なんか軽そーな作りの本なんだが、ついついタイトルに引かれて買って読んだ。で、けっこう当たりであった、この本。

長谷川英祐「働かないアリに意義がある」(メディアファクトリー新書)


働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

  • 作者: 長谷川 英祐
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2010/12/21
  • メディア: 新書



ハチとかアリみたいにして「社会」を構成している生物を「真社会性生物」というんだそうだが、その研究をしている進化生物学者が軽いタッチで書いた啓蒙書である。で、「アリとかの社会にはあんまり働かない連中が一定数いる」という、どっかで聞いた話があるわけだが、その辺を突破口にして社会をもつ生物の世界について説明している。

まぁこの手の話を擬人化して語るのは正確さを欠いて本当はいかんのだが、あえてそうやって説明させていただくと、こういうアリたちには個体差があって、ある程度の刺激があると「おぉ、これは働かないといかんぞ!」とかいって働き出す個体がいる一方で、「ん? そろそろ仕事しないといけないのかなー」とかいってボヤボヤしてるうちに作業終了になってしまって、結果、仕事をしないで終わってしまう連中もいるのである。

しかしながら、こういう仕事をしない(というか、仕事にありつけない)個体がいるということは、逆に言えば、その社会には「ゆとり」というか「遊び」がある、ということでもある。仮に全員が全員、一気に「働くぞー」とかいって動き出してしまう社会があったとする。で、みんなが一緒に疲れ切ってしまったところへ、「これ処理しないと大変なことになる!」みたいな別の仕事が舞い込んだとしたらどうするか? 誰も働き手がいなくて大変なことになってしまうのである。

だが、反応が遅くて、あとからノッソリ動き出すようなヤツが、疲弊してないまま残ってたとしたら? そう、彼は組織にとって救世主になれるんである。

ということで、社会を作っている生物というのは、実は組織の中にヘンなやつがいたほうが、環境がガラリと変わったりしたときでもリスクヘッジになったりするわけで、平時は「使えない」みたいに思われてるヤツにも意外に存在意義があるんだよね、それは高度に進化した生物――人間なんかの社会にも言えそうだよね、みたいな読後感を抱いたりするのだった。

むろんそれは、企業社会の中で、「何か最近の俺、くすぶってるなー」的な気持ちを抱きがちな自分自身を念頭に入れての感慨でもあるわけだ(笑)。「働かないアリ」というのは、別に働きたくないわけじゃない。ちょっと要領が悪くて、いいタイミングでピシッと仕事を決める、そういう才覚がないだけなんだよね。そういって自分を少し慰める。で、こんな俺でも、それでもいつかひょっとしたら何かで貢献できる場がでてくるかもしれない、と思う。

とまぁ、そんなわけで、ちょっと風呂敷を広げていえば、どんな人間でも、生きてること・そこにいることだけで、すなわち意味がある、ということになりますか。ちょっと元気をもらえた1冊。