IMG_4809
松閣オルタ氏の新刊『オカルト・クロニクル 暗黒録』がこのほど刊行された。

ご承知の方も多かろうとは思うが、氏はもともと古今東西のオカルトめいた奇譚・怪事件を題材に様々な資料を渉猟してそのナゾの解明にとりくむブログ「オカルト・クロニクル」の運営者として具眼の士の注目を集めた在野のライターであってオレはたまたまその当時ブログをみて「コレは本にせんとアカンやろ!」などと旧Twitterでつぶやいていただけのフォロワー200人ちょい弱小ツイッタラーに過ぎないのだが、とにもかくにも松閣ファンとしてのオレの存在がどういう具合か氏の視野に入ってきたのであろう、紆余曲折の末にオレは松閣オルタ氏のご厚誼を賜るに至った。

さてその一方でこんな書籍文化衰退の末世にも名伯楽はいるということか、やがて氏のブログ記事をもとにした書籍『オカルト・クロニクル』はホントに本になってしまった。その後の氏の活躍ぶりはこの方面に関心のある皆さんご承知のところであろうがサテ、次いで続編のテイで刊行された今回の新刊についても太っ腹である氏はナントこんな弱小ツイッタラーにまでわざわざご恵投をくださった!  すみません何の恩返しもできませんがここはせめて読書感想文でも書いてご恩に報いるのが人の道。そんなワケで今回はこの本について思うところを書いて売上げ貢献にオレも一役買いたいと考えたのであった。

で、その内容はということになるワケだが、同書前半の「神のいないエデン」「プマプンク遺跡」「青ゲット殺人事件」「ノアの方舟」は件のブログの記事を元にしたものでその中でも比較的長尺モノを揃えている。既にかなりのジジイであるところのオレはネット掲載時に読んだ記事の記憶も既に薄れつつあったので同書に採録された微に入り細に入る考証を改めて満喫できた。年をとってボケてくるのもそれはそれで悪くはない(微苦笑)。

で、そこから後には書き下ろしの「SOS遭難事件」「グリコ・森永事件」の2編が掲載されているワケだが、特筆すべきはこのグリ森事件パートである。言うまでもなくコレは1984年から翌年にかけ、グリコ社長の誘拐事件を発端として犯人集団がグリコのみならず丸大・森永・ハウスといった食品会社に対して「青酸カリ入りの食品ばらまいたる」などといっては恐喝を繰り返した昭和屈指の未解決事件なのであるが、氏はこの事件のナゾに果敢に挑んでいる。分量的にも全535ページの本書のうちグリ森パートはなんと346ページで殆ど3分の2近くを占める。その内容はスゲー複雑怪奇で長大な一連の事件の推移を詳細にフォローした上で、その真相についての様々な仮説を検証したもので何だかグリ森事件資料集のおもむきさえある。その膨大な情報量には頭がクラクラするほどであった。

と同時に、正直いうと「おおっと松閣オルタここにきて路線変更か??!」という驚きもあった。どういうことか。

オレのみるところ、この人は古今のナゾの事件・奇譚を執拗な資料蒐集を通じて解明せんとするのだけれども関西弁でいうところの「いちびり」気質は隠しきれないということか、巧まざるユーモア・諧謔をまじえた講談めいたストーリーテリングで読者を楽しませることに特異な才を有している人物である。同時にそのネタというのもUFO・UMA・失踪事件・奇跡・怪人物といったいわゆるナゾや不思議が生のまま提示される「オカルト」ジャンルがメインであり、刑事事件を扱うにしても猟奇殺人とかが中心だからこそそのサイトも「オカルト・クロニクル」と題されているのだった。

ところが今回のグリ森事件というのはそういうマイナーワールドの事件ではなく正真正銘日本事件史上に燦然と輝く不滅の大事件である。いってみれば今回の挑戦はキックボクシング界でもてはやされていた那須川天心がいきなりボクシングで世界に挑むようなもの。あるいは不思議な超常現象をテーマに少なからぬファンを有していた怪奇作家・黒沼健が突然3億円事件の真相に迫るノンフィクションを書き出したような話でもある。ひょっとしたら氏は社会派推理小説の大家、松本清張が幾多のナゾ多き事件に迫った『昭和史発掘』みたいな路線を目指しているのだろうか――?

とまぁそんなことを思ってしまうぐらい、このパートの氏はちゃんとしたルポルタージュをやっている。いや時折独特の「くすぐり」を入れることも忘れていないのだけれど、過去の関連書籍や新聞・雑誌記事はおそらく今日入手できるほぼ全てのものに目を通しているようだし、当時の捜査資料にもどういうルートかしらんがアクセスし、さらには関係者への取材(今では多くが物故者となっているのだろうから至難であったと思われるが)も敢行している。そうして集めた膨大なデータを元にで氏は独自のプロファイリングを展開して事件の真相について大胆な推理さえしている(ネタバレになってはいかんので書かんけど)。

いや実際、いわゆるオカルトのようなあからさまなナゾではないんだけれどナゾまみれの事件に挑むのもやはり知的格闘のあり方の一つではある。そういうことでいえば氏が今回戦線を拡大したことに不思議はないのだが、そのきっかけについては本書にもチラッと書いてある。要するに氏がかつて仕事で知り合ったとある人物がグリ森事件でいわれるところの「キツネ目の男」にそっくりで、相当程度まで「マヂかも?」と思わせる挙動が彼にはあったのだという。未曾有の未解明事件が自分の人生とどっか交錯してたのではないか――そういう体験があったというのはたしかに大きなモチベーションになりうると思う。そして意外にそういう偶然が人の人生を変えてしまうということもある。

オレはグリ森事件をめぐる過去の議論などほとんど知らないからそうやって生まれた本書が犯罪ノンフィクションの世界でどれだけのブレークスルーを成し遂げているのかはワカランけれども、ひょっとしたら我々はいま、オカルトという庭を飛び出してその外に活躍の場を広げようとしている「真っ当」なルポライターの誕生を目撃しているのかもしれない。そう、本書にもチラチラ出てくる人物だが犯罪ルポでならした朝倉喬司(1943-2010)みたいな書き手がもうひとり現代にいても悪くはない。

追記
ただし今回の本には随所に校閲ミスと思われるモノが散見された。もいちど最初から読んで付箋つけてけばイロイロ指摘できると思うがソコまでヤル気はないので一つだけ挙げておくと475ページで図版のキャプションに「加藤葉子」とあるのは「加藤繁子」ではないか。二見書房も出版不況で校閲要員がいないのかもしらんが何とか踏ん張って意地を見せていただきたいw