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「国民の知る権利は、ロシア人の知る権利なのだ。ロシア人は、我々の新聞や雑誌、技術関係の刊行物を非常に注意深く読んでいる」
――CIA長官リチャード・ヘルムズ(1978年のデヴィッド・フロストによるインタビューで)
「変な話過ぎたかな?」とウォルトは尋ねた。「いいや、でももう十分な話は聞けたから……」
「変な話が過ぎたんだな、悪かった。たまにこうなるんだよ。この話は変なことだらけだからさ……」
在野のUFO研究家でオレなども若干おつきあいのある小山田浩史先生から、このほど妖怪マニア界隈の方々が作っている同人誌「南瓜」(亀山書店)のご恵投を頂いた。この雑誌には小山田先生が「南米円盤魔界紀行 エンバウーラの章」なるUFOエッセイ――というか論考を寄せており、「アンタもこれ読んでちったぁ勉強せいや」ということかとは思うけれども(笑)ともかくありがたやということで早速拝読させて頂いた。まぁ何かお返しがしたいところだが実際は何もできん。ここはご厚意にこたえるべくせめて感想文でも書いて僅かなりとも恩返しができれば……ということで今このエントリーを書いている。
小山田先生のことを知らん人のためにココで簡単な紹介をしておこう。この方はもともと民俗学・文化人類学が専門で大学院にまで行ったというインテリである。ウワサでは大学でUFOをテーマにした論文を書こうとして指導教官にうしろから羽交い締めにされて止められたという武勇伝があるらしく、要するに筋金入りのUFO者。生業は別におありのようだが、ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)という民間団体のメンバーとして『UFO事件クロニクル』(彩図社)といった本に怪事件の紹介記事を書いてたり、あるいはNHKの「幻解!超常ファイル」で栗山千明様にジャック・ヴァレについて講義するという輝かしい経歴(笑)もお持ちである。
ちなみに小山田先生のスタンスはフツーのUFO研究家とは若干違う。先のASIOSのメンバー紹介のページをみると「大学・大学院で民俗学・文化人類学を学んだことにより超常現象を『「ある/ない(いる/いない)』だけでとらえず、人間や社会にとってどのような意味があるのかといったことまで含めて眺めて楽しむ視点を得た」とある。コレをオレ流にいいかえると、小山田先生は「UFOの正体は何か」といった問題はひとまず脇に置き、むしろ「そのような現象を体験し報告してきた人間とはいったい如何なる存在なのか」といった問題意識からUFOにまつわる出来事を捉え直そうとしているのだろう。
こういうアプローチは「UFO肯定派と否定派がゲキトツ!」みたいなテレビ番組でよくみる安直なフォーマットからは外れているが故になかなか理解されにくいとは思うのだが、これはUFO現象というのは畢竟一種の宗教類似現象なのではないかと考えているオレにとってもとても共感できる。そういう意味で、小山田先生にはフレイザーの『金枝篇』のUFOバージョンみたいな大きな仕事をいつかまとめていただきたいものだとオレは常々思っているのだった。
具体的にいえば、ここで俎上に上げられているエンバウーラ事件について国内で流通しているストーリーというのは以下のようなものだ。
1969年2月6日の朝、ブラジルのピラスヌンガ市でティアゴ・マチャドなる19歳の青年は遠くに降下していく物体に気づき、近くまで行ってみた。すると着陸した物体からは宇宙服にヘルメット姿の「宇宙人」が出現。いろいろやりとりもあったようだが、この小柄な宇宙人は「エンバウーラ!」と叫んでからマチャド青年を光線銃で銃撃。あわれマチャド青年は気を失ってしまった――。
ナゾの宇宙語(?)である「エンバウーラ」という言葉がなかなかに印象的である。であるが故にこの事件は「エンバウーラ事件」という戒名をつけられたのだが、さて、実はココで困った事態が生じてしまう。肝心かなめの「エンバウーラと叫んでから撃った」というパートであるが、改めて調べてみるとどの海外文献を漁ってみてもそんな話は全然出てこない。となると、この事件を日本に紹介した人物の捏造が疑われる。その人物の名は超常現象モノで知られたライターの中岡俊哉! やはりコレは怪人物・中岡のやらかしなのか? と、そこに急遽もうひとつの「エンバウーラ事件」が浮上し……!?
……とまぁこんな感じでナゾ解きは進んでいくワケであるが、ネタバレになってしまいますのでここから先は現物をどうにかして入手してお読みください。
で、結論を秘したままでイロイロ言ってもよくわからんとは思うのだが、コレ読んでオレが感じたのは日本のユーフォロジーの後進性みたいなものである。
要するに、日本においてUFOというネタはもともと中岡とか黒沼健みたいな怪奇作家やライターといった人種が先導して移入してきたものである(むろん研究家という人種もいたが社会的影響力でいえばあまりにも微力だったろう)。いやもちろん本場アメリカでも雑誌屋のレイモンド・パーマーあたりが「面白い読みもの」という文脈で最初期のUFO話の流布に尽力したという事実というのはあるのだが、単なる面白ネタを超えた問題として軍部だとか科学者とかがやがてこの界隈にクビを突っ込んでいったのもまた事実。比較すると、どうしても日本では「面白ければヨシ」の風潮がなかなか抜けない。だったら筆の立つ読みものライターが主戦場に出るし、テレビでもバラエティ番組のネタとして消費される。イロイロと問題が起こる。そういうことではないのだろうか。
とまぁ別に小山田先生がそんなことを言いたかったワケでもないとは思うけれども、今回の論考からもUFOをめぐるあれやこれやを考えさせていただいた。それと、どうやら先生は今回ポルトガル語の文献なども入手してイロイロと調査をされたようであり、そういう真摯な姿勢は我々も見習いたいものである。次回作も頑張ってください。(おわり)