■ジャック・ヴァレ(1939年~)
フランス・ポントワーズ生まれの世界的なUFO研究者で、スティーブン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」でフランソワ・トリュフォーが演じたフランス人科学者のモデル。天文学者、ベンチャー・キャピタリスト、小説『亜空間Le Sub-Espace』でフランスのジュール・ヴェルヌ賞を受賞したSF作家としても知られる。
1954年にヨーロッパで起きたUFOの目撃ウェーブを機に、UFOに関心を抱く。パリ天文台に一時勤務した後、1962年に渡米。ノースウェスタン大でコンピュータ科学の博士号を取得するなどの活動を続ける一方、J・アレン・ハイネックとの交友を深める中で本格的にUFO研究を始める。妻ジャニーヌとの共著『科学への挑戦
Challenge to Science』(1966年)でUFOにかかわるデータの統計分析に取り組むなど、当時は科学的な方法論に依拠したアプローチで知られていた。
ET仮説については当初肯定的な姿勢を取っていたが、1969年に刊行した『マゴニアへのパスポート Passport to Magonia』で、ヴァレはそのスタンスを一変させる。同書では、民俗学・宗教学的な知見を援用して、西洋における妖精や精霊の伝承とUFO現象の類似点を指摘。UFOは歴史を超えて人類が体験してきた奇現象に類したものだとして、一転してUFO=宇宙船説を否定する議論を展開した。
有力研究者であるヴァレの「転向」は、ET仮説が主流の米国では一大スキャンダルとなり、多方面から批判を浴びたものの、ヨーロッパのUFOシーンにおいては総じて好意的な評価を受け、UFO研究における「ニュー・ウェーブ」という流れを作り出す上で大きな役割を果たした。
次いで1975年に刊行した『見えない大学 The Invisible College』では、UFOとサイキック現象との関連性を指摘するとともに、「コントロール・システム」というユニークな概念を提唱する。室温を制御するエアコンのサーモスタットのように、「UFOは人間の信仰や意識をある方向に誘導する働きをしている」という主張である。そのコントロールを意図している主体が何者かは明示しておらず、いささか思弁的な議論として批判も多いが、単純なET仮説に甘んじることのないヴァレの真骨頂を示すものである。
このほか、『欺瞞の使者 Messengers of Deception』(1979年)、『レベレーションズ
Revelations』(1991年)などの著書では、UFO現象をよこしまな活動の隠れみのとして利用しようとする組織の存在について考察を加えた。こうした一種の陰謀論もヴァレにとっては重要な一つのテーマであるが、その主張には論拠が乏しいとの批判もある。
その後はUFO研究から距離を置いた時期もあったが、2010年には古代から1947年までのUFO類似現象をカタログ化したクリス・オーベックとの共著『ワンダーズ・イン・ザ・スカイ Wonders in the Sky』を刊行。2021年にはイタリアのジャーナリスト、パオラ・ハリスとの共著『トリニティ Trinity』を出版した。同書は1945年8月、米ニューメキシコ州に未知の飛行体が墜落し、搭乗者ともども米軍によって回収されたという触れ込みの「サンアントニオ事件」を検証したもので、ヴァレはこの事件は現実にあった可能性が高いと主張。墜落物体を異星人の宇宙船とみなす立場からはなお距離を置きつつも、いわゆるUFOの墜落回収事件には懐疑的だったヴァレがそのスタンスを変えたことで大きな話題となった。ただし、同事件をめぐる関係者の証言には疑問点も多く指摘されており、軽挙妄動しない冷静なスタンスで知られたヴァレの「変節」を危ぶむ声も多い。現在は米サンフランシスコ在住。
邦訳書に『人はなぜエイリアン神話を求めるのか』
(竹内慧訳、徳間書店、1996年:原著は「Revelations」)、アレン・ハイネックとの共著『UFOとは何か』 (久保智洋訳、角川文庫、1981年:原著は「The Edge of Reality」)、『核とUFOと異星人』(礒部剛喜訳、ヒカルランド、2023年:原著は「Trinity」)。小説としては『異星人情報局』 (礒部剛喜訳、創元SF文庫、2003年)がある。
注:なお『人はなぜエイリアン神話を求めるのか』『UFOとは何か』の著者名表記はジャック・ヴァレー
■主な参考資料
・Jacques Vallée『Forbidden Science: Journals 1957-1969 2nd Edition』(North Atlantic Books, 1992)
・Jerome
Clark『The UFO Encyclopedia』2nd
edition(Omnigraphics Books, 1998)