2022年06月

raqepo
 ホセと会話するジャック・ヴァレ(「Trinity」より)

ジャック・ヴァレはこれまで――例の「ロズウェル事件」なども含め――いわゆるUFOの墜落・回収事例というものに懐疑的な見方を取ってきた。「米政府はハードウェアとしてのUFOなど手に入れてなどいない。そして米政府はいまだUFOの真実に迫り得ていない」。彼がこれまで展開してきた主張はそのようなものだったとオレは理解している。そんな経緯を踏まえてみると、本書『Trinity』で彼は或る種の「宗旨替え」をしてしまったようにも見える。

「サンアントニオ事件」というのはウソ偽りのない墜落・回収事例であり、米軍は1945年の時点で実際にUFOの機体回収を行っていた。いや、ひょっとしたら米当局は「搭乗者」の身柄を押さえた可能性すらある――彼が本書で示唆しているのはそのようなことである。すると、これは年来のヴァレの主張と矛盾するのではないか? 「米政府は何も分かっちゃいない」という主張を頷きながら読んできたヴァレの愛読者からすれば、これはいささか当惑せざるを得ない事態である。米軍がUFOを――そして「搭乗者」をも――回収していたのだとすれば、そのテクノロジーや起源といったものについて、かなりの情報を手にしたと考えるのが自然ではないか。おそらくはそのような疑問を抱くであろう読者に向けて、ヴァレは本書ではこう述べている。



テクノロジーの世界におけるあらゆるサインは、最初の原爆が爆発した1か月後、サンアントニオで「アボカド」が発見されて以降に行われたリバース・エンジニアリング計画が失敗したことを指し示している。


つまり、UFO由来のハイテク技術など全く実用化されていない現状をみれば、その解析作業からは最終的に何の成果も得られなかったと考えるほかない、という見立てである。まぁそういう理屈ならばヴァレの従来の主張と矛盾せずに済む。済むけれども、そんなUFOの回収事件がホントにあったとしたら、その後の米当局のUFO調査プロジェクトが――たとえばコンドン委員会のようなものだ――あんなにグダグダ迷走することはなかったんじゃねーかという疑問も浮かぶ。ドラマになぞらえて言えば、伏線が張られたまま、ほったらかしになっているような感じである。

こうして見てくると、オレなどはここに、老境に入ったヴァレの「焦り」を感じてしまったりするのだ。

――UFO研究に身を投じて70年。しかし、その正体はいまだ判然としていない。「自分が生きているうちにもはや進展はないのだろうか」。そう思っていたところで出会ったのが「サンアントニオ事件」。調べてみればこの事件、何と人類初の原爆実験があった場所・時代ときびすを接するようにして起こっているではないか。ここには重大な意味があったに違いない!

・・・・・・とまぁ、そんな感じでヴァレはこの事件の真贋についてついつい「甘い」評点を下してしまったように思われる。本書の表題が人類初の原爆実験「トリニティ」から取られたのにはそんな事情があるワケだが、ともあれヴァレは「この事件は原爆実験と深いつながりをもっている」という仮説の下、サンアントニオ事件に独自の意味づけをしようと些か強引な試みを本書で繰り広げているのである。

     *    *    *    *

いや、何だかずいぶんとヴァレについて否定的なことを言ってしまったようだ。いや、ただ、それでもなおヴァレは「終わった人」ではないとオレは思っている。何となれば、一見したところ奇矯にも思えるロジックを駆使し、独自の世界を構築していくのはヴァレの真骨頂とするところであり、その片鱗は本書でも一瞬のきらめきを見せているからなのだ。では彼は本書でどんな思索を繰り広げているのか。以下、なかなかにスリリングなその内容を見ていきたい。

あらかじめ結論めいたことを言っておくならば、この「サンアントニオ事件」というのは何者かが「トリニティ実験」へのリアクションとして起こしたものである、というのがヴァレの基本的スタンスである。言うまでもないが、このトリニティ実験というのは、第2次大戦終結の最後の切り札として原爆開発に取り組んでいた米国政府が、1945年7月16日にニューメキシコ州で行った人類初の核実験である。サンアントニオ事件が、このトリニティサイトからわずか40キロしか離れてしない場所で起きたこと。それがまずは両者の密接な関係を示唆しているとヴァレは言う。

さらにヴァレは、「アボカド形」と評されたUFOの形状もこのトリニティ実験と関わりがあるのでは、と言い出す。どういうことかというと、このトリニティ実験においてはプルトニウムを用いた原爆が用いられたのであるが、「ガジェット」と命名されたその寸詰まりの形状はサンアントニオ事件のUFOによく似ている、というのである。さらにこの実験では、万一爆発が失敗した場合に猛毒のプルトニウムが散乱するのを防ぐため、当初は「ジャンボ」と呼ばれた巨大な鋼鉄容器の中で原爆を爆発させる予定だったのであるが、現場近くに運び込まれた「ジャンボ」の形状もまたUFOに酷似していた(実際にはこの「ジャンボ」はトリニティ実験では使用されずに終わっているのだが)。

要するにヴァレは、UFOのヌシである「何者か」は人間が準備している核実験のことをよ~く観察していて、「これはアンタらの核実験に対するアンサーだから」といった意味合いで同形のUFOをわざわざ飛ばしてみせたのではないか、という意味のことを言っているのである。なんだかよく分からないがスゴイ発想である。

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 「Trinity」より


なお、ここでついでに言っておくけれども、本書でヴァレは、流れをぶった切るようにして伝説的UFO事件であるところのソコロ事件(1964年)とヴァレンソール事件(1965年)についても詳細に論じている。どういうことかというと、ここでも彼は多分UFOの形状というものを意識している。つまり、信憑性の高い(と彼が考えている)この2ツの事件で目撃されたUFOもやっぱりサンアントニオ事件のソレと似てるじゃん、ということを言いたいのであろう。

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 「Trinity」より

以上をまとめてみると、ヴァレの考えは以下のようなものだ――人類が核兵器を手にしてしまったことに対して、連中はおそらく「警告」のために何らかのリアクションをせねばなるまいと考えた。そこで彼らは

①トリニティサイトにほど近い場所で
②トリニティ実験からカッキリ1か月後の「8月16日」という日を選び
③「これはトリニティ実験への応答なのだ」と理解してもらえるよう敢えて「ジャンボ」と同形のUFOを送り込んできた

――という話なのである。

ちなみに「UFOが第2次大戦後に数多く目撃されるようになったのは核兵器による人類の自滅を警告するためだ」というのは、それこそコンタクティーの皆さんはじめ多くのUFO関係者が唱えてきた陳腐な説ではある。ヴァレが最終的にそっち寄りのことを言い始めたのは若干残念なような気もするが、とにかくそういう文脈で話は進んでいく。


ただし、「空から飛んできて墜落した物体が米軍に回収された」となれば、これは「宇宙からやってきたと考えるほかあるまい」というのが普通の発想なのだろうが、彼がそこで自説を撤回することなくキチンと踏みとどまっている点には注意したい。読む前は「なんだヴァレも遂にET仮説に堕してしまったのか?!」という疑念を抱いていたのだが、それは「冤罪」であった。彼はこの期に及んでなお「UFOは外宇宙から飛来した」といういわゆる「ET仮説」には疑義を呈しているのである(偉いぞヴァレ!) たとえば本書には以下のようなことが書いてある。



我々はUFO現象を考える際に大きな誤りを犯してきたものと私は考えている。第一の大きな誤りというのは――UFOが実在するとしての話だが――別の可能性を排した上で「この現象は他の惑星から宇宙を越えてきたエイリアンに起因しているに違いない」と仮定したことである。




ユーフォロジストたちが今も提唱している安直な説明――つまり「どこか向こう」にある仮説上の惑星から都合よくやってきた訪問者がおり、彼らはたまたま我々のようなヒューマノイドで、我々の吸う空気を呼吸しているというものだ――は70年間にわたって存続しつづけている。もちろん、それですべての説明はつく。(中略)しかし、それを科学ということはできない。



無論、UFOを飛ばしているのがいわゆる「宇宙人」ではないとすれば、一体それは何者なのかという問いは残ってしまう。本書でも彼は明確な答えを提示し得ていない。ただし、彼のイメージの中では、「サイキック」に関わるレベルで人類に影響を及ぼそうとしている未知の存在の姿が確かに見えているようでもある。本書のいたるところでヴァレは、次のような自問自答を繰り返している。




UFOというものが、人間が今の知識や社会の発展レベルでは決してリバース・エンジニアリングができないようデザインされたものだったとしたら? 彼らのターゲットは違うレベルにあったとしたら? つまり、それが象徴的なレベルのもので、生命と我々との関係にかかわるものであったら? サイキックのレベルにおけるもので、宇宙と我々との関係にかかわるものであったら? 彼らはそこに存在論的な警告を込めていたのだとしたら?




その物体が単に物理的な乗り物というより、一種の情報物理学(これは今日生まれつつある科学である)の産物であったとしたら? それは物理的なものでありつつ、同時に――より良い言葉がないのでこう言うのだが――「サイキック」なものでもあるとしたら? 人類初の大規模かつ歴史的な原子力の解放があってから1か月後、古代からの伝統ある場所にテレパシーを使う奇妙な生きものを配置して、それはなにをしていたのか?




それは我々が原子力を発見したことに対する直接的な返答だったのか? 希望に満ちた対話の始まりだったのか? それともメッセージだったのか? それは、我々が今後生き残っていくためのささやかな可能性を受け取れるよう、外部にいるアクターが求めていた反応――つまり我々の精神を強制的に開放し、我々の傲慢を取り除き、人間とは違うものの意識に耳を傾ける機会を設けることで或る種の反応を引き起こすべくパッケージされたものだったのか?



なんだか禅問答のようではあるが、このあたりの言い回しは、実はヴァレが「コントロール・システム」というような奇っ怪な議論を打ち出した頃と殆ど変わっていないのである。それから次に引用するのはなかなかに衝撃的なくだりなのだが、ここを読むと、「サンアントニオ事件」のUFOというのは「彼ら」が人間にメッセージを伝えるため意図的に墜落させたものではないか、といったことまでヴァレは言っている。実に悪魔的な仮説である。




もし連中がアルファケンタウリなどから来ているのではなかったとしたら? もし連中の乗り物が墜落するよう意図されていたとしたら? それが贈り物だったとしたら? あるいは何らかのシグナルだったら? あるいは警告だったとしたら? 戦略的な対話に向けての希望を託した第一歩だったら? それが我々がいま用いている基本的な語義の通りの「宇宙船」ではなかったとしたら? 連中がその搭乗員の生死など気にかけていないとしたら?


そう、彼が想定しているような知的存在が本当にいて、1945年の夏にUFOの墜落というかたちでメッセージを送っていたのだとすれば、「彼ら」はいまの地球をみて何を考えているのだろう。オレはついついそんなことも想像してしまいたくなるのだった。

     *    *    *    *

さて、まとめである。

縷々述べてきたように、私見ではあるが、この「サンアントニオ事件」が正真正銘のリアルなUFO墜落・回収事件だったのかは疑問である。だが、ヴァレがこの事件に或る意味「賭けた」心境は分かるような気がする。そして、そこから先は例によってヴァレ一流の思弁的な議論となる。「UFOを飛ばしている者たちは何処から来ているのか」という問題についてのヴァレの考えは俗に「多次元間仮説」というよく分からない言葉で説明されてきたのだが、本書でもそこは全く五里霧中のままであった。しかし、それでもなお読み進めていくうちに、目前にはやはり夢幻の中に遊ぶような魅惑的なヴァレの世界が広がっていく。

おそらく本書はヴァレにとって最後の著作ということになるのでは、という予感がある。長年よく頑張っていただきました――全巻を読み終えた今、オレの心中にはそんな言葉が自然と浮かんでくるのである。(おわり)


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UFOファンであればご存じの方も多いと思うのだが、ジャック・ヴァレは「UFO問題の背後では米政府が暗躍している」という、一種の「陰謀論」を唱えてきた人物としても有名だ。もっともそれは、矢追UFOスペシャルで散々聞かされた「米政府はひそかに宇宙人と接触して密約を結び、人間の拉致を黙認する代わりにハイテク技術の供与を受けている」といったおどろおどろしいものではない。

オレの理解によれば、ヴァレの陰謀論というのは以下の如きものである。




米政府はUFO問題が何やらとてつもなく重要であることは察しているので、その核心に一般大衆が接近することは何としても阻止しようと必死であり、これまでもニセ情報を流すなどのディスインフォメーション作戦を展開してきた(もっとも連中は未だにUFOの正体をつきとめるには至っていないのであるが)。

ただ連中もなかなか侮れぬところがあって、大衆のUFO現象への関心を隠れミノにして、コッソリ秘密兵器を開発するようなあくどいこともやってきた。要するに、実験のため開発中の最新鋭機を飛ばしても一般市民は「おおUFOが飛んでる!」とかゆうて勝手に勘違いしてくれる。コリャ都合が良いワイ使えるワイという話である。




確かにUFOがしばしば出没するとされてきた例の「エリア51」は実際には新型航空機などを開発する拠点であったというし――そのあたりはアニー・ジェイコブセン『エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実』(2012、太田出版)に詳しい――その限りでは「米政府はUFO問題に絡む陰謀を張りめぐらせてきた」という彼のテーゼもあながちデタラメとはいえない。

してみると、このサンアントニオ事件に関して「米当局がどう立ち回ったのか」というのは当然ヴァレの大きな関心事ということになる。オレなどからすれば今ひとつ証拠が脆弱なこの事件ではあるが、ヴァレはここで「いやいやいや実際に当局は何だか怪しい動きしてたじゃん!」ということを言い募る。そうした当局の暗躍こそが事件がホントにあったことの証拠になるじゃないか、ということでもあるのだろう。以下では本書からその辺にまつわる話を紹介してみたい。


まず第一に興味深いのは、墜落現場のあたりではどうやら何者かが今なお現場の「改変」作業にいそしんでいるらしいというエピソードである。

本書によれば、そのUFOの墜落地点の周りにはずっと植物が生えず、長さ30フィートの楕円形のエリアがぽっかりと空いていたらしい。この手の逸話はUFOの着陸事件とかにはよくあることだ。つまり現場には墜落に伴う何らかの物理・化学的影響があったことを示唆しているワケでそれはそれで面白いポイントなのだが、今回問題になるのはソコではない。その後に起きたことである。

調査に取り組んでいたパオラによれば、2010年代も半ばになって、突然その楕円形エリアを覆うかたちで奇妙な植物が生え出てきたのだという。触るとチクチクし、アレルギー反応を起こす厄介な毒性植物で、それはのちの調査で「nightshade」と「cocklebur」であることが判明している。つまりこの毒性植物には二種類があったということだ。

ちなみに「nightshade」というのは和名でいう「イヌホオズキ」に相当するものらしい。「イヌホオズキ」で検索してみると、これはナス科の一年草で、高さは通常は20~30cm、大きくなれば90cmほどにもなる。また「cocklebur」はキク科の一年草である「オナモミは、丈は20センチから1メートル程度だという。

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 イヌホオズキ(左)と「オナモミ」

こうした毒性植物は、ヴァレ自身、2018年に初めてその現場に行った際に確認している。周辺には全く見当たらない毒性植物がその場所にだけ密生しているということは、つまりそれは誰かによって植えられたのであろうとヴァレは考える。「この場所に近づくな」。おそらくはそういう意図がある。そして、普通に考えればそんなことをするのは墜落があったことを知っているもの――つまり軍なり何なりである。もちろんヴァレ自身も言っているように、そんなものを植えれば「ここが現場です」ということをご丁寧に教えるに等しい。なんだか馬鹿馬鹿しいような気もする。だが、UFOにまつわる話にはそういう馬鹿馬鹿しさがつきものなのも一面の真理である。

さらにその翌年。ヴァレが再び現場を訪問した時には、前回から地勢に変化があった。つまり、一帯で土木工事が行われた形跡があったのだという。それは一帯の洪水対策のため近くに堰堤を築く工事か何かだったようで、墜落地点の周囲もだいぶ整地されていたというようなことが書いてある。

【注】ここで念のため言っておくのだが、実はオレはこの辺りを読んでいて「オヤッ?」と思った。というのはこの現場というのはニューメキシコ州の乾燥した荒野の真ん中のはずである。ここいらにも峡谷もあるようなことは書いてあるが、そもそも「洪水」なんてものが起きる土地なのか? 納得がいかない感じはあるが、ニューメキシコの気候風土を改めて調べるのも面倒臭い。しょうがないのでここは話を先に進めたい


この再訪時には、前年に確認した「毒性植物の生えた楕円形」の部分も一部が表土を剥がされており、そこからは植物の姿が消えていた。要するにかなり地形が変わっていたのである。ヴァレは「あわよくば穴でも掘ってUFOの破片でも見つけてやろうと思ったが、表土は土中深くに埋まってしまったので諦めた」というようなことも書いている。要するにヴァレは、「何者かが自分たちの調査を監視し妨害している」というところに話を落とし込もうとしている。

【注】このあたりを読んたオレは「仮に治水目的の土木工事があったのなら、公的セクターに事業主体だとか工事内容について記録した書類とかあるはずだろ? まずはその辺を調べろよ」と思ったのだが、高齢のヴァレにそんなことを言うのは無理難題かもしらん。なので、ここもこれ以上は突っこまずに話を先に進めたいw

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  墜落現場で毒性のある植物を前にするホセ(2018年)



さて、「監視し妨害する何者か」の影は、また別のところにも現れている。パオラ・ハリスが、ホセ・パディージャの姪のサブリナをつかまえて取材をした話は前回紹介したが、この時にも奇妙なことがあった。

2020年10月、ハリスはサブリナにまずは電話をかけて話を聞いたのだが、そのとき「いずれお会いして直接話をうかがいたい」とサブリナに告げた。ところが同年12月になって再び電話をかけたところ、サブリナはひどく驚いていた。何故かといえば一回目の電話で話をした次の日、男の声で電話がかかってきて「パオラはそっちには行けなくなった。我々が面倒をみることにするよ」とサブリナに告げていたのだという。パオラという名前も出てきたので、「知り合いが代理で電話をかけてきたのかなと思った」というのだが、むろんパオラに心当たりはない。

要するに、盗聴でもしたのか、前日に二人が電話で話した内容を知っている何者かが一種のいたずら電話をかけてきたのである。普通に考えれば、そんなことができるのは国家安全保障局か巨大IT企業か、といったところだろう。まぁこの話が本当なら、ヴァレならずとも闇からこちらをうかがっている「巨悪」の存在を想定したくなるというものだ。

であれば、米当局が関心を抱き、民間人が首を突っこむことを良しとしない奇っ怪な事件が本当に起きていたのかもしらん・・・・・・と思うかどうかは、まぁ人によるのだろう。とまれ、ここまで紹介してきたような話を踏まえて、さてヴァレは、最終的にこの事件の全体像をどんな構図の中でとらえているのか。ここで伝説のユーフォロジストの見解を聞きたくなるのは人情というものである(いやオレだけかもしらんけどw)。というわけで、次回はその辺の総まとめを。(つづく

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さて、この「サンアントニオ事件」の主要目撃者であるホセ・パディージャ、レミー・バカの証言は本当に信用するに足るのか? 正直言えば、これはかなりツッコミどころが多いような気がする。一般論ではあるが、お互い全く無関係な人々の間で同様な証言が得られたのであれば、その事件の信憑性は高くなる。しかし、小さい頃の2人は兄弟同様につきあっていたようなのである。そこはナンボか割り引いて考えねばならんだろう。

確かに本書でヴァレやパオラ・ハリスは、この目撃者たちは決して「でっち上げ」をするような人間ではないと言っている。とりあえずその言葉は信用してみたい。だが、だからといって彼らの語ったような事件が本当に起こったのかはどうかは分からないのである。たとえば、近しい関係にある複数の人間が一種の妄想を共有するという奇っ怪な現象は実際にあって、精神医学方面には「感応精神病」(フォリアドゥ)という概念もあるらしい。この事件は感応精神病めいたメカニズムの産物で、彼らが過去に見聞きしたUFO絡みの知識を無意識的に総動員して「作り上げてしまったもの」だった――そんな可能性だってあるんではないか。

考えてみれば、彼らの証言には「これまでUFOについて巷間語られてきたエピソード」がチラチラ見え隠れする。

彼らが入手したという「折りたたんでもすぐ元の形に戻ってしまう形状記憶合金みたいなホイル」というのは、やはりUFOが墜落したという触れ込みで有名なロズウェル事件のストーリーにも出てくる。あと、関係者のところにやってきた軍部の連中が「何か墜落してたと思うけど、それって気象観測気球だからネ」みたいな「言い訳」をするのもロズウェル事件のそれを踏襲している。ついでにもう一つ言っとくと、2人が拾った「エンジェル・ヘア」というのも、前回触れたようにUFOの世界では有名な小道具である。ホセたちが自らの体験を語り出したのは2000年代初頭。当然ながらその時点でこうした情報は広く知れ渡っていたのである。

もちろん、UFOマニアの中には「ロズウェルで見つかった形状記憶合金がサンアントニオでも見つかったンか! そりゃ偶然とは思えん!実際にUFOが墜落した動かぬ証拠や!」とかいって喜んじゃう素直な人もいるだろうが、ロズウェル事件の信憑性が地に落ちた今――とオレは思っているんだが――そういう理屈はいささかツライ。「どっかで聞きかじった話を素材として作り上げたストーリーじゃネ?」という疑念が膨らむ。

ちなみにヴァレは、そういう疑念に反駁して「いや、2人は証言の中で自分の見たものをUFOとか円盤とか言わずにアボカド形だった言うとるやん。それが彼らの体験がオリジナルだった証拠や」みたいなことを主張しているが、さて、そのような主張にどこまで説得力があるだろう?

じゃあ、他にこの事件についての証言者は他にいないのかというと、これを直接体験した人は基本的にはみんな亡くなっている。現場で墜落物体を目撃したホセの父親ファウスティーノと警官のアポダカがそうだし、「ブラケット」が床下に埋まっている小屋でエイリアン(?)と遭遇した羊飼いももういない。ただ、実はホセたちの主張を補強するような証言をしている人間がいないこともない。なのでここからはしばし、そんな人物たちを紹介してみたい。

まず、ホセの姪で「私も奇妙な金属を見たのよ!」という女性がいる。本書の後半ではその女性――サブリナへのインタビューが記録されている。

このサブリナというのは、本書の記述によれば1953年3月27日生まれ。事情は定かでないが、生後2か月でホセの父親ファウスティーノ(つまりサブリナから見るとお祖父さんである)に引き取られたようで、彼女はカリフォルニアの高校に入るまでサンアントニオで祖父母と一緒に暮らしていたらしい。ちなみにホセは1954年に家を出ているようなので、サブリナからみたホセは、物心ついた頃にはもういなくなっていた「遠くのオジサン」といった感じになるのだろう。

ここで念のため本書にサブリナが登場するにいたる経緯を確認しておきたいのだが、パオラ・ハリスがホセとレミーに接触して調査を始めたのは2010年だった。ところが、レミー・バカは2013年に亡くなってしまった。だからパオラ・ハリスはレミーに面と向かって話を聞けたけれども、2017年にヴァレとパオラ・ハリスが共同調査を始めた時点では、重要目撃者はホセ・パディージャただ一人になっていたわけだ。

ここからは推測だが、「他に誰か証言してくれる人はいないですか?」とかいって聞いてみたら、「そういや姪のサブリナは何か覚えてるんじゃね?」という話になったのではないか。かくてパオラは、2020年になってサブリナに接触する。彼女はそこでおおむねこのようなことを語っている。

・1960年頃(つまりサブリナが7歳前後だった頃)、彼女は墜落現場に1人で行ってみたことがある。辺りの灌木類は全部焼け焦げていた
・お祖父さんから形状記憶効果をもつ細長い金属ホイル2枚、ファイバー状のエンジェル・ヘアを見せられたことがある
・ホイルは夏でも触るとヒンヤリした。エンジェル・ヘアは暗いところで光り、触ると針で刺したように肌がピリピリした
・ホセおじさんから「ピラミッド型をしたクッキーぐらいの大きさの金属」をもらった。でも子供たちに渡して遊ばせていたら無くしてしまった(なんだよ無くすなよw

要するにホセの父親のファウスティーノも若干の「遺留物」を手元に置いており、孫娘に時折見せていたというのである。ただ、先に触れたように、これも「身内の証言」である以上、信憑性という点ではやはり若干割り引いて聞かねばなるまい。ヴァレたちは「証言者3人になったぞ!」といって喜んでおるが、「それほどのものかよ?」という気がせんでもない。

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 写真は左からハリス、ホセ、サブリナ(「トリニティ」より)

そもそもこういったサブリナの証言にはよくわからないところがある。たとえば彼女は「ピラミッド型の金属をホセからもらった」と言っているわけだが、ホセの話にそんなものは出てこない(オレがうっかり読み落としてたら別だけど)。また彼女も「金属ホイルは風車の修理のために使ってしまった」という話をしていて、それはそれでイイのだが、彼女の話では修理したのは「ホセの家の風車」ということになっており、前回触れた「自分ちの風車を直した」というレミーの証言と矛盾する。加えてサブリナは「風車はホセとその友だちが修理したのを覚えている」というのだが、ホセとレミーはそれぞれ1954、55年に郷里を離れており、1953年生まれの彼女が物心ついた頃には2人はサンアントニオにはいなかったハズなのである。オレの英語力不足のせいなのかもしらんが、なんだか時系列がグチャグチャになってるような気がする。ひょっとしたら彼女は「人から聞いたこと」を自らが体験したように錯覚しているのでないか? なんか信用ならん気がするンである。

さて、本書を読む限りではもう一人、このほかにも「傍証」となる証言をしている人物がいる。彼はビル・ブロフィといって、「陸軍にいたオヤジが墜落事件に関わった」ということを主張しているらしい。この話も説明するとけっこう長くなってしまうのだが、乗りかかった船なので触れておこう。

レミー・バカとホセ・パディージャは、実は2011年に自分たちの体験を記した「Born on the Edge of Ground Zero」という本を自費出版で出している。まぁパオラ・ルイスか誰かが手引きをして出版したのだろうと思うのだが、ともかくこの本が出た後、このビル・ブロフィなる人物はアマゾンのサイトにレビューを書き込んだ。

このレビューは今も消されてはいないので本日(すなわち2022年6月22日)時点でも読むことができるのだが、そこには「自分の父親は当時、ニューメキシコ州アラモゴードの第231陸軍航空隊でB29爆撃団のメンバーだったのだが、1945年8月15-17日にこの宇宙船の回収にあたったという話を語っていた」ということが書かれている(で、このオヤジはたぶんもう死んでるのだろう)。

果たしてヴァレたちがこのブロフィ氏にちゃんと取材をしたのかどうかは例によってハッキリしないのだが、ともあれこのアマゾン・レビューが端緒となってさらなる情報が明らかになったということなのだろう、「Trinity」の中にはこのアマゾン・レビューの記述を補うような情報も書いてある。

それによると、彼の父親はビル・ブロフィ・シニアという人物であったのだが、彼の証言によれば、当時現場近くを訓練飛行していたB29の乗員が――ちなみに本の中では「B49」となっているが誤植と思われる――例の無線タワーのところから煙が上がっているのを目撃したのだという。飛行機の墜落事件があったものと考えた上官の命令で、ブロフィ・シニアは現場へと向かう。そこで彼は墜落した物体を確認し、さらに近くに馬に乗った「二人のインディアンの少年」を目撃したのだという(その回収作業はほどなく別の人物に引き継がれたことになっている)。

このブロフィ・ジュニアの証言が本当であれば、相当に面白いことになってくる。だが、残念ながら本書ではその辺が十分検証されていない。言いっ放しで終わっている。うーん、例のロズウェル事件なども、いったん話が盛り上がってきたら、よくわからん有象無象がワラワラ湧いてきて「オレも見た!」とかあること・ないこと言って大混乱を巻き起こしたのだった。このブロフィ・ジュニアの言葉もたやすく信用することはできんような気がするのだ。

というわけで、ホセとレミー以外の証言というところにまで視野を広げてみても、決め手となるような材料は出てこない。懐疑的なウォッチャーをして「おお、こりゃ確かにあった出来事と考えざるを得ない!」と言わしめるようなブツは結局全然なかったのである。百戦錬磨のユーフォロジストとして名高いジャック・ヴァレではあるけれども、本件に関してはいささか詰めが「甘い」。流石に彼も老いてしまったのかな・・・そんな感慨もないではないのだ正直いえば。

だが、しかし。ヴァレは時折、この事件が根も葉もないだったとしたらちょっと説明しにくいようなエピソードも繰り出してきて、我々を幻惑するのだった。それはあたかも老練なボクサーならではのクリンチワークのようでもある。あらかじめ言っておくと、それはいわゆる「陰謀論」めいた話にもつながっていくワケだが、次回はそのあたりの「小ネタ」を紹介しよう。(つづく


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前回までのところで、少年たちがUFOから取り外してきたという触れ込みの「ブラケット」は、必ずしも墜落事件の真相に迫る物証とは言えないことがうすうす分かってきた。ただ、墜落現場の周辺で彼らが拾ったマテリアルとしては、このほかにも「金属ホイル」や「エンジェル・ヘア」といったものがあった。これらは長い年月の間に失われてしまい、実地に調べることはもはや不可能なのだが、関係者はこうした奇妙な物体について何を語っているのか。そこンところを押さえておくのも意味のないことではあるまい。

ホセとレミーが墜落現場付近に日参していたことは先に述べたが、その間、レミーは金属ホイルのような物体を拾っている。彼によればその大きさは4×15インチほど。「クシャクシャに丸めてもすぐに元の形に戻ってしまった」というから、今で言う形状記憶合金のようなものだったのだろう。

それがその後どうなったかというと、しばらくして、レミーの家の井戸に取り付けた風車――つまりは風力揚水ポンプの動力として使っていた風車のようだ――が壊れてしまった。調べてみるとその駆動部のケーブルが切れていた。父親に「何とかならんか?」と言われたレミーは、ふと思いついてこのホイルを持ち出し、ケーブルをつなぐためにこのホイルでグルグル巻きにしてみた。結果的にその修理はうまくいった。風車は以前と変わらず動き始めたのだった――。

・・・・・・とまぁ、そういう後日談が記されているワケなのだが、この本の中では、その井戸と風車の「それから」については書かれていない。「そういう証言があるんだったら、井戸のところ徹底的に調査すりゃホイル出てくるかも!」と思うのだが、そんなことをした形跡はない。要するにこの風車はそのあと放置され、やがて朽ち果ててしまったのではないか。とすれば、これ以上のことは分からない。

ついでに言っておくと、この井戸はレミー家のものではなく、ファウスティーノ家――つまりホセの家の地所にあったものだとする記述も一部にある。「いったいどっちなんだよ?」と思うワケだが、この件についてはレミーが父親と交わしたやりとりが比較的詳しく記されているので、おそらくはレミー家の井戸ということで良いのだろう。本書を読んでて、「この本ってちゃんと編集者のチェック入ってないんじゃないの?」と思うことはたびたびある(苦笑)。

        *    *    *

それから「エンジェル・ヘア」と呼ばれた物体も少年たちは手にしていた。こちらの物体も、やはり現場付近に散らばっていたのを彼らが拾ったものなのだが、それは「銀色の撚り線」「クリスマスツリーの飾りもの」「クモの巣」「断熱材」といった言い方で描写されている。要するに今でいう光ファイバー、あるいはコットンないしはグラスウールみたいなものが塊状になったヤツということなのだろう。ちなみにホセは「マッチの火で燃やそうとしたが燃えなかった」という証言もしている。このエンジェル・ヘアについては少年たちもかなりの量を拾ったらしいのだが、その多くは「クリスマス飾りに丁度いい」ということで近所の人に配ってしまったらしい。そして、今では全く残っていないというのは金属ホイルと同様である。

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  ネットで拾ってきた「エンジェル・ヘア」のイメージ写真(本文とは関係ありません)

【注】なお、UFOファンであれば先刻ご承知であろうが、UFOの出現にともなってクモの巣状の物体がフワフワと降ってくる現象は過去しばしば報告されており、この物体を業界では「エンジェル・ヘア」と呼んでいる。その辺を知ってか知らずか、この事件の関係者たちもナゾの物体についてこの呼称を用いているようだ。もっとも、ふつう「エンジェル・ヘア」はゼラチン状だったり、あるいは落ちてくるとほどなく昇華して消えてしまうと言われているので、そこのところはこの事件における物体とは違うもののようである


このほか、現場近くで墜落事件と関係のありそうな「鋼材」が見つかったという話もある。ホセの証言によれば、1956年頃に「ホセのイトコ」が、たまたま墜落現場の南西約4マイル地点で、長さ3フィートのI字型鋼材を発見したことがあるのだという。ただホセは1956年の時点では故郷を離れていたはずで、つまりこれはおそらく後になって「イトコ」から聞いた話かと思われる。そのせいなのか、このエピソードについての証言というのは細部がハッキリしない。ついでに言っておくと「ホセのイトコ」は拾った鋼材をスクラップに売り払ってしまったという話になっている。従ってこのブツについても追跡は不可能である。

というわけで、事件にまつわる「物証」として現存しているのは、けっきょく怪しげなブラケットだけなのだった。こうなると残る手がかりはやはり「証言」や「状況証拠」しかない。その辺はいったいどうなのだろう。ホセとレミーの言うことを我々は信用していいのか? 他に傍証となるようなことを語っている人はいないのか? 次回はその辺のことを考えてみたい。(つづく

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