銀座はいいソバ店がない、と聞く。

というか、俺にいわせれば東京のソバ屋というのは、総じてダメである。名店という名をほしいままにする某「KYそば」とか、いわゆる食通の褒める店はたしかにあるのだが、俺のソバ観からするとああいうのはもう失格。

なんかザルの上に箸で2回ぐらいたぐるとなくなってしまうソバがのっていて、厳選素材貴重品デアルカラ心シテ食イナサイ的な偉そうな構えで出てくるのがまず気に入らない。しかもそんなものでけっこうな銭をとる。

ソバなんて、しょせん痩せ地でも育つ主食の代用品ではなかったのか。なんかどこで勘違いしちまったのか、「ヌキで一杯飲んで締めにザルをちょいとすすって帰るか」みたいな通人好みの食い物になっちまったから、江戸のソバはダメなんである。そもそもあんな二口ぐらい食っても、ウマイかどうかなんてよくわからんのではないか。もうそこで問題外なのである。客をなめとんのか、とさえ思うときがある。

というのも、まぁ俺の出自にかかわるところがあるのだろう、俺は信州の生まれで、つまりはソバどころの産、近年では都会人向けの気取ったソバ屋もけっこうあるやに聞くが、もりもりガツガツ食うのがソバである的な、古き良き田舎ソバの文化がなお命脈を保っておる。そっちが正統なのである、と俺は強く主張したいのである。

もちろんそういう田舎ソバの系譜というのは各地にあるはずで、たとえば俺がかつて2年ほど暮らした山形もまさにそういう伝統を墨守する地域であった(大石田の七兵衛そば、であったか、1000円払えば食べ放題ということで、何か古民家の広間みたいなところに客を並べて、ゴツイ手打ちそばを供するという驚異的な店さえあった。今もあるのだろうか?)

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で、本題に戻るのだが、その手のソバ屋が銀座にあった。「山形田」という店で、山形の板ソバ系の黒々としたそばを食わせてくれる。どうやら山形の青年会議所かなんかが、山形ソバを知ってもらおうという趣旨で開いた店らしい。本日昼飯を食いに初めて行ってみたのだが、入り口に券売機(笑)というのも、このクソ気取った江戸ソバ文化に反旗を翻しているようで痛快ナリ。蔵王冷やし地鶏そば(730円)。よそ様の撮った写真を転載しておくが、これは並盛り。冷たいソバは大盛りにしても値段が変わらないのも良し。

まぁ旨さでいえば本場で食うそば、というわけにはいかんだろうが、今後愛用したいと思う。好ましい店であった。