2018年01月

ということで、前回は前置きだけで終わってしまったので、今回はロバート・シェーファーのペンタクル・メモ批判をご紹介しよう。

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 Robert Sheaffer

「Bad UFOs」というのが彼のサイトだが、記事は2012年2月18日付けで、タイトルは「ジャック・ヴァレ、J・アレン・ハイネック、そして"ペンタクル・メモランダム"」とある。例によって翻訳が適当なので誤訳があったらごめんなさいだが、以下がシェーファーの主張である。(色付き文字の部分は「ペンタクル・メモ」本文からの引用)


『禁じられた科学 第1巻』として刊行されている、ジャック・ヴァレの1957年から69年にかけての日記を読み終えた。そこで語られているのは、幼少期を過ごしたフランス時代から始まる彼の人生であり、どんな教育を受け、どんな仕事をし、そして彼がUFO事件にいかにして興味を募らせてきたか、といった話である。本書は高い教養に裏打ちされたものであり、とても個人的なことを記してもいるが、時には詩的ですらある。とても良い本だ。

本書で新たに提起された問題のうちで最も重要なものは何かといえば、それはいわゆる「ペンタクル・メモ」の問題であろう。1967年6月、ハイネックが休暇でカナダに行っている間、ヴァレは空いたハイネックの家に行って(もちろん許可を得た上でのことだ)、ハイネックが手つかずのまま放置していたUFO関連文書を整理することになった。

そこでタイプで打たれた二頁のメモ文書を見つけた彼は、これを非常に重要なものだと信ずるに至った。1953年1月9日の日付があり、そこには赤いインクで「シークレット―セキュリティ文書」というスタンプが押されていた。執筆者の身元を秘匿するため、ヴァレはこれを「ペンタクル・メモ」と呼ぶことにしたのだが、その書き手である「ペンタクル」は、のちにH・C・クロスだと判明した――バテル記念研究所に所属し、空軍のブルー・ブックとの間で連絡係を務めていた人物である。そのメモが発見される経緯、メモについてのヴァレの主張、そしてメモの本文についてまとめた良記事を、ここで読むことができる


ふむ。まずは褒めてから入るというのは紳士である。当ブログで前回説明した話などもここで出てくる。ここから本題に入る。


1、ヴァレ、長期間秘密裏に行われていたUFO研究プログラムを見つける

そのメモはこう始まる。

この書簡は、ATICに対し、未確認の空中現象という問題を今後扱う際の方法論について事前に勧告するものである。この勧告は、我々がこの問題について数千件のレポートを分析してきた経験に基づくものである。

ATICとは、すなわち空軍の航空技術情報センターのことであった。ヴァレはこう記している。「この冒頭のパラグラフは、明らかに次のような事実を示している。つまり、1953年の [CIAによる] ロバートソン・パネルのハイレベル会合に先立ち、何者かが合衆国政府のために、実際に数千件のUFO事件を分析していた――ということである。」(ヴァレ。同書284頁)。この文書は、ブルー・ブックとは違う米政府のどこかの部局で、大がかりな秘密のUFO調査プログラムが存在していたことを示唆する、というわけだ。

ヴァレはそのあとすぐに「ペンタクルは実際にバテル [記念研究所] で働いていたことに間違いはない」(ヴァレ。同書294頁)ということを突き止め、この筋書きを裏打ちする。息が止まりそうだ――1953年1月、バッテルには「何千件」ものUFOレポートを米政府のため分析していた何者かがいた、ということなのか? しかもこれは秘密のプログラムであった、というのか?

いやいやヴァレさん、待ってくれ。バテル記念研究所は1952年3月、プロジェクト・ブルーブックのために「スペシャルレポートNo.14」作成にかかわる仕事を始めていた。これはブルーブックにファイルされていたUFOレポートの統計分析で、当時の最新式コンピュータとパンチカードとを用いた最初期のものだった。この報告書は1954年に完成し、刊行された。その「スペシャルレポートNo.14」はユーフォロジストにはよく知られたものだ。実際、スタントン・フリードマンなどは、これについてしゃべりだしたらとまらない。

当然ながら、1953年1月のバテルで、米政府のために「何千もの」UFOレポートを分析していた人物は存在した。彼らはブルーブックの「スペシャルレポートNo.14」のために仕事をし、翌年、その仕事を終えたのだ。

おめでとう、ジャック! あなたはブルーブックの「スペシャルレポートNo.14」を執筆するチームが存在したという紛れもない証拠を見つけたのだ! そのレポートの存在が疑われたことなど一度もない。そこのところはスタントン・フリードマンに聞けばよい。


これは論点の一つで、「ブルーブック以外に人知れずUFO研究をしていた組織があった」と聞けば「政府の陰謀!」という言葉が反射的に出てきてしまいがちだが、「データの統計分析を外注した」ということであれば、ま、そういうこともあるでしょうなあという感じである。

なお、念のために言っておくと、文中のATIC(Air Force's Air Technical Intelligence Center 空軍航空技術情報センター)というのは、UFO調査機関たるブルーブックが所属していた上部組織である。


2、ヴァレ、CIAのロバートソン・パネルを操る黒幕を明らかにする


ペンタクル・メモの中でも、以下のくだりは最も論議を呼ぶ部分のひとつであろう。

[CIAのロバートソン・] パネルの会合が既に日程に上がっている以上、ワシントンで1月14-16日に行われるその会合では、我々のATICに対する事前勧告に関連して「論じられても良いこと・良くないこと」につき、プロジェクト・ストークとATICの間での合意を得ておくべきだと考える。

ハイネックによれば、ホワイトストークというのは、ブルーブック・プロジェクトも包含するものとしてかつて使われていた空軍のプロジェクト名だった。然るにヴァレは、プロジェクト・ストークは、近々開かれるロバートソン・パネルをつんぼ桟敷に置き、パネルが知ってもよい範囲を決めてしまうものだったと示唆している。

ヴァレは、そのメモは「パネルが論じて良いことと、悪いこと(つまりパネルから遠ざけておくべきこと)についてのカギの部分」について指図をしているように見える、とも書いている。「証拠を事前にセレクトすることで、科学者たちが到達するであろう結論は想定の範囲内に収まってしまうのだ」と。

が、ヴァレはそのセンテンスをより注意深く読むべきだった。それはUFOの目撃であるとか証拠について言っているわけではない。彼はそのセンテンスを、あたかも「ワシントンで1月14-16日に行われるその会合では、『論じられても良いこと・良くないこと』につき、プロジェクト・ストークとATICの間での合意を得ておくべきだと考える」とのみ書かれているように解釈している。

だが、そのセンテンスには続きがある。「我々のATICに対する事前勧告に関連して」というくだりである。換言すれば、「ロバートソン・パネルの議論に於いてどういう問題が聖域であるかを決めよう」というのではなく、「バッテルとATICの関わっている計画についてパネルに何を告げるべきかを決めよう」と言っているわけだ。

平易な英語でいえば、「我々がATICに提案していることについて、ロバートソン・パネルにはどれぐらい話すべきなんだろう?」という話である。英語がヴァレの母語でないことは知っているけれども、彼は英語を完璧にマスターしているだけに、彼がこのセンテンスを誤読していることには驚きを禁じ得ない。


これが次なる論点である。バテルはUFO問題について「こういう話はオープンにできるが、これはダメだ」などと差し出がましいことを主張しているわけではなく、「私たちが空軍にいろいろアドバイスしてることを査問会に一から十まで明かす必要はないでしょう」と言っている――シェーファーはそう指摘する。

ここで勢い余って、ヴァレに対し「あんた誤読してるよねー」などと英語力を云々するのはいささか勇み足のような気もするが、ま、西洋のディベートというのはこういうことも平気で言うものなのだろう(知らんけどw)。


3、ヴァレ、UFOについて大掛かりな欺瞞プロジェクトがこっそり行われている証拠をつかむ

UFO問題にかんして大衆を騙す狙いから、大掛かりで憂うべきプロジェクトが軍部の支援の下に行われている――ヴァレは、その証拠を以下のくだりから読み取っている。

我々は、一つないしは二つの地域を次のような「実験エリア」として設定することを推奨する。このエリアには、視認により空中を漏れなく監視する体制のほか、レーダーや写真撮影の設備はもちろん、該当地域の上空におけるすべての出来事について信頼すべきデータを収集するために有効ないしは必要なあらゆる機材が完備されるべきである。その観察が行われている間は、気象についての完璧な記録も取られねばならない。

そのカバー範囲においては空中のあらゆる物体が追跡され、その高度・速度・大きさ・形状・色・出現日時といった情報が記録されるよう完璧を期さねばならない。テストエリアにおいて気球を飛ばすことやその飛行経路、航空機の飛行、ロケットの発射といった情報は、その実験の所管者に通知されねばならない。エリア内の空中におけるありとあらゆる活動は、密かに統制下に置かれねばならない。[ここはちょっと意訳]

これについてヴァレはこう書いている。「ペンタクル・メモの要請は、ここまで論及してきたものにとどまらない。それは『エリア内の空中におけるありとあらゆる活動は、密かに統制下に置かれねばならない』とまで述べているのだ。これ以上、ハッキリした言葉はあるまい。これは、単に観察ステーションとカメラを整備しようといった話ではない。軍のコントロールの下、大掛かりに、かつ隠密裏にUFOの目撃ウエーブを起こす模擬実験を起こそうという話なのだ」

が、ペンタクル・メモが要請しているのは、次のようなことだと思われる。――人々がものすごい数のUFO報告を上げてきている地域を、まずは特定してみよう。その地域の上空に出入りしているすべてのものを認識できるよう、広範囲をカバーするモニターシステムを設置しよう。それから条件をコントロールした実験に取り掛かることにしよう。気球や、あるいは見慣れない飛行機だとかを見るよう人々に仕向けて、その地域から上がってくるUFO報告をモニターするとしよう。すると、「刺激」として与えた既知のものが、いかにして未知の物体として報告されてくるのかが分かり、それによって、受け取ったUFO報告というものについて我々はより深く理解できるようになるだろう。

これは、科学の視点からすれば素晴らしいアイデアという風にもみえるが、法的ないしは倫理的な観点からすれば規制されるべきものかもしれない。相当のお金がかかるようにも思われるし、秘密を保つのも用意ではなかろうから、結果として目的は達せられないかもしれない。

興味深いことだが、この種の実験がたまたま行われた(つまり意図せずして、ということである)事例がいくつかあり、その結果として、1970年代にハイネックの [活動に携わった] 主な調査員の一人だったアラン・ヘンドリーは、目撃報告というものにますます懐疑的になってしまった。著書『UFOハンドブック』に詳しいが、ヘンドリーは、正体のわかっている「刺激」(広告飛行機、気球など)に起因した目撃報告を調査したところ、その多くがあまりにひどい錯誤にまみれていたため、彼はそのような報告を額面通りに受け取ることを注意を促すにいたった。

ヘンドリーは、他のユーフォロジストに対しておそろしく失礼な態度をとった点で罪があるように見えたから(彼は説明不能なUFO報告もあると信じてはいるのだが)、彼らから避難を浴びるようになった。案の定、ひどい目にあったヘンドリーは、約30年前にユーフォロジーから足を洗ってしまい、以来、そのことを議論するのを拒否している。

これは『禁じられた科学』にしばしば出てくるテーマであるのだが、ヴァレは同書で、米国やフランスにおいて、政府や科学界にみられる硬直した官僚主義について再々論じている。彼は、変化を受け入れることに後ろ向きな官僚主義によって明らかに優れた提案が退けられ、無視すらされてしまった事例をこれでもかと上げている。

驚くべきは、よりによってそんなヴァレが、ここでは「申し入れ」と「プロジェクト」を混同してしまっているように見える点だ。彼がしかと認識しなければならないのは、ペンタクルが大がかりで新しいUFO探求プロジェクトを提案したからという理由だけで、空軍の硬直した官僚によってそうした申し入れが実際に実行に移された可能性は、誰がみてもごくわずかだった、ということだ。

このくだりは、いかなる意味においても、UFO [目撃] の刺激となるものを差し出すような「コントロールされた実験」が実行に移された、ということを意味してはいない。


もう一つの論点は、「当局は人為的にUFO騒動を起こす実験を試みたかどうか」である。
ここでシェーファーが持ち出す論法は、「あんただって米当局が官僚的でちゃんとした仕事しないことはぼやいてたでしょ、なんでこんな提案に限って実行に移したなんて言えるのよ」というもので、なかなかディベート術としては勉強になる(笑)。

ということで、ここからあとは「あんた科学者なのに薔薇十字団に関心もってどうすんのよ」的なことが延々書かれており、直接「ペンタクル・メモ」には関係ないことを言っているので、今回は触れない。興味のある方は直接あたっていただきたい。(おわり)




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たまにはUFOネタを書いてみよう。

ジャック・ヴァレには自らの歩みを記した日記を本にした『禁じられた科学 Forbidden Science』というシリーズがあって、これまでに3巻が出ているんだが、その第1巻が1992年に出たとき、ちょっとした議論を呼んだエピソードがある(と聞いている。リアルタイムでフォローしてたわけではないけどw)。

それは何かというと、いわゆる「ペンタクル・メモ」のエピソードである。

ヴァレは、「米政府はUFO問題への取り組みをすべて公開しているわけではなく、これまで陰でいろいろやってきた」という、いわゆる陰謀論を唱えていることでも有名だ。

もっとも「米政府は墜落した円盤を秘匿している」とか「宇宙人とコンタクトしている」といった話は否定しており、つまり彼は「米政府はUFOを隠れ蓑に秘密兵器を開発している」といったレベルの陰謀を考えているようである。

  • 注:その後、ヴァレはパオラ・ハリスという怪しげな研究家と組んで「サンアントニオ事件」を調査し、『Trinity』という本を出したのであるが、ここでは「どうも米政府は墜落UFO秘匿しとるようだぞ!」ということを言い出して全世界のヴァレ・ファンをガッカリさせてしまったのであるが、まぁそれはまた別の話である

閑話休題。問題の「ペンタクル・メモ」であるが、これはヴァレが自らの陰謀論を支える証拠として持ち出してきた文書であって、先の『禁じられた科学』でこの話をはじめて明かした。それがけっこう話題になったらしく、いろいろと物議を醸してきたらしい。

以下、この文書について簡単に説明しよう。

話は1967年にさかのぼる。ヴァレはこの年、UFO研究の盟友ともいえるアレン・ハイネックに散らかったUFO資料の整理を頼まれたらしく、旅行中のハイネックの家に入り込む。ちなみにハイネックは米空軍のブロジェクト・ブルーブックなどという調査機関の顧問をやっていたから、その手の資料がもろもろあったということなのだろう。

そこで見つけたのが「ペンタクル・メモ」であって、要するに手紙である。日付は1953年1月9日。全2ページで、送り主はバテル記念研究所のH・C・クロス、宛先はライトパターソン空軍基地のマイルズ・E・コルという軍人である。ブルーブックの責任者であるエドワード・ルッペルト大尉にも回覧するよう書いてあって、要するに米空軍のUFO問題担当部局と、業務委託の関係にあった外部の研究機関との間の打ち合わせ文書ということになろう。

で、ちょうどこの月の中旬、CIAがスポンサーとなって、「UFOは国防上の脅威なのか」「UFO研究に科学的価値はあるか」といった問題を科学者たちから聴取する査問会がワシントンで行われることになっていた。いわゆるロバートソン・パネル(ロバートソン査問会)である。

結果的には「別に脅威だとは言えんし、科学研究してもイイことあるかわからん」といった話になって、「UFO研究に意味ナシ」という烙印を押した会合としてUFOファンの間では悪名が高いのだが、それはともかく、ペンタクル・メモには「ロバートソン・パネルに持ち出していい話・持ち出したら悪い話について打ち合わせしましょうや」みたいに読める部分があった。

そのほかにも「バテルでは秘密裏にUFO研究が行われていた」とか、あるいは「人為的にUFOの目撃ウエーブを起こしてみよう」みたいな記述があった。というか、ヴァレはそういう風にこの文書を読んだ。で、「ああ、やっぱ陰謀やってんじゃん」とヴァレは言いだしたのだった(ちなみに、ペンタクルというのは、この時点でヴァレが身元を明かすのはマズイんじゃねーか、ということで、差出人の仮名として付けた名前である。故に、一般にはこれが「ペンタクル・メモ」と称されるに至ったという次第)。

オレはヴァレのフォークロア的なUFO論には興味があるが、陰謀論には正直あんまり関心がない。ただ、ヴァレ研究家の礒部剛喜さんが、昨年だったか、このペンタクル・メモを高く評価するネットコラムを書いておられた。ま、そういう考え方もアリだとは思うが、ペンタクル・メモにはけっこう批判もあるということを知っておくのも、ヴァレを学ぶ上では意味があるんではないかと思う。

確かジェローム・クラークの『The UFO Encyclopedia』にもネガティブなことが書いてあったが、今回は、このメモについてやはり批判的なことをいっている懐疑論系のUFO研究者、ロバート・シェーファーの論考を紹介してみよう。これは彼のサイトに載っているのだが、そのことはNHKの「幻解!超常ファイル」にも出た(!)UFO研究家の小山田浩史さんに以前教えてもらった。

…と前置きのつもりで書いていたら、ずいぶんと長くなってしまい、本題に入れなかった。項を改めてその内容をご紹介しよう。(つづく








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こないだイボ痔の手術を受けてきて闘病日記のページを立ち上げたのであるが、実はその後、回復が思わしくない。

とゆーか、手術から2ヶ月の時点で、いつのまにか切れ痔になっていて、しかもかなり悪化しているという謎の宣告を主治医から下されてしまった。

いまだかつてそんな症例があったとは一度も聞いたことがない(まあ素人なんで聞いたことがないのは当然だが)。

なんか鬱々とした日々を送っているわけだが、そのへんのイライラを発散する意味もこめ、前回もリンクを張ったけれども引き続き「内痔核を斬るッ!――または内痔核(いわゆるイボ痔)の闘病日記」という日記を書いておる。大団円に至ればいいのだが、今ンとこお先真っ暗である。

いちおうずっと書いていく予定なのでヨロピク。


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