詩心など皆無なのだが
山之口貘と高橋新吉は好きで
あと、イレギュラーに会田綱雄の「アンリの扉」を口ずさんでいた頃もあったなぁ

さわりだけでもちょっと紹介。




「アンリの扉」会田綱雄

摩天楼のてつぺんの
その扉のまえで
さんざんためらつたあげく のはてに
ノックもせず
アンリはいつもひきかえす
エレヴェイタアがきらいで
かれはそこまであるいてのぼるから
もういまにもたおれそう
それでも歯をくいしばり
アンリはいつもひきかえす
靴音をたてないように
あらい息づかいをおさえながら
それこそやつとの思い
アンリは摩天楼の玄関におりたつ
そして
こんどこそほんとうにたおれてしまう
ゆうぐれ
しめつた風がふきこんでこないとすれば
そのまま参つてしまわないともかぎらぬ
さいわいアンリが気がつくころには
摩天楼の玄関をまさにとざそうとする
重つくるしい鎧戸のきしめき
あわてて飛びだしてから
アンリは街路でふりかえり
もういつぺん摩天楼をみあげる
夜になりはじめる空に
それはのびあがりせりあがる
そして
かの扉のあるてつぺんのあたりすれすれに
はやくもまたたきひかるものの
なんといううつくしさ
アンリはわれをわすれてみほれる