2017年12月

ジャック・ヴァレの著書『Revelations』(1991年)が、『人はなぜエイリアン神話を求めるのか――脳内メカニズムの悲劇!? ショッキングサイエンス 』(1996年、徳間書店)と題して翻訳されていることはUFOファンには広く知られているところである。

ひと言でいうと、これは「米政府はひそかにエイリアンの円盤を回収している」などと吹聴している連中をメッタ斬りにしている本である。ラザーだとかクーパーだとかいう、この手の怪しげな主張をしてきた面々、さらには彼らを敢えてミスリードしてきたのであろう米当局の暗躍ぶりを、ヴァレはここで容赦なく叩いている。

「Revelation」というのは「暴露」とか「啓示」という意味であるから、これはおそらく「内幕を暴く」ぐらいの意味でこういうタイトルをつけたのだろう。版元はそうした問題意識のカケラも感じさせない邦題をでっち上げたワケで、これはある意味、凄いと思う。

ま、それはそれとして、この邦訳書にはもう一つ、大きな欠陥がある。というのはコレ、肝心かなめの「結論 Conclusion」と「補遺 Appendix」の部分を省いた抄訳であって、ただでさえほとんど翻訳の出ていないヴァレの本なのにこの仕打ちは何だとオレなどはいつも文句を言っているところである。

ま、死んだ子の年を数えるようなことをしていても詮方ないので、今回は、その省略された「補遺」の部分でヴァレがどんな事を言っているかを紹介してみたい(「結語」については、機会があればまたいつか書いてみようと思っている→注:ココを見られたし)。

具体的にいうと、ここで補遺として掲載されているのは、実際には「未確認飛行物体の地球外起源説を論駁する5つの論点」と題した彼の論考である。1989年に発表したもののようであるが、要するに「オレはUFOが外宇宙から来ているという説は認めない!」と言っている。以下、たいへん粗っぽくて恐縮ではあるが、若干勝手な補足なども交えつつ、ヴァレになりかわってこの論考における彼の言い分をたどっていこう。

■論点1 宇宙人が調査目的で来ているとしたら、こんなに頻繁に目撃されてるのはおかしい

過去40年にわたって報告されてきた接近遭遇(注:ここでは着陸事例とイコールという意味合いで言っているようだ)の数は3000~1万件の間だと思われる。とりあえずは少なめの「5000件」という数字を採用してみたいが、目撃事例のうち公になるのは10件に1件程度である。よって、実際の件数としては、とりあえず10倍の「5万件」という数字が出てくる。

だが、これではまだ足りない。というのは、自分たちの情報網は欧米に偏しているので、全世界を視野に入れるならば、その倍、つまり「10万件」あたりが妥当なハズである。

しかし、これでもまだ終わりではない。自分たちの行った統計調査によれば、UFOは相対的に人口のまばらな地域に偏って出現する。となると、見逃されていた暗数がけっこうあるハズで、総数はさらに10倍してよい。結果的に、全世界における接近遭遇の件数は「100万件」に及ぶのだと言ってみたい。

ところが、実はまだまだ先があった! これまた統計調査の教えるところだが、UFOの目撃は未明にピークが来る。夜間に野外に出ている人の数は圧倒的に少ないので、その辺を勘案してみると、実際にあり得た目撃事例は、さらに14倍になる(注:この計算のプロセスはよくわからん)。その結果、接近遭遇事例は、計算上はなんと「1400万件」にもなるのだ!

さて、ここで冷静に考えてみたい。地球の表面というのはそもそも宇宙から丸見えである。加えて、近年であればラジオやテレビの電波が飛び交っているので、それで地球のこと・人類のことは居ながらにして相当なことがわかる。物理的にサンプルを取る必要があったとしても、周囲に知られずにこっそりできる部分は相当ある。となると、何故「1400万回」も着陸する必要があろんだろうか? つまり、これは明らかな矛盾である。

■論点2 エイリアンの姿かたちが人間に似ているのはおかしい


いわゆるエイリアンはどんな姿をしているかというと、多くの場合、それは足も腕も2本で、目・鼻・口のある頭部が一つ。別の惑星で独自の進化を遂げてきたのだとすれば、その体のつくりは人間とだいぶ違っていて当然なのに、何故にこうも人間に似てるのか。重力や大気の成分だって違うハズなのに、しばしばふつうに歩いたり呼吸していたりするのも変である。

「遺伝子工学を駆使して地球探査用にそういう生命体を作ったのだ」という反論もあるかもしれないが、だったらもうちょっと人間に似せンかい!というツッコミが可能である。

もうひとつ気になることがある。連中は時に人間と似た感情表現を示したりすることがある。つまり文化のパターンまで似ているとなると、これはあからさまにおかしいではないか。矛盾である。

(注:ちなみにこの「文化のパターン」ということでオレが連想するのは、日本における「甲府事件」である。ここで目撃されたエイリアンは、少年のうしろから肩をトントンと叩いて振り向かせたのだという。実に地球人的なしぐさである)

■論点3 アブダクションされた人間が施される「医学検査」って、何だかおかしい

地球にやってきたエイリアンは「医学検査」のために人間をアブダクションする、という考え方がある。だが、いきなり人間を掠うやり方は何とも乱暴だし、その「検査」自体、人類の医学と比較しても相当に荒っぽい。生物学的な知見を得るには、もっとスマートなやり方があるでしょう。

■論点4 そもそもUFO現象は現代においてのみ起きているわけではない

UFOというのは、ジュール・ベルヌの時代には飛行船、第2次大戦直後はゴーストロケット、現代にあっては宇宙船――といった具合に時代に応じて姿を変えてきた。人を掠う「リトル・ピープル」の昔話だってそこらじゅうに転がっているわけで、時代による変化みたいなものこそあれ、こうして倦まずたゆまず繰り返されるお話を「地球外起源の生命体による地球探査」で括るのはムリがあるンじゃないか。

■論点5 結局、UFOを外宇宙からの訪問者と考えるのはムリで、別のアイデアが必要である

というわけで地球外訪問仮説はスジが悪いことはわかったけれども、UFOには物理的な痕跡を残すような側面もあるので、それを単なる心理現象に還元する「心理社会学的仮説」で説明してしまうのも具合が悪い。そこで考えられるものとしては次のようなものがある。

・アース・ライト仮説(注:ヴァレはここでは詳述していないが、ある種の電磁効果によって、物理的な痕跡を残しつつ、かつ人間の脳に働きかけて或る種の心像を生み出すような自然現象を想定しているらしい)

・コントロール・システム仮説
(注:ヴァレの考え出した悪名高き理論で、自然現象なのか或る種の知性体が意図して行っているものかはわからんが、人間を特定の方向に導こうという力の存在を想定する仮説)

・ワームホール・トラベル仮説
注:「四次元のワームホール」を通り、時空を超えた世界からやってくる存在としてUFOを定義する仮説。例によって何がなんだかよくわからないが、これはよく考えると「異星人」の介入の可能性も否定していないので、広い意味では「地球外訪問仮説」に救いの手を差し伸べた考え方でもある)

かくてヴァレは、ワームホール仮説で救済されることもあるンでET仮説は絶対ナシとは言わんけれども、ここでオレが指摘したような弱点をクリアするようなかたちで議論してもらわんと話は進まないからネということを言って、この論考を締めくくっている。



さて、地球外訪問仮説を退けたところで、「じゃあホントのところは何よ?」といった時にヴァレが繰り出してくる仮説は、正直いうと、なかなかしんどいものがある。あるけれども、エイリアンなんてものを想定してどこまでも突き進むのはちょっとムリ筋だよなーというところまでは、けっこう説得力があるんではないか。

そもそも「UFOと宇宙人は関係ない」のであり、従って「政府はエイリアンと円盤を捕まえている」説はデタラメである。そういう流れでヴァレは『Revelations』を締めくくっているワケで、版元さんがその締めくくりパートを削って翻訳を出してしまったことは、著者の真意を伝える上で実に惜しまれる行為であった。悪いことは言わんから、未訳の部分も付け加えてぜひ再刊をしてほしいものである(と到底ありえない無理難題を言って終わる)。


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どうでもいいことであるが、先般、痔の手術をして入院してきた。この種の「痔の闘病ブログ」みたいなのはググってみると山ほどもあり、「屋上屋を架す」感もあるけれども、これまで入院なんてものはしたことがなかったこともあり、個人的にはけっこう新鮮な体験だったのでウェブページを作ってみた。

イボ痔でお悩みのご同輩の参考になればいいなあ、ということでリンクを貼っておこう。
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