最終的に公表すべきか?」。要するに、これまで政府が秘匿していた情報を明かした時、どんな事態が生じるかを考えて対応策を練ってほしいというものだった。コレが本当の話だったら、ホイッスルブロワーたちの証言にも若干の信憑性が出てくる。そこで調査に入ったカークパトリックだが、当時のブッシュ大統領首席補佐官に問い合わせたところ「宇宙人の秘密を暴露する計画など一切知らない」という返答があったのだという(あとでまた触れたいが、評者のみるところこの話には巧妙にパソフをコントロールしようという何者かの意思が見て取れる)。
最後にルー・エリゾンドである。彼は政府内でのUAP調査のプロセスで、人間ならざる知性体は来訪していると主張する人物だ。カークパトリックとしても当然その話を聴取することになる。だが、自ら確たる証拠を示すことは守秘義務の問題もあってできないと彼はいう。次善の策としてエリゾンドはこう語る。「国防総省のオフィスの金庫にハードディスクが保管されている。そこに全てのファイルはある。数日前に元同僚に確認済みだ」。だが、ブツを押さえるべく数時間後にFBIがオフィスを急襲したところ、肝心の金庫は空だった。付言すれば、AAROはエリゾンドのかつての上司に「エイリアンに関するプロジェクト」について聞いたりもしたが、「聞いたことがない」と一蹴されたという。要するに全くウラは取れなかったというのである。
さて、ここでいったん冒頭に出てきたナゾの金属片についていえば、AAROがその後、この金属を入手してオークリッジ国立研究所で検査にかけたところ、最終的にコレは何の変哲もない合金であることが判明したという。「コレは地球のものではない」みたいな主張もあったけれども公的機関がちゃんと調べたらそんなことはなかった。大逆転を可能にする「物証」は存在していなかった。
そして、デイビス、パソフ、エリゾンドに当たっても、やはり彼らから確たる証拠を得ることはできなかった。だがこの記事を読む限りでは、彼らが「自分でわかっていて虚偽を申し立てている」という印象は乏しい。記者の含意はおそらく「彼らの主張は限りなくあやしいが、実は彼らもまた何者かに騙され巧妙にコントロールされている」というものではないのだろうか。個人的にはずっと、この手の人士は「仕掛ける側」――ヴァレ言うところの「欺瞞の使者」だろうという気がしていたので、そのへんのニュアンスにはなかなかに考えさせられた。
とまれ、「実在するUFOを隠す」というのではなく「UFOがあるように見せかける」陰謀というのは一体どこまで広がりを見せていたのだろう。今後のAAROの報告、あるいは現地のジャーナリストの仕事でもいいのだが、さらにその辺の実態が分かってくればなかなか面白いことになりそうだ。続報を待ちたい。(おわり)
米東部時間6月21日付の記事のタイトルは「Was It Scrap Metal or an Alien Spacecraft? The Army Asked an Elite Defense Lab to Investigate」。直訳すると「それは金属クズなのか、それともエイリアンの宇宙船だったのか?――軍は一流防衛研究所に調査を依頼した」といったところだろう。
ここで改めて今にいたる経緯を復習しておくと、近年の米国では「米政府はひそかに墜落したUAPを捕獲してリバース・エンジニアリングをしている」といった主張が一部「ホイッスルブロワー」と称する人々によって盛んになされているワケであるが、米政府のUAP調査機関AARO(全領域異常解決局)は「ホンマにそんなことあるんかい?」ということで、これまで事実解明に向けた調査を続けてきた。
その結果、AAROとしては昨年の時点で「とりあえずそんな事実はなかったわ」という結論を出しているのであるが、「詳しい話はまた後日別の報告書で出しますんで」という話になっている。このたびの一連のWSJの記事というのは、言ってみればその調査の内実をいちはやく報じたものであって、要するに「UAP/UFO シーンの背後にはこんなアヤシイ動きがあるんやで」ということを暴露しているのである。
そこで先の第一弾に続いて今回の第二弾が光を当てているのは、この手の「エイリアンの宇宙船捕獲セリ!」みたいな言説を吹聴している人々の存在である。だがよくよく読めば、この記事の射程は「なんなんだコイツらは?」みたいなところにはとどまらず、むしろその向こう側に見え隠れする、彼らを巧妙にコントロールしようとしている「何者か」のところににまで及んでいる気がしないでもない・・・・・・あ、いや、しかし今ここであまり先走ったことを言ってもよく分からんだろうな。よろしい、ではまずは順を追ってこの記事の内容を追っていくことにしよう。
この記事の導入部では、まず「墜落した円盤の破片」をめぐる一つのエピソードが紹介されている。それによると1966年、ラジオ番組「コースト・トゥ・コーストAM」で名高いパーソナリティ、アート・ベルのもとに「ロズウェル事件で墜落した円盤の破片だ」という金属片が送られてきた。いろいろと紆余曲折を経たようではあるが、その金属片は2019年になって、アーチスト上がりのトム・デロングが設立したUFO ビリーバーの団体「トゥー・ザ・スターズ・アカデミー」に買い取られる。
案の定、ここで検査された金属片は「なんとコレ地球上のものではなかったよ!!」という話になってしまうワケだが(笑)、そう語ったのはこの団体の顧問である地球物理学者エリック・デイビスである。 彼はテレポーテーションやら反重力装置の研究などに長年取り組み、アメリカのUFOシーンでも一目置かれている人物だ*。そしてこの「トゥー・ザ・スターズ」には、AAROに先立つ政府のUAP調査プログラムに参画していた元国防総省のルイス・エリゾンド、高名な超心理学者ハロルド・パソフもメンバーとして連なっていた。要するに「トゥー・ザ・スターズ」にはUAP政府秘匿説を牽引する大物3氏が揃っていた。では彼らに対してAAROはどのような調査を行ったのか。導入部につなげるようにして、記事はここから本題へと入っていく。
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*注:この記事では論及されていないけれども、エリック・デイビスというのはUFO業界を騒がせた「ウィルソン―デイビスメモ」の当事者としてもとっても有名である。「なにそのウィルソン―デイビスメモって?」という人もいるかもしらんので簡単に説明しておくが、これはUFO大好きで知られた宇宙飛行士エドガー・ミッシェルが2016年に死んだ後、その遺品から発見された文書で、エリック・デイビスが米国防情報局長官も務めたトーマス・ウィルソン元海軍中将と2002年に面談した時の記録とされている。オレは伝聞でしか中味を知らないが、ここでウィルソンは「墜落したUFOを民間企業がイロイロ調査してるプロジェクトがあるってんでオレも調べてみたんだけど、結局『アンタには教えられません』ゆうて拒否されちまってさあ」と語っているのだそうだ。なお、当然ながらトーマス・ウィルソンはメモは作りものだと言って完全否定しており、デイビスのほうは基本ノーコメントだが何となく肯定してるニュアンスのことも言ってるらしい。関心のある方は各自調べられたし。
さて、まずはエリック・デイビスである。AAROが調査を進めていく中で、「米政府が宇宙船をひそかに調べている」という話の源泉の一つはどうやらこのエリック・デイビスだということになったらしい。そこで当時のAARO局長ショーン・カークパトリックは「ホントのとこはどうなの?」と話を聞いてみたのだという。するとデイビス、イロイロと面白い事を言ったそうだ。
曰く――「エイリアン関連のプログラムはアメリカだけじゃなくてロシアもやってるよ。オレ、ロシアに墜落したUFOについてCIAから調査頼まれたことあるし。ロシアはUFOからぶっこ抜いたレーザーシステムのリバースエンジニアリングやってるんだってサ(かなり意訳)」
CIAは「イヤ彼にはそんなこと頼んでない」といって否定したそうだが、まぁそれはイイ。連中がいつも本当のことを言うとは限らないのは当然である。それはそれとして、こうしたAAROの調査では興味深いことが一つ分かったという。このプロセスでデイビスが入手していたデータに当たってみると、それはロシアが実際に開発しているレーザープログラムに関するホンモノの資料だったという。要するに、アメリカでもロシアでも墜落UFOが研究対象になっているという話に証拠はないんだけれども、「UFOから引っこ抜いた」とされる新たなレーザーシステム自体は確かに実在していた。ということは、「ロシアにUFOが墜ちた」という部分は本当の話に接ぎ木されたウソになる。これは実際に進めているプログラムの目くらましとしてアメリカ向けにロシア自身がばらまいたニセ情報だったのでは――AAROはそんな判断をしているのだという。記事にも書いてあるが、「リアルな兵器をUFOだといって隠蔽する」手口をアメリカばかりかロシアもやってたのだとしたら何とも面白い。
記事では次いでハロルド・パソフをめぐるエピソードを記す。2004年、パソフはバージニア州で開かれたホワイトハウス企画のパネルに招かれたことがあるという。テーマは「政府の墜落宇宙船回収プログラムの存在は最終的に公表すべきか?」。要するに、これまで政府が秘匿していた情報を明かした時、どんな事態が生じるかを考えて対応策を練ってほしいというものだった。コレが本当の話だったら、ホイッスルブロワーたちの証言にも若干の信憑性が出てくる。そこで調査に入ったカークパトリックだが、当時のブッシュ大統領首席補佐官に問い合わせたところ「宇宙人の秘密を暴露する計画など一切知らない」という返答があったのだという(あとでまた触れたいが、評者のみるところこの話には巧妙にパソフをコントロールしようという何者かの意思が見て取れる)。
最後にルー・エリゾンドである。彼は政府内でのUAP調査のプロセスで、人間ならざる知性体は来訪していると主張する人物だ。カークパトリックとしても当然その話を聴取することになる。だが、自ら確たる証拠を示すことは守秘義務の問題もあってできないと彼はいう。次善の策としてエリゾンドはこう語る。「国防総省のオフィスの金庫にハードディスクが保管されている。そこに全てのファイルはある。数日前に元同僚に確認済みだ」。だが、ブツを押さえるべく数時間後にFBIがオフィスを急襲したところ、肝心の金庫は空だった。付言すれば、AAROはエリゾンドのかつての上司に「エイリアンに関するプロジェクト」について聞いたりもしたが、「聞いたことがない」と一蹴されたという。要するに全くウラは取れなかったというのである。
さて、ここでいったん冒頭に出てきたナゾの金属片についていえば、AAROがその後、この金属を入手してオークリッジ国立研究所で検査にかけたところ、最終的にコレは何の変哲もない合金であることが判明したという。「コレは地球のものではない」みたいな主張もあったけれども公的機関がちゃんと調べたらそんなことはなかった。大逆転を可能にする「物証」は存在していなかった。
そして、デイビス、パソフ、エリゾンドに当たっても、やはり彼らから確たる証拠を得ることはできなかった。だがこの記事を読む限りでは、彼らが「自分でわかっていて虚偽を申し立てている」という印象は乏しい。記者の含意はおそらく「彼らの主張は限りなくあやしいが、実は彼らもまた何者かに騙され巧妙にコントロールされている」というものではないのだろうか。個人的にはずっと、この手の人士は「仕掛ける側」――ヴァレ言うところの「欺瞞の使者」だろうという気がしていたので、そのへんのニュアンスにはなかなかに考えさせられた。
とまれ、「実在するUFOを隠す」というのではなく「UFOがあるように見せかける」陰謀というのは一体どこまで広がりを見せていたのだろう。今後のAAROの報告、あるいは現地のジャーナリストの仕事でもいいのだが、さらにその辺の実態が分かってくればなかなか面白いことになりそうだ。続報を待ちたい。(おわり)
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