自称超能力者のユリ・ゲラーが1970年代はじめに来日した時、テレビの生放送で「止まっている腕時計を取り出して握っていてください。念力を送って動かしてみせますから」と視聴者に呼びかけた。しばらくするとアラ不思議。全国から「時計が動いた!」と電話が殺到。「さすがユリ・ゲラー!!」という話になった。

しかし、よく考えれば何のことはない。当時の腕時計は機械式。視聴者が持ち出した時計の中には、油が回らなくなって止まっていたものもあったと思われるのだが、それを手の中で温めていたら、たまたま動くようになるものが出てきて当たり前。仮に全国各地で百万世帯がテレビをみていたとして、その中で時計を持ち出した家庭が100軒に1軒、さらにその時計が100個のうち1個という割合で動き出したとしたら、全国でカチコチいいはじめた時計は計100個。まぁ別に電話が殺到してもおかしくはないのである。――とまぁ、細部はやや違っているかもしれないが、こんな種明かしをどこかで読んだ記憶がある。と学会の本だったかな。失念。

こんな話をするのは他でもない、原発の放射線絡みで各地の人々の体にさまざまな「異変」が起きている――「鼻血を出す子が増えている」とか「出産が予定より早まる人が増えている」とか――みたいな話を蒐集してきては「起きていることをそのまま書いている」などといってネット上から広めてる人がいて、「あ、これ、ユリ・ゲラーのパターンと似てるよなー」と思ったからなのだった。

そりゃあ、そこそこ名の知れた人が「身に覚えがある人はご連絡を」なんて一般大衆に呼びかけたら、その手の話はいくらでも集まるって。血液型による性格判断をやってる人が、自分の本の読者にアンケートにこたえてもらって、「ほら、このアンケート結果みてよ。性格判断当たってるでしょ!」みたいなバリエーションもある。これは山本弘氏の本に書いてあった。でもそれじゃ全然「真実」に近づけないんだよなー。

ま、血液型とか念力とかなら笑い話で済むにしても、放射線絡みでその手の「都市伝説探し」みたいなことをするのはちょっとヤバイのではなかろうか。放射能は「正しく怖がる」ことが大事だというんだが、この種のノイズを排除していくことはとても大事だと思う。