朝日新聞でオレが楽しみにしている数少ない企画のひとつ、「アロハ記者」シリーズが本日の朝刊でまた始まっていた。今回のタイトルは「こりずにアロハで猟師してみました」というのである。

エセ紳士がバッコする朝日新聞の社内にあって、この手のお行儀の悪い連載は「いかがなものか」的なマナザシを浴びていることが予想されるのであるが、こうやってたびたび紙面にサバイバってくるあたりは流石である。

そういえば、作曲家の團伊玖磨には「パイプのけむり」と称する大長編エッセイシリーズがあった。で、「続パイプのけむり」「続々パイプのけむり」あたりまではまだ分かるのだが、「なおかつパイプのけむり」「どっこいパイプのけむり」などと奇妙なタイトルをつけてはしつこく刊行を続け、このシリーズは結局27冊に及んだ。今回のアロハ記者シリーズが第何弾になるのかは知らんが、どうせならこれぐらい続けて頂きたいものである。

閑話休題。で、再開第一回目はどういう話であるかというと、アロハ記者のもとには社の内外から弟子が集まってきていて(むろん百姓の仕事を教えてほしいという弟子ではなく、ジャーナリストとしての弟子である)そこには一種の「私塾」みたいなものが生成しているのだが、筆者は別に謝礼をもらうでもなく飲み会のカネなんかも自腹を切って出している。であるならば「その分は働いて返してもらうぞ」というワケで、弟子たちをフル活用して長崎の田んぼは現在耕地面積拡大中――といったストーリーである。


いやはや、こりゃすごいことになってきたなあと思う。

というのも、もともとこの企画というのは、社外でライター活動もしている朝日新聞の記者が「上の人間に睨まれて朝日をクビになっても最低限メシは食えるように自分で田んぼを作ってみよう」という初期設定のもとに始まったものである。その辺がいつのまにかどっかいっちまって、今では「都市文明や新自由主義に抗するための砦を田舎に築くのだ」みたいな話になってないか。

もちろん長編マンガとかが延々続いているうちに「最初のあの話どったの?」みたいになってしまうことはよくあるし、テレビの「鉄腕ダッシュ」なんかも最初は「地図上にダッシュ村という地名を載せたい」とかいって始まったものがいつの間にか完全に違うものになってしまった。なので、当初の意図から離れておかしな方向に逸脱していくのもアリだろう。

で、オレはこれ読んでて思ったのだが、アロハ記者は長崎だか大分だかに作りつつあるのはひとつのコミューンなのではないか。加えて注目すべきは、辛酸なめ子さんも挿絵のイラストの中で「ハーレム状態」という言葉を使って触れているが、このグループには若い女性記者・ライターが陸続と詰めかけているらしく、その限りでなるほどハーレムみたいに見えるということである。

コミューンに集まる若い女性――というと、ジジイ世代であればすぐ思い出すものがあろう、そう、キリスト者の千石イエスが作った宗教的コミュニティが世間から「洗脳してハーレム作ってるンじゃね?」とかいって糾弾された「イエスの方舟事件」である。

まぁアレなんかは実際な真面目な聖書研究サークルみたいなもので全然ハーレムとかじゃなく、いわば濡れ衣だったのであるが、とまれ我々の耳目を引いた出来事であった。確か「転移21」の山崎哲が劇にしたのを若き日のオレも観に行った記憶がある。

いや、話がやや遠回りしたけれども、今回の新シリーズは「若い女性がいっぱいいるコミューンは現代に成立するのか」という方向に暴走していったらどうか。いやどうかとかいってももう構想は固まってるだろうからムダなのだが。まぁ不定期連載だというので、その行く末を見守りたい。

追記

なお、オレはこの企画について「田舎は基本的に閉鎖的な社会で、そんな牧歌的なイイ話ばっかじゃないだろうよ」というような嫌みを再三書いてきたのだが、今回の記事で筆者は「オレは7年間もまじめに米を作り続けてきたんだよ、地域社会に根付くためにはそれぐらいのことしねえとダメなんだよ、話はそっからよ」的なタンカを切っていて(いや正確にはそこまで言ってないのだがw)オレ的にはなんかとても面白かった。