以前の拙ブログでもふれた、朝日三面の「プロメテウスの罠」が「関東圏でも放射線によって鼻血や下痢といった症状が出てきている」説を紹介していた件であるが、本日朝刊で再びその話題に触れている。

前田基行記者は、被爆二世の人に原発事故による内部被曝を案じる発言をしてもらったあとで、こう書く。

しかし、鼻血や下痢を原発事故に結び付けて考えるのは「非科学的」といわれる状況だ。

でもって、政府の「低線量被曝のリスク管理に関するワーキンググループ」について、「低線量被曝の健康影響に否定的な見解の研究者が多すぎる」という理由で日弁連が即時中止を求める声明を出した、という話がでてくる。ここで尾藤廣喜弁護士のこんなコメントを使っている。

「まずは被害の実態を把握しなければ始まらないでしょう。加害者側や行政側に被害の線引きを絶対にさせてはいけない」

うーん。またまた唸ってしまった。確かに低線量被曝の実態はよくわかってないので要注意ですよ、というのは、一般論としては至極尤もな議論だ。後段の日弁連のワーキンググループ批判も、それ自体決しておかしい話ではない。

ただなぁ、前段で「関東圏での鼻血や下痢は原発事故と関係ないとはいいきれない」という勇気ある主張(笑)をしているから、残念、全体を通して読むと実にトンデモっぽい議論になってしまった。

つまり、オレが読む限り、この前田記者はこういう主張をしているようにしか思えない。

「低線量被曝というのは油断がならない。これまでは何年もあとになってガンになる確率が高まる、という危険性が指摘されていたんだが、実は関東圏での被曝レベルでもたかだか数ヶ月で鼻血やら下痢やらの急性症状が出てくる可能性がある! これは大変だ!」

そりゃね、可能性だけっていうんなら、宇宙人が地球に来てる可能性だって、否定はできないさ。問題はそういう問題を提起するに足る必然性があるかどうかだし、「ある」と思うんなら、ジャーナリズムがまずやるべきことは「ホントに首都圏で鼻血や下痢が増えているかどうかを正しく統計的に検証する」ことでしょうーが! こんな評論家みたいな記事を書いてる場合じゃないでしょ? 先の記事でもこういう風に書いてるでしょ、「まずは被害の実態を把握しなければ始まらないでしょう」って(もっとも、新聞記者って統計の読み方ほとんど知らんからこれって無いものねだりかな?)

いや、オレも内部被曝への警鐘を鳴らすという、この企画の狙い自体はとてもいいと思ってるよ。ただな、こういうトンデモっぽい議論をまぜこむと一気に信頼性が下がっちまう。逆効果だ。そりゃ「子供たちの間でいきなり激しい鼻血が出る事例が頻出してる」みたいなイメージすり込めば、読者の食いつきはよくなるだろうけどさ、そういう現象の多発を示唆するデータ(言っとくけどウワサじゃダメだかんねw)がないかぎり、こりゃ無理筋だと思う。

というわけで、あえて厳しい言い方をさせてもらうが、この記事は「新聞はこういう煽り方をしてはならない」という良い実例だろう。NIEとかいうなら、こういう記事を取り上げて批判的に検証するような試みこそが教育的であるような気がするな。